日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

大丈夫?性急過ぎる“政治家主導”政策策定スキーム移行

2009-09-16 | ニュース雑感
いよいよ民主党による新政権がスタートしました。
新政権にからむ一連のニュース報道の中で、私の気になる点をひとつあげさせていただきます。

民主党が掲げる“霞が関改革”、「官僚主導→政治家主導へ」を旗印に新政権スタートと同時に早くもメイン施策が動き出すようです。今週月曜日の報道では、閣議決議事項を事前に決める「事務次官会議」が123年の歴史に幕をおろしたとありました。これまさに、民主党新政権下では政策決定は官僚主導から政治家主導に変更するという流れによるものです。すなわちこれまでは、官僚が議論し官僚が政策検討を行いそこで作られる政策案が事務次官の手を通じて閣議承認を得る、事務次官会議は官僚の手による官僚の主導の政策決定プロセスの象徴だった訳です。民主党はこれを抜本的に変えようとしているのです。

民主党が作った新スキームはこうです。
大臣の下に複数の副大臣を置き、さらにその下に複数の政務官を置いてすべて政治家で政策案を策定し、政治家が政策を決めるという流れを作ろうというのです。政治家を100人以上政策策定に送り込むと意気込んでいます。なるほど、もしうまくいくのなら、これは日本の政治に革命的な変化を及ぼすことになるのではないでしょうか。ただ果たしてそう簡単に、うまくいくかです。私はそんなに世の中甘くないと思います。自民党が楽をしていたかどうかは別として、明治時代から脈々と続く政府政策策定における官僚主導支配の流れは、それなりのメリットがあってここまで来たものです。確かに老朽化による疲弊の弊害が目立ち始めた古い制度には見直しが必要なことも事実ですが、これほど重たく重要な問題をそんなに簡単に、ある意味思いつきのように変えにかかってうまくいくのか、ちょっと疑問です。

官僚改革はぜひとも成し遂げていただきたい重要な施策ではありますが、重要であればあるほど、改革の本丸に近ければ近いほど、慎重に時間をかけて手掛けるべきなのではないかと思う訳です。聞けば今回の民主党案、党内のどこぞの誰かが聞きかじった知識をもとに、英国の例を真似てみてはどうかと言い出したように感じています。管直人氏が6月に実際に英国を訪問して実態を視察し(この人は言いだしっぺかどうかは知りませんが…)、「成果を得た」として総選挙対策もあり“急ごしらえ”をした制度であると思えてなりません。しかも英国での官僚による国会答弁や記者会見を否定する暗黙のルールを日本にも適用すべきとして、事務次官会見廃止を示唆するような話まで飛び出しています。政権を取ったその証としてまずは目立つ行動ということなのでしょうが、いかにも過激な動きに映り少しばかり危険なものを感じています。同じ議院内閣制をとる国とは言いながら、英国との文化や政治史的違いを十分に検証したうえで慎重に検討しないと、思わぬ落とし穴があるように思えてなりません。

さらに今回の改革は官僚という“相手”のあるものです。しからば、“相手”の外堀から徐々に埋めていくなり、現状からスタートして段階的に変革を実行するなり、慎重な動きが不可欠に思えるのです。民間企業においても、“相手”のある改革、すなわち人事制度等の改革は基本は「激変緩和措置」をセットして進めるのがセオリーです。なぜなら、“相手”のあるものは“相手”が人間である以上「感情」という改革の本筋とは関係のないモノが大きく動くことで、改革案の善し悪しとは全く別の基準で失敗を招く方向にバイアスがかかりかねないからなのです。しかも今回の“相手”は政治家よりも数段「頭の良い」官僚たちです。そんなに安々と、大人しくされるがままになるとはとても思えません。

常識的には、出口たる天下り問題あたりから手をつけて、一応国民に対するパフォーマンスを整えつつ官僚への改革意識の浸透をはかり、政策策定プロセス改革は期限を区切って徐々に進めるのがいいのではないかと思っているのですが…。今回の進め方はプロレスで言うなら、開始のゴング直後にいきなりコーナーのトップロープに上って、かまわず相手めがけて体を預けるようなものです。弱ってもいない相手に、目立つからといっていきなりこんな技を仕掛けても自爆するのがオチですよね。早くも“官僚憎し”のせっかち“イラ管”の、訪英情報に基づく短絡的判断が“大失策”とならなければいいのですが…。「政府の混乱」は景気に悪影響を及ぼし、結果「国民の損失」に直結します。

蛇足ですが…
管氏が視察した英国では、与党幹部の多くが大臣として政府に入り、政治家が主導する体制がとられているものの、最近では政府の力が強くなりすぎ議会のチェック機能が低下する問題などが指摘されています。また、英下院の行政特別委員会は管氏が訪英した同じ6月に「正しい政府」と題した報告書を出し、23人の閣僚と70人以上いる閣外相(民主党案の副大臣に相当)について「度を越した数の法案がつくられ、政府の決断力や明快で一貫した方向性を弱めてしまう」と政府内政治家の数の多さを批判。政治主導の政策は「実績欲しさにメディア受けするような短期的なものばかりを打ち上げ、国民のためでなく自身の利益を満たすようになる」と英国スタイルの「失敗」を訴えているのです。民主党さん、“イラ管”さんの報告を鵜呑みにしての即行動、本当に大丈夫ですか?

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