(1)見習いの心境
昨年夏から、三省堂書店各店の棚を借りて「古書フェア」の催しへの参加を重ねてきましたが、このたび、「三省堂古書館」からオファーを受けました。身に余る光栄です。
「三省堂古書館」とは、三省堂書店の中で古書を専門に扱う店内店で、現在は、神保町本店の4階にあります。そこに、「スーパー源氏」加盟の約26店が棚を並べています。そこに本を並べないか、というお誘いです。
当面は、「BIBLOSの本棚」の看板を掲げることはできず、スポット的な催事棚に本を出品するという「見習い」のような待遇です。そこでの実績により、次のステップへの展望が開けるかどうか、分かれます。誇り高い私にとってはやや屈辱的な条件ですが、ここは我慢のしどころ、その条件を甘受して、出品を考えています。
三省堂古書館から求められたのは、「出版社別の文庫本の棚を充実させたいので協力してほしい」というもので、ちくま文庫(ちくま学芸文庫を含む)・講談社文庫(講談社学術文庫・講談社文芸文庫を含む)・新潮文庫を取り揃えて出品することにしました。おそらく、これらの文庫が「人気はあるけれども、品薄」なのでしょう。 (2011/5)
(2)三省堂古書館の慣行
「三省堂古書館」は三省堂書店の店内店です。そこには、新刊書店のしきたりと古書店の風習とが混ざり込んでいます。古書店から見ると、煩わしい慣行もあります。
新たに、三省堂古書館に出品するにあたって、以下の作業が必要でした。
・ 本に透明なビニール・カバーをかぶせる(本を汚れから防ぐため。これは私も賛成です。)
・ 出品する本のデータ(書名・価格・古書店名など)をExcel で作成する(値札シールと値札スリップを印刷するため。)
・ 値札シールを印刷して書籍に貼る(何らかの値札は必要。)
・ 値札スリップを印刷して書籍に挟み込む(単行本なら理解できますが、文庫本の場合はやり過ぎ。)
以上です。それぞれ、事情や理由があるようですが、この準備作業にかかる手間がバカにならないと感じました。出品する書籍は1冊数百円の文庫本なのに。
とくに、(特殊な印刷システムが必要なため)値札シールの印刷を「スーパー源氏」に委託しなければならない点が致命的になる予感がしています。これが、きめ細かな納本、迅速な納本など、小回りの利く納本を決定的に妨げそうです。 (2011/5)
(3)いよいよ陳列開始
ゴールデン・ウィーク中に出品の準備作業を終え、5月3日に納品しました。到着後すぐに陳列されたようです。
古本の常として、1冊だけの在庫ですから、店頭に並べられるとすぐに発見して買い求める目ざといお客様がいます。ですから、陳列してすぐに動く(つまり、売れる)ものがあるのは当然です。問題は売れ行きの持続期間です。それが長ければ、それは「よい商品群」といえます。さて、「BIBLOSの本棚」の出品したちくま文庫(ちくま学芸文庫を含む)・講談社文庫(講談社学術文庫・講談社文芸文庫を含む)・新潮文庫は「よい商品群」に当てはまったのでしょうか?
5月の売上実績が三省堂古書館から届きました。予想を上回る成績でした。ただ、この好調が長続きするかどうかは、今後の補充が順調にいくかどうかにかかっていることはいうまでもありません。 (2011/6)
(4)新刊書店の慣行
多くの新刊書店がそうであるように、三省堂書店も在庫の圧縮に留意しているようです。なるべく在庫を持たないようにして、売れ筋のものについては、緊急に納品手配をかける。これが、新刊書店の場合常態のようです。一つの書目を何十冊・何百冊も扱う一方、売れるかどうかわからない書目も店頭在庫を切らさないための知恵が働いています。
一方、古書の場合、多くの場合、一つの書目で1冊限りです。ある書目が売り切れたら、別の書目で穴を埋める必要があります。さもないと、棚に穴が空きます。そのため、ある程度、手元に在庫を持たないと、古書店の棚管理は立ち行きません。
三省堂古書館は、在庫不足になると、古書店に対して、「緊急納品」手配をかけるようで、この手法は新刊書店の手法そのものです。それを受ける古書店の苦労は推し量れます。つまり、いつもスクランブル納品に備えていなければなりません。そのためには、上に書いた煩わしい作業が多すぎます。 このような厳しい納品体制を敷くことが「三省堂古書館」に古本を置かせていただくための必要条件のようです。 (2011/6)