作/井上ひさし
演出/段田安則
出演/稲垣吾郎、貫地谷しほり、段田安則、渡辺えり、西尾まり、鈴木浩介
三谷幸喜さんの「ろくでなし啄木」は、啄木の青春時代という感じでしたが、これは啄木が結婚して家庭を持った後の家族の物語でした。抜け出すことのできない貧困、嫁姑の確執、破滅型の実父、妻の不貞疑惑に家族を襲う病・・・・こう書くと暗い人生のようですが、ささい(でもないか)なことから蜂の巣をつついたような大騒ぎになる嫁に姑に舅に妹チームと、その騒動を見ないようにシカトを決め込む啄木、啄木を心から尊敬し、援助を惜しまない親友金田一京助の友情には、思わず笑ってしまう場面がたくさんありました。
・・・・・だって、井上ひさし作品ですからね。
稲垣吾朗さんをはじめ、6人のキャストはほぼ出ずっぱりで、段田さん、西尾さん、鈴木さん、渡辺さんは2役。段田さん、西尾さんはイギリス人役までこなします。段田さんはもちろんのことですが、渡辺えりさんと鈴木浩介さんがすごいです。渡辺さんと貫地谷さんの嫁姑の闘いに妹の西尾さんが絡み、更に段田さんが絡み、そこに金田一の鈴木浩介さんが焼き芋持って登場し・・・・の場面はなかなかすごいものがありました。稲垣さんの舞台は初めて見ましたが、声も良く出ていましたし、何よりどんな演技でも品が悪くならないのはお人柄でしょうか。泣き虫でもなく、なまいきでもなく、母に溺愛されたが故のマザコンに見えました。人たらしですが、少なくとも自分で人生を切り拓くタイプでないことは確かだったかも。ほぼ全員がマシンガン・トーク状態。台詞の量は半端ではありません。やっぱり井上先生の戯曲って、シェイクスピアに似てるかも・・・などと、ふと思いました。言葉の洪水なのに、印象的な言葉がたくさんありました。
啄木の母、啄木、嫁の節子、みな肺を患い、死に向かうことをそれとなく気づくあたりが胸にせまります。
「残された時間があと少しだとわかると、皆こんなに優しくしあえるのになぁ」という啄木の言葉が心に残りました。
段田安則さんの演出作品は「夜の訪問者」に続き2作目。今回もとても丁寧さが感じられました。ひとつの作品で演出と出演、どうやって?と思ったら、ご自分の出演場面には最初のうち代役を立てて、全体像を把握してからご自分の演技プランを練るそうです。 さすが段田さん。日本演劇界の至宝と言われるだけあります。
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