静聴雨読

歴史文化を読み解く

「愛の終着駅」

2008-02-28 06:42:54 | 芸術談義
八代亜紀が歌った「愛の終着駅」は、伝統的な歌謡曲の「型」から踏み出す冒険をしている歌だと紹介したが、この歌の歌詞をさらに見てみよう。

男が、北に向かって旅をしながら、女あてに手紙をしたためる。寒さのせいか、列車のゆれのせいか、文字が乱れている。それを読んだ女が、男に「迷い心」が生じているのではないか、と邪推する、というのが第1番だ。

ところが、第2番の冒頭に、唐突に次のような歌詞が置かれる:

 君の幸せ 考えてみたい
 あなたなぜなの 教えてよ

男が「このまま関係を続けていけば、君を傷つけることになる。君の幸せを考えると、・・・」と女にもちかけると、女は、鋭く男の「迷い心」に気がつき、「なぜ別れようなどと考えるの?」となじる。こんな情景が目に浮かぶ。普通の男と女との関係かもしれないし、不倫愛の関係かもしれない。

以後の歌詞は第1番の歌詞の続きに戻り、手紙から香る海に匂いを嗅ぐと泣けてくる、と歌う。

ということは、第2番の冒頭の歌詞が、男と女との関係の伏線になっていて、それがほかの歌詞の部分に影響しているのだ。

男が汽車の中で手紙を認め、どこかの駅で投函し、女のもとに届くまでには、少なくとも2-3日かかる。今なら、メールでたちどころにやりとりできることだ。でも、それでは、この歌に込められた情感は吹き飛んでしまう。

この歌詞を作ったのが、プロの作詞家ではなく、どこかの会社の役員だと知って驚いてしまった。凄絶を極める「愛の機微」を体験した者でなければ、書けない歌詞だからだ。 (終わる。2008/2)


北へ

2008-02-26 07:36:58 | 芸術談義
2月に入り、珍しく寒い日が続いている。表に出るのが億劫になるが、部屋にいて口ずさむのは冬をテーマにした歌謡曲だ。

A.「津軽海峡冬景色」(石川さゆり)
B.「悲しみ本線日本海」(森昌子)
C.「北帰行」(小林旭)
D.「函館本線」(山川豊)
こんな歌が思い浮かぶ。

これらの歌には共通する要素がある。
まず、冬が背景にあること。(A.B.Dに共通。Cは季節を明示していない。)
次に、主人公が「北に帰る」こと。(A.C.Dに共通。Bでは主人公は北を旅する。)
三番目に、主人公の独白を歌にしている。

何だ、歌謡曲のステレオタイプじゃないか、というのは簡単だが、むしろ、これらの歌には、共通の「型」があって、それを踏襲していると解釈した方がわかりやすいだろう。

八代亜紀が歌った「愛の終着駅」という歌も思い出される。
この歌が上述の「型」にどれだけ当てはまるか、検証してみる。

「寒い夜汽車」とあるので、冬か晩秋が歌われていることに違いはない。
主人公(女)が、男が汽車でしたためた手紙を読むという構成になっていて、ほかの歌とは情景が大きく違って、ひねりを加えている。
旅する主人公の独白ではなく、(見えない)旅する男との対話という形式も珍しい。

「愛の終着駅」は伝統的な歌謡曲の「型」から踏み出す冒険をしている歌だといえる。 (つづく。2008/2)