静聴雨読

歴史文化を読み解く

「もがりの森」を観る

2007-05-30 06:19:35 | 映画の青春
カンヌ映画祭で審査員特別賞を受けたばかりの「もがりの森」が早くもテレビで放映された。まだ、劇場公開されていないはずで、どうしてこのようなテレビ公開が可能になったのかわからないが、ともかく観てみた。

すでに報道などで紹介されているように、妻に死なれた認知症の老人と子供を死なせた介護士との交流を描いたものだが、その「筋」以外のことが気になった。

まず、冒頭の葬列らしきものが畑中をゆっくり行進するのを遠くから望遠でゆっくり追う場面。どこかで観たことがあると思ったが、黒澤明監督の「夢」の冒頭で描かれた「きつねの嫁入り」の場面にそっくりだ。河瀬直美監督は、この世界的名監督の名声をちゃっかり利用しているらしい。

次に気がついたのは、樹々の緑、下生えの緑、森の緑、畑の緑、というぐあいに、緑が全編を覆いつくしていることだ。奈良県の山中で撮影されたこの映画は、さながら「緑の日本」のプロモーション・フィルムのようだ。そういえば、白神山地の霊気、屋久島の大樹、熊野古道の土いきれ、を連想させるシーンがちりばめられている。これは、日本の誇る「世界遺産」のイメージをちゃっかり利用しているのではないか?

ひねくれて観ると、以上のことが目に付くが、そこを通り越せば、人と自然との交流などのアニミズム思想が良質のカメラワークで捉えられているのに感動する。
ただ、老人が老人らしくないこと、認知症があるようには見えないこと、などは計算通りなのか、計算外なのか、河瀬監督に聞いてみたい。  (2007/5)