日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

猫ひろしと日本の製造業

2012-03-27 | 経営
「宮尾ススムと日本の社長」みたいなタイトルになってしまいました。
芸人の猫ひろしが、カンボジアのオリンピック・マラソン代表に選出されたと報道され、賛否があちこちで闘わされているようです。私は特に否定派ではありませんが、今回の件を聞くに商売柄日本の製造業の海外進出の実態を思い浮かべてしまいました。

日本の製造業は戦後日本の経済成長を支えてきましたが、経済の成熟化と国際競争の激化の中で、コストダウンの切り札的に製造部門の海外進出を進めてきました。言ってみれば、アジアの発展途上国との経済水準格差を利用した自己利益の実現であったわけです。

猫ひろしの場合も言ってみれば同じ。スポーツにおける水準格差を利用して、“スポーツ発展途上国”で代表の座を手にするという裏技を使ったわけです。ネット上で繰り広げられる“猫バッシング”は、「そんな汚い手を使ってまでオリンピックに出たいのか」「軍国主義時代と同じ、アジアをバカにした日本の恥」「オリンピック精神を愚弄する行為」等々。それらの見方が正しいとは言い難いものの、一見するとそれはそれで言い得ている部分もあるのかなと思わされもします。果たしてどうなんでしょう。

私は、結論は今出すべき問題ではないと思っています。猫ひろしが今回のオリンピック出場を単に自己の利益のためだけに利用し終わってしまうのであれば、上記のような非難もその段階では受けて当然のものであるのかもしれません。しかし彼が、このオリンピック出場をひとつの契機として、カンボジアのスポーツ振興やその水準向上に資する活動を継続していくのなら、今回の件も含めて全く非難されるような問題にはあたらないのだと思うのです。

日本企業の海外進出もまた同じこと。安価な労働力を求めて90年代以降一斉に中国進出をした日本企業が、昨今の労働コストの上昇でこぞってベトナムやタイへとその拠点を移している姿を見るに、どうも首を傾げたくなるのです。もちろん進出段階で、自己利益だけではない雇用の創造や技術力の移植等の現地メリットは、ある程度確保されていたはずと思いますが。

私が知る、とある精密機器製造の中堅企業は、80年代からマレーシアに製造拠点を持っていました。業界のさまざまな事情があり2000年前後に工場閉鎖を決めたのですが、その社長の決断は、単なる閉鎖ではなく工場敷地の再利用でした。そしてはじめたのは海産物の養殖事業。目的は雇用継続の確保でした。「これまでお世話になった国や地域に対して、自己の勝手で利用だけして使い捨てるようなことは断じてできない」。素晴らしい経営者です。

日本の製造業が今韓国勢に劣勢を強いられている大きな理由の一つに、途上国をコストセンターとしてしか捉えてこなかったということもあげられています。現地をプロフィットセンターとして捉え、地域とのウイン=ウインの関係をいかに築きあげるのかという問題こそが、戦前の植民地化政策にも根差しているかのような日本企業のアジア戦略を根本から転換させ、真の国際化への道が開かれるのではないかと思うのです。

話が大きな方向に流れすぎましたが、猫ひろしにはぜひともオリンピックをスタートにした現地のスポーツ振興に腐心していただき、日本企業のアジア戦略にも一石を投じるようなあるべき国際化精神の象徴としての活躍を期待したいと思います。

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