日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ユニクロに学ぶ不況下の「値ごろ感」戦略

2009-03-23 | マーケティング
ユニクロが絶好調です。2月の衣料品専門店売上を見るとこの大不況にあって、同社は前年同月比で4.2%増、09年8月期の上期締め9~2月売上では前年同月比12.9%増と二ケタの増収を記録するなどこの時期驚異的な好調を続けています。

不景気に強いと言われて久しいユニクロですが、同社好調の要因は大不況下の安価販売との短絡的考えは少々早計のようです。なぜなら、同じ2月の衣料品専門店売上で、ユニクロと並ぶ安価販売の雄であるシマムラが前年同月比9.2%の減収と苦戦を強いられているからです。ユニクロとシマムラ、その明暗を分けたモノは何でしょう。

ユニクロに関する日経MJの調査によれば、この一年でユニクロでの買い物を増やした人は全体の約2割で、ユニクロの「品質が良くなった」34%、「おしゃれでデザインが良くなった」35%と、3割以上の人がユニクロの“変化”を評価し、その結果、「百貨店よりもユニクロの方が“値ごろ感”がある」とした人は65%にも上っているのです。

「値ごろ感」。まさに現時点で不況に打ち勝つ流通のキーワードらしきものと感じます。ユニクロの好調とは好対照に大苦戦が続く百貨店、ユニクロと同じ「安価販売路線」を歩みながら思わぬ苦戦のシマムラ、ユニクロにあってこの二者にないものは、まさにこの「値ごろ感」ではないのでしょうか?では、そもそもこの「値ごろ感」とは何なのでしょう?広辞苑にある「値頃」の項には、「値段がその品物の品質と相応していること」とあります。しかし今時の「値ごろ感」は、多少意味が違うかもしれません。

私なりの解釈は、「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」です。自動車業界で今話題の“ハイブリット戦争”。ホンダのインサイトが189万円で予約好調と見るや、あのトヨタがプリウスの価格を40万円近く下げて同じ価格まで値下げする発表をしました。燃費と商品化キャリアで比較すれば、同価格なら明らかにトヨタが勝てるのです。今までのトヨタなら、同価格まで下げることはせず、価格を近づけはしても差額は「トヨタとホンダの差」として、“王者の戦い”を貫いたはずです。今回なぜ同価格まで値下げなのか。この戦略をトヨタの危機感の現れとの見方もありますが、私はマーケティング・キーワードを「コスト・パフォーマンス」であるとみた上での戦略であると思っています。

では、この「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」はどうつくられるのでしょうか?再びユニクロの話に戻ります。ユニクロの努力はまず圧倒的な品質追求です。大人気の「婦人向けウォッシャブル・ニット」は、羊毛とアクリルの最適な混合比率を割り出すのに百回を超える試作を繰り返したそうです。また東レとの全面提携により、繊維に関する半端でないノウハウを取り込み原糸から見直した、品薄が続くヒートテックは重量が1割も軽くなったと言います。まさに本家トヨタも真っ青のカイゼンぶりなのです。

さらに「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」を増すためのイメージ戦略にも抜かりがありません。昨年来、人気モデル山田優や女優藤原紀香、吹石一恵をCMに起用して、高付加価値イメージを創造することで商品の相対的な「お得感」を生み出しているのです。こんな厳しい時期にあって、ブランド戦略にも余念がないと言えるのです。

このようにユニクロは、「品質」と「イメージ」二正面での向上戦略が見事に実を結び、現在の“一人勝ち”状態を生みだしたと言っていいでしょう。単に大不況を口を開けて待っていた訳では決してないのです。本来“追い風”であるはずの不況下にありながら、苦戦が続くシマムラとの業績の差は、このあたりにあるとみています。

消費者の嗜好は不況が長期化すればまた大きく変わる可能性があり、いつまでも「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」がキーワードであるとは限りませんが、好景気で豊かな生活を謳歌していたものの突如不況に突き落とされた現時点での消費者心理は、「お金は大きく節約したいが、水準は落としても徐々に」という感じなのでしょう。対消費者マーケットでは、今しばらく「値ごろ感」=「コスト・パフォーマンス」をキーワードとして生き残りをかけた、各社の戦いが続くものと思われます。