出演:中井貴一 宮本信子
あらすじ
ノンフィクション作家・沢木耕太郎は、未亡人・ヨソ子に一年余の綿密なインタビューを重ねる。取材の過程で、ヨソ子は初めて私小説といわれる「火宅の人」を通読する。「そんなふうに思っていたんですか・・・」ヨソ子は、戸惑い、激しく動揺する。しかし、沢木と語るうちに「私は【愛人に夫を奪われた可哀そうな妻】ではなかった」と、思いがけない感慨に辿りつく。無頼派作家夫婦の、愛と痛みが胸を打つ。
「乳房」に続く、りゅーとぴあ発・新シリーズ「ふたりものがたり」の第2弾。
この本を読んだのはもうずいぶん前のことだったので、今回の企画では中井貴一さんが檀一雄で宮本信子さんがヨソ子さんだと思い込んでいました。。。が、中井さんはインタビュアーの沢木耕太郎さんの役でした。(時々檀氏にもなります)
中井さんは客席通路後方からゆっくり登場です。一瞬これがトート閣下だったら・・・と思ってしまった私はビョーキです。はい。
それはさておき、本当におふたりが素晴らしいです!手に台本持ってるからリーディングだと気づいたのはかなり進んでからで、まさに名優おふたりの名演技でした。
自ら家庭を捨て愛人に走った顛末を赤裸々に綴った「火宅の人」の出版で、作家が亡くなっても何不自由ない生活ができているものの、この作品によって何度も苦しい思いをさせられたヨソ子夫人の苦悩と悲しみが痛いほどでした。
最愛の次男を日本脳炎で亡くし、その一年後に夫である作家が愛人と「事を起こす」。そのことを堂々と妻に告げる。。。
「そんなことで家庭を破壊するつもりはないんだ」
「もう破壊しているじゃありませんか!」
「純文学のようなことを言うな」
このやりとりに、夫婦の、というより男と女の感情のずれを思いました。妻にとっては、夫が別の女性と「事をおこす」そのこと自体がもう「破壊」であるのに、夫にとっちゃただの遊びだから別に家庭をどうのってことじないってことなんでしょうかね。
女性にとってはそうはいかない。その上、ヨソ子さんは、「火宅の人」が世に出たことによって、「夫を愛人にとられた妻」のレッテルを貼られ、本当に苦しかったことでしょう。
それでも、肺がん告知をされる直前に、夫を追って行ったポルトガルでの日々を懐かしそうにかたる姿が少女のようでした。
「火宅の人」の最後は作家が病床で口述筆記によって仕上げられたそうです。
煮え湯を飲まされたような辛い日々だったというのに、と、きっぱり最後の最後、ヨソ子さんが「檀は、私の全てでした。」と、きっぱり言い切る姿にほろりとさせられました。男と女って、なんなんでしょうね。。。
このインタビューをまとめあげて沢木氏が「檀」を書き上げたことによって、ヨソ子さんは自分の中の「檀」を吐き出すことができたとおっしゃっていました。沢木氏の、「閉じ込められた姫君を助け出すような気持ちだった」という言葉が印象的でした。
ヨソ子さんはあんなに辛酸をなめさせられたというのに、初めて檀一雄氏に出会ったときの「背が高く、颯爽とした印象」をずっと変わらず持ち続けていたそうです。本当に大好きだったんですね。
そんなヨソ子さんも、昨年92歳の生涯を閉じられたそうです。合掌。