蕎麦屋の主人は、「ルートヴィヒ.神々の黄昏」を、
結局二度見たそうだ。
四時間あまりの作品だから、計八時間。
相当な集中力が必要だ。
年が年なのに、本当よく、だ。
相当昔の作品なのに、ちょくちょく登場するヴィスコ
ンティの「神々...」(長いのでこの表記で)。
何故かというと、それなりの訳が。
この映画、自分にとっては記念碑的な作品だったのだ。
これを見る以前は、所謂普通の映画、たとえば「エイ
リアン」「ロッキー」など話題作を映画館で見て「あ
あ面白かった」などと感想を漏らす一般的映画ファン
であった。
それがある時、多分そういうのが好きな人間が薦めて
いたのだろう、それか新聞かなにかで紹介してたのか
もしれない、兎に角興味を持ち始め、たまたま近くの
映画館でこれを上映することになった。
今でも忘れない、三鷹の名画座的映画館だ(その割に
は正確な名前忘れてる)。
見る気満々だったので、勇んで行った。
そして、結果的にこの作品が、その後の映画の嗜好(志
向)を決定付ける、記念碑的作品として記憶に深く刻
まれることとなったのだ(ちょっと大袈裟)。
映画は娯楽作品だけではない、という事実を知ったそ
の後は、積極的にそういう作品が見たくなる。
今思えば、この段階が一番意欲的で楽しい時期だった。
なんせ、対象が五万とあるのだから。
殆どが未知な世界。
映画に限らず、未知なものを知る喜び、感動の原点。
しかし、それも長くは続かなかった。
東京から離れなくてはならなかったから。
単なる思い出話も、こうやって書くともっともらしく
なるなあ、というわけで、続く。