日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「おくりびと」米アカデミー賞受賞の意義

2009-02-23 | マーケティング
日本映画「おくりびと」が米アカデミー賞の外国映画賞を受賞しました。

短編やアニメを除き作品そのものの評価として日本映画がアカデミー賞を受けたのは、「羅生門(51年黒沢明監督)」「地獄門(54年衣笠貞之助監督)」「宮本武蔵(55年稲垣浩監督)」以来の快挙です。しかも、前3作はすべて日本的歴史モノであり、“フジヤマ”“サムライ”的作品以外の本格実写モノ映画での受賞は史上初と言っていいと思います。その意味では、大変意義深いオスカー受賞だと言えるでしょう。

「おくりびと」は、「納棺師」という遺体を清め納棺衣装に着替えさせ“死に化粧”を施して“あの世”へ送り出す、特殊な職業を扱った物語です。葬儀を扱った過去の映画でのヒット作品と言うと、故伊丹十三監督の「お葬式」という映画が思い浮かびます。売れた映画、高い評価を得る映画は、常にその時代の風潮をしっかりと織り込ませているものです。「お葬式」が制作された84年は、ちょうど高度成長からバブル期へと向かう転換期に位置し、無条件に大量の物事を受け入れ続けた時代からモノの裏側や本質を探索する傾向が次第に強くなる時代への転換期でもあり、この作品はそんな時代背景を上手に取り入れた新しい映画の在り方を提示した作品でもありました。

「おくりびと」は「納棺師」という特殊な職業を題材として扱っていながら、“伊丹作品的”な舞台裏暴露モノではなく、「死」というものの本来考えるべき意味合いや「家族」と「死」というテーマにストレートに切り込み、かなりメッセージ色の強い作品に仕上がっています。切り込みのポイントとなっているテーマは、「ホスピタリティ」。機械的な発展を遂げた「高度成長期」や物欲に突き動かされ続けた「バブル期」を経て、「心根」や「優しさ」という概念がようやく人として大切なものであると気がつかされる時が訪れ、「ホスピタリティ」を正面から扱った作品が人々の心をとらえる時代がやってきた---。この映画のヒットの陰にはそんな時代背景があるのです。

アメリカを舞台としたアカデミー賞にまでこの作品の制作ポリシーが受け入れられた理由ですが、一昨年来のサブプライム問題に端を発し昨年秋のリーマン・ショックにより爆発した「米国版バブル崩壊」と、直情型リーダーのブッシュから熟考型リーダーのオバマに政権がバトンタッチされたことも、少なからず影響を与えているように思われます。少し大げさな言い方をすれば、アメリカ経済を中心とした世界的なトレンドが、新たな時代に入ったことの反映であると言えるのかもしれません。

「人として大切なもの」「心根」「優しさ」・・・すなわち「ホスピタリティ」は、好景気や高成長期には気がつかれなかったり、ついつい忘れられたりしがちなものなのです。いち早くバブル期とその崩壊を経験した日本であればこそ、今世界の国々に先駆けて全世界に向けて「ホスピタリティ」の重要性を語りかけることができるのではないでしょうか。「おくりびと」のアカデミー賞受賞は、そんな日本から世界へ向けた“心根のメッセンジャー”的存在として、真に胸を張れる素晴らしい出来事であったと思います。

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1 コメント

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陰謀!? (中熊猫)
2009-04-17 17:46:53
受賞させたのはインドと日本に金を出させる為の陰謀説が。。。
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