日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

電子書籍端末にみるソニーの“同じ轍”

2009-08-26 | ビジネス
またソニーがらみの話です。

ソニーは25日、ワイヤレスで電子書籍をダウンロードして閲覧できる電子書籍端末「リーダー」の新製品「デーリーエディション」を399ドル(約3万8千円)で12月に米国で販売開始すると発表しました。電子書籍端末とは、書籍を紙媒体でなく電子媒体として読む機械であり、アマゾンが07年に発売した「キンドル(=写真)」がその代表格です。そもそもはこの分野、ソニーが先行して04年にまず日本で端末「リブリエ」を発売。しかし、普及せず07年5月に撤退。06年秋から米国で初代「リーダー」を売り出し事業の足場を移したもののまたもや思うように普及せず、苦戦を強いられてきました。そんな中、後発アマゾンの「キンドル」がデータ取り込みの簡便性などの機能面の充実が受け、07年の発売以降急速に注目を集め、今年2月発売の新バージョン「2」も好評のうちに順調に市場拡大しているのです。このあたりにまたもや、ソニーの開発力の弱さが漂っているのです。

電子書籍と言うものは、ソニーが90年代前半から「電子ブック」として国内で開拓をしてきた新領域でありましたが、パソコンの普及もあって思うように伸びず今や自然消滅状態。要は紙=活字文化が強く根付いている我が国においては結局根づかず、早々に淘汰されていた分野だったのです。商売柄、本の購入量はかなり多い私ですが、どうもこの手の商品には触手が伸びません。日本人的なのかもしれませんが、、全体感がつかみにくいというか、私の購入書籍の大半を占めるビジネス書では、パラパラめくって気になったところから読むという読み方がけっこう有効で、そのやり方がどうもやりにくいという点につきます。

読めればいいというアメリカ的な合理主義の考え方とは相いれない訳で、日本での普及はかなり疑問に思っています。「電子ブック」の時代に持っていたので、良く分かるのですがおよそ日本人文化にはなじまない商品かなと思います。「キンドル」が普及したのは、アメリカ人の合理主義に加えて国土が広く本屋に行くにも何十マイルも車を走らせるのが当たり前というアメリカ的背景を受け、日本とは少し違う理由で急成長したネット最大の書店アマゾンが始めた商品・サービスであるという点が、かなり大きく影響したと言えるのではないでしょうか。とは言いつつも、現時点で電子書籍販売は全出版販売数の1%程度とごくごくシェアは小さく、まだまだこれからの市場であります。「キンドル」が日本でも普及すれば出版業界は大きく変わることになりますが、果たしてどうでしょうか?私にはどうしても紙で作られた書籍が電子書籍にとって代わられるとは思えないのですが…。

それはさておき、話をもどしてソニーです。
開発で先行していた商品が、後発のライバルに“中身”で差をつけられ、追い抜かれてその真似をしつつ背中を追う展開。似たような光景を見た覚えがありますよね。そう、アップル社のipodに並ぶ間もなく抜き去られた携帯音楽プレイヤーの世界、任天堂wiiに大きく水を空けられたゲーム機器の世界です。また同じことを電子書籍端末の世界でしようとしています。すなわち価格をライバルと同じ水準にまで“値引き”し、コンテンツ勝負で巻き返しを図る。いかにもハリウッド・ビジネス出身のストリンガー氏らしい展開です。同じ轍を何度も何度も踏もうとしているかのようなこの戦略は、経営の戦略的行き詰まりを象徴している事に他ならず、戦略的破綻の末期症状であるように思えてなりません。

それともうひとつ、「SONY」は日本が世界に誇る“メイド・イン・ジャパン”ブランドであり、例えトップがアメリカ人になりどんなに企業の国際化が進展しようと、やはりフランチャイズは日本であるハズなのです。そのソニーが日本で受け入れられず撤退した商品を海外で再展開する、この点にもどこか違和感を覚えずにはいられません。ソニーは今回の発表に際しても、「日本での販売は考えていない」とハッキリ断言しているのです。

私がソニーのことをしつこく取り上げ続けるのは、同社がトヨタと並ぶ日本が世界に誇るナショナル・ブランドであり、その業績回復が日本経済の回復へも少なからず影響を及ぼすであろう存在であるからに他なりません。ソニーの“迷走”がいつまで続くのか、その回答が得られない限り、景気の本格的回復はまだまだ遠いように感じられます。

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