渡辺季彦氏が亡くなった。享年103。先月亡くなった吉田秀和氏に続いて、音楽界の百歳越え超人がまたいなくなった。
渡辺季彦氏はヴァイオリン奏者でオーケストラのコンサート・マスターを務めた後、ヴァイオリン教師として後進の指導に注力した。私たちには、天才ヴァイオリニスト・渡辺茂夫の養父として、渡辺茂夫を世に送り出したことで有名だ。これについては、「渡辺茂夫と渡辺季彦」と題するコラムで詳述した。
このコラムには多くの反響があった。私の紹介したテレビ・ドキュメンタリー「よみがえる調べ 天才バイリニスト渡辺茂夫」(毎日放送)が視聴できる放送ライブラリー(横浜市)に足を運ばれた読者が何人かいた。
また、渡辺季彦氏からヴァイオリンの指導を受けたという方々から、渡辺氏に対する畏敬と感謝を伝えるコメントも届いた。
私自身もこのコラムをまとめたブックレットを渡辺季彦氏に送ったところ、丁重な礼状をいただいた。
渡辺茂夫の評伝『神童』を著した山本茂氏がコメントを寄せてくださった。その中で、氏は、渡辺茂夫の睡眠薬多量服用事件について、渡辺季彦氏がアメリカ人による「謀殺未遂」説を採っていることを批判して、「あれは自殺未遂にほかならない」と述べておられる。私には、真相は判らない。
私はといえば、渡辺茂夫が「神童」として彗星のごとく戦後の日本社会に登場したことに一種の「郷愁」を感ずる気持が強い。時代が渡辺茂夫を生み・育て、そして、時代が渡辺茂夫を押しつぶしたのだ。
1958年 渡辺茂夫、失意の帰国
1999年 渡辺茂夫死去
2012年 渡辺季彦氏死去
この3つの年の間に横たわるギャップをどう解すればいいのだろう? 新たな課題が見えてきた。 (2012/6)