日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

携帯電話「SIMロック解除」~利便性向上に立ちはだかる“既得権ビジネスの壁”

2010-04-02 | ニュース雑感
総務省で2日、「携帯電話端末のSIMロックの在り方に関する公開ヒアリング」が開催されたそうです。携帯電話のSIMロックとは、携帯電話に他社の通信カードを装着しても利用できないようにしている仕組みのことで、もし解除されれば例えばドコモの通信カードを携帯から抜いてソフトバンクの携帯に入れかえても通話ができるようになるという、利用者にとっては画期的な改革なのです。この日、総務省の内藤副大臣は各通信キャリアからの意見を踏まえて、「事業者の話し合いでSIMロック解除に応じる取り組みを行っていただきたい」と要請。政府がガイドラインを作成する方向で年内のSIMロック解除に向けて動き出した模様です。

SIMロックは携帯電話事業の自由化に逆行し、これまで長年海外携帯キャリアおよび携帯メーカーの上陸を阻み続けてきたことで日本の携帯ビジネスのガラパゴス化をすすめ、結果国際競争力を低下させてきた元凶にもなったと言われています。これはまさに、旧電電公社であるNTTの子会社としてスタートしたドコモ、旧国際電電KDDを母体として発足したauという“官僚系”企業が作ってきた官僚的既得権型ビジネスな訳で、主にドコモ幹部と旧郵政官僚が入念に作ったその仕組みは、SIMロックを外すだけで一気に“ガラパゴス”が“大陸”に飲み込まれるように流れが変わるような、そんななまやさしいものではないのです。なぜなら“官僚系企業”がその既得権益を守らんとするがために、今回の事態も当然想定した上で、二重三重でのガードが施されていると言っても過言ではないからです。

その最たるものが、非オープンソース型のコンテンツ・アプリケーションの存在です。その代表はドコモの「Iモード」でしょう。すなわち、仮にSIMロックがはずされ“自由化”が進んだとしても、それはあくまで「通話」とそれに関連するサービスに限定されたものであり、ネット閲覧の機能やメール通信の機能はどこまでも各社独自形式が残る訳です。すなわち、auやソフトバンクの利用者が、SIMロック解除後にカードをドコモの携帯端末に差し込んだとことろで、使えるのは通話とそれに付随するサービスのみで、ネット閲覧やメール機能は使う事ができないのです。その逆もまた同様です。ドコモ、auからすれば「これならSIMロックがはずれても、大きく利用者が動くことはない」と踏んでいる訳で、今回の動きにも異様に理解が良いように見えるのはそんな理由があるのです。

となれば、焦点は携帯端末メーカーを通信キャリアからひっ剥がせるかと言う点に絞られてきます。すなわち、携帯端末をメーカーが独自開発し「家電」として販売。どこの通信キャリアの通信カードを入れても、通話・ネット閲覧・メールが自由にできるという方式に変更できるか否かという問題です。これを政府の「要望」としてガイドラインに盛り込めるなら、SIMロック解除が本当に生きてくる形になる訳です。しかしここで問題になるのは、これまで財力にものを言わせて、メーカーの新機種開発コストの大半を通信キャリアが持つことで、今の“おかかえメーカー制度”が成り立っている点です。通信キャリアと端末メーカーの切り離しは、メーカーの撤退も含めた大規模な業界地図の塗り替えにもつながることであり、メーカーを味方につけこの点を逆手に取った当局との裏折衝による“既得権確保”が行われる公算が高いと言わざるを得ないのです。すなわち、「利用者の利便性優先」を掲げたはずの自由化は、二重三重の“官僚的既得権堅持策”の前に、実質屈してしまうのではないかと思われるのです。

内藤総務副大臣は公開ヒアリング終了後「利用者の利便性最優先での、民間の本気度に期待したい」と話していたようですが、官僚体質企業に「利用者の利便性最優先での本気度」など存在し得ません。実はSIMロック解除の話は、ナンバー・ポータビリティの導入の際にも議論になっていながらあっさりと見送られており、通信キャリア各社の顧客利便性優先に関する“本気度”の低さは実証済みなのです。ようやく今回世論の盛り上がりでSIMロック解除の入口にこぎつけた訳で、政府総務省には二重三重のガードをすべて打ち崩し真に利用者が利便性の向上を享受できるようなSIMロック解除改革につながるガイドラインの策定に期待したいところでありますが、果たして…。

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