(23)ワーグナーの哲学
ワーグナーの「楽劇」には「哲学」がある、と述べた。これにはいささか解説が必要だろう。
単純に図式化してしまえば、ワーグナーの「楽劇」では、現世の価値が、何らかの契機で解きほぐされ、至上の来世的価値に転化する、という構図に収斂する。
ここで、
現世の価値とは: 普通の「愛」、「嫉妬」、「官能」、「諍(いさか)い」、「戦争」、「裏切り」、など。
来世の価値とは: 至上の「愛」、「許し」、「至福」、など。
契機とは: 「指輪」や「黄金」(『ニーベルングの指輪』)、「聖杯」や「聖槍」(『パルジファル』)などの超越的威力、誤解の解消、「浄化」、「救済」、などを指す。
10編のワーグナー「楽劇」は、みな、驚くほど、以上の構図にあてはまる。
ほかにも、ワーグナーの「楽劇」を特徴づけている要素は、「純粋」「無垢」「漂泊」などがあり、いずれも、例えば、イタリア・オペラでは馴染みのない概念である。
私の見立てでは、およそ50ほどの抽象的概念を扱っているのがワーグナーの「楽劇」である。
これらの概念を駆使することによって、ワーグナーは、現世的価値を来世的価値に転化させることに成功したのだ。
この点は、これから、深く掘り下げたい課題だ。 (2011/9)
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