静聴雨読

歴史文化を読み解く

アジのビシ釣り

2012-05-17 07:05:54 | 海釣り

 

(1)アジの釣法

再開した海釣りの第二弾として、「アジのビシ釣り」を選んだ。

アジは東北地方以南に広く分布する魚で、魚屋で一年中その姿を見るポピュラーな魚だ。

遊漁船でも人気の対象魚で、多くの釣り宿が遊漁船を出している。

アジの釣法は大きく分けて3つある。

その1。サビキ釣り。コマセ(寄せ餌)の下に5-10本のサビキ針(魚皮のような薄くて柔らかい皮を付けた針)を付ける釣法。

その2。ビシ釣り。行灯ビシにコマセと2-3本の針を付け、針には身餌(イカの小さな身を紅に染めたものがよく使われる)を付ける釣法。

行灯ビシとは、漢字の「心」を想像していただくと分かりやすい。左の「はね」の部分にコマセ籠(兼錘)をぶらさげ、中央の弓形の心棒の先に針を付ける。それが、右の点々だ。

その3。ライトタックル(LT)釣り。最近流行っている釣法で、ビシ釣りと同じく行灯ビシを使うらしいが、錘はごく軽い。身餌は青イソメ。川釣りのように、軽いタックルを振ってアジを誘うようだ。私はこの釣法を経験していない。

さて、今回のビシ釣りだが、その中にまた二通りの釣法がある。「棹ビシ」と「手ビシ」がそれだ。

「棹ビシ」は棹とリールで糸を取り込み、「手ビシ」は手で糸を手繰って取り込む。私は「手ビシ派」なのだが、これが思わぬ障害になるとはつゆ知らなかった。 

(2)苦戦の出だし

今回お世話になったのは、横須賀・新安浦港の義和丸。

東京湾のアジ釣りの釣り場は、水深30-100メートルだが、当然、東京湾口などの深いところは糸を手繰るのが大変だ。その点、義和丸は近場の水深の浅い所(30メートルほど)を漁場にしているので、「手ビシ派」にはピッタリだ。

釣り宿に着いて様子を伺うと、なんと、「手ビシ」を禁止しているという。「手ビシ」をする人が少なくなった上に、「棹ビシ」の人と混じると、「オマツリ」(釣り人同士の糸や仕掛けが絡まってしまうこと)が生じやすいので、「手ビシ」を禁止したのだという。これには驚いた。

この日は平日で釣り人が少ないため、特別に許しを得て、「手ビシ」で釣ることにした。

朝7時半に河岸払いして、15分で釣り場に到着。猿島の傍で、遠くに、この前、「メバルの夜釣り」で馴染みになった、「SUMITOMO YOKOSUKA」が見晴らせる地点だ。

行灯ビシが海底に着いたら、釣り糸のフケ(遊び)を取り、3メートル見当糸を上げ、コマセを撒くために数回糸を引き、さらに、糸を1mほど上げてアジの当たりを待つ。これがアジ釣りの基本動作だ。

最初の一投からアジの「クイッ、クイッ」という当たりがあり、20cmの中アジが上がった。幸先よかった。が、その後がいけなかった。当たりのない状態が五投・六投と続いた。その時、船長の檄が飛んだ。「じっとしていたら、アジは寄ってこないよ!」 

(3)水深40メートルから25メートルまで

船長のことばは短かったが、これを翻訳すると次のようになる:

「(コマセを撒かずに)じっとしていたら、アジは寄ってこないよ!(新しい釣り場に着いたら、まず、アジを寄せることを考えないと。釣るのはその後だよ。)」

確かに言うことはわかる。でも、それならそれで、最初から指示してくれてもよさそうなものだが。

釣り場に着いて船長の発したことばは:「ボー(開始の合図のラッパの音)。底から3メートル。」これだけだった。

以後釣り場を何ヶ所か変えた。水深は、40メートルから始まって、35メートル、30メートル、25メートルと変わった。

最もよく釣れたのは、水深30メートルと25メートルの釣り場だった。3本針に3尾掛かる「パーフェクト」もあり、2尾掛けも数回あった。

11時にコマセが底をついたところで納竿となり、数えたところ24尾の釣果だった。以前の勘を取り戻すまでには至ってないが、まずまずの釣果だ。型は皆20cm-25cmの「中アジ」だった。上に掲げた写真がそれである。 

(4)アジを食べる

アジはポピュラーな魚なので、調理法も様々だ。

生食では、「たたき」や「なめろう」が有名だ。プロの板前は、「中アジ」をみごとに捌いて、「たたき」や「なめろう」を作る。しかし、素人では、「中アジ」を捌いて、十分な身肉を取ることが難しい。

アジは煮るのに適していない。これは、アジが水気の多い魚だからだろう。

一方、アジは焼くとうまい。ぜいご(尾の部分から伸びているとげのあるうろこ)を除き、尾びれと背びれに塩を振り、4尾まとめて串に打ち、網で焼く。こうすると、皮が網に触れないので、皮が付いたまた姿良くアジが焼ける。見ていると、水分と油がポタポタと垂れ落ちる。アジの水気が適度に抜けるため、アジは焼くとうまいのだとわかる。

4尾をまたたく間に平らげ、次の4尾をまた焼いて食べた。

街の食堂でアジのフライの揚げたて定食を食べると、ことのほかうまいのも同じ理屈だろう。

アジの干物がうまいのもこれで納得だ。次回は「アジの一夜干し」に挑戦してみよう。

(5)データ

今回の釣行のデータを記録しておく。

ビシ錘: 120号

枝糸 : 2号。60cm間隔で枝糸を3本出す。

針 : ムツ針10号。

料金:5500円。

 (2008/11)


メバルの夜釣り

2008-09-03 07:33:25 | 海釣り
(1)久しぶりの釣行

長い間止めていた釣りを再開することにした。私の場合、釣りとは「海釣り」のことである。遊漁船に乗せてもらって、半日か一日、近場の海上で釣りを楽しむ。いたって気楽で、手漕ぎボートでの釣りのように労力を要することもない。

釣り場はもっぱら浅場で、水深は5m-50mくらい。対象となる魚は、シロギス、メバル、アジなど。

さて、釣り再開の手始めにとりあげた魚は「メバル」である。
メバルは浅場の海底近くに生息していて、頭を上に(つまり、海面に)向けて餌を漁る習性がある。
また、「目張」と漢字が充てられるように、目がよく利き、夜でも餌を漁る。そのため、「メバルの夜釣り」という釣法が開発された。

メバル釣りの餌は、昼間の釣りの場合は、生きイワシ、生きエビ、アミなどが使われるが、夜釣りの場合は青イソメが普通だ。長いミミズに似た虫だ。これを、2-3本の釣り針に掛けて、水に落とす。これだけの操作だ。

夜釣りの釣り場は水深が浅く、5m-15mだから、錘が海底に着くのに時間がかからない。錘が海底に届いたら、釣り糸のフケ(遊び)を取るためリールを少し巻き、さらに、錘を海底から1mほど引き離すためにリールを少し巻く。これで準備完了だ。

メバルの生息する海底は、岩礁帯で岩がゴツゴツしていて、錘や釣り針がこれに引っかかってしまうことがよくある。それで、錘や釣り針を失う。その可能性を下げるために、錘を海底から1mほど引き離すのだ。ただ、錘や釣り針を失うのを恐れて、あまりリールを巻き過ぎると、肝心の釣り針がメバルの生息帯の上に出てしまうので、メバルは釣れない。ある程度、錘や釣り針を失う覚悟をして釣りに臨むのがいいようだ。 

(2)準備から出港まで

久しぶりの釣行のために、準備を始めた。

棹とリールの金属部分に錆が浮き出ている。5年間さわっていなかったので、仕方がない。棹にリールを取り付けて、リールの巻き取り動作を確認してみる。巻き取りがスムーズでなく、時々ごつごつと巻き取りに邪魔が入る。
今回は、この棹とリールで挑戦してみよう。いずれ、棹もリールも更新せねばなるまい。

装備では、合羽と帽子が見当たらない。降雨確率の低い日を選んで出漁せねばならない。

さて、東京湾の多くの釣宿で、5月から9月にかけて、「メバルの夜釣り」の船を出している。週末と祝日の限定で、17時30分に岸を出て21時30分に帰ってくるのが一般的だ。

以前お世話になっていた釣宿は夜釣りを止めたという。それで、金沢漁港の鴨下丸にお世話になることにした。
私の出漁した日は、5月17日(土)。幸い、天気予報では、雨の降る確率は極めて低い。

金沢漁港には15時30分に着いてしまった。別に予定した用件をキャンセルしたために、悠々の到着だ。それから、出港までの2時間が、とてつもなく贅沢なものであった。釣宿の人たちの準備作業を眺めたり、港に憩うカモメを追ったり、仕掛けの準備をしたり、乗り合い客と挨拶したり、堤防の夕景をぼんやり眺めたり。こうして、2時間が過ぎていった。

17時30分出港。乗り合い客は10人。予想より少ない。
5月だけあって、厚手のシャツとウィンド・ブレーカーだけではやや寒い。あわてて、セーターを1枚着込む。そういえば、今までの夜釣りは7月か8月であった。その時に比べて寒いのは当たり前だ。

釣宿を出て20分で最初の釣り場に着く。「SUMITOMO よこすか」の標識のあるドックの先だ。
船長の合図で仕掛けを投入した。
だが、ここでは苦戦した。たまに魚信があって、仕掛けを上げてみれば、10cmに満たないミニサイズのメバルばかり。結局、1時間で、キープしたメバルは1尾のみ。ここで船長が場所代えをすることにした。 

(3)思わぬ釣果

次の釣り場は、「SUMITOMO よこすか」に浮かぶ2艘のタンカーの船腹を真横に眺める場所だ。この釣り場が「当たり」だった。2時間の間、ほぼコンスタントに釣れ続いた。

メバルの魚信は明確だ。ゴツゴツとした当たりがあって、釣り糸がグッグッグッと持っていかれる。そこで、棹先を上に張るようにすれば、後は、釣り糸を巻くだけ。

メバルの魚信は明確だが、それで、メバルの大きさまで測ることはできない。小さなメバルでもいっぱしの当たりがあり、釣り上げてみて拍子抜けすることがしばしばある。大きなメバルは、釣り上げる時にリールの手ごたえが大きいので、それとわかる。

メバル釣りでは、一つの原則を作っている。
大型(20cm以上)・中型(15cm-20cm)・小型(10cm-15cm)はキープして持ち帰り、ミニサイズ(10cm以下)は放流するという原則だ。

今回、この原則通りに実行し、最初の1時間ではキープしたメバルが1尾だったが、後半の2時間で14尾追加してキープすることができた。放流したミニサイズが10尾あったから、計25尾釣れたことになる。我ながら、上出来だ。

船長に釣果を報告した後、「週刊つりニュース」のレポーターのインタビューを受けた。
「何尾釣りました?」
「25尾でした。」
「私は20尾でしたよ。初めはなかなか出ませんでしたね。」
「はい。2番目の釣り場で、一挙に挽回しました。」
「何か、良く釣れた秘訣はありますか?」
「さあ、わかりません。5年ほど釣りから遠ざかっていましたので、棹もリールも、ほら、この通り、錆付いているのですよ。」
「でも、腕は錆付いていなかった訳ですね。」

更新を考えていた棹とリールにはもう少し現役を続行してもらうことにした。 

(4)メバルを食べる

冒頭の写真が今回キープして持ち帰ったものだ。
内訳は:大型1尾(写真の一番右)、中型6尾、小型8尾。ほかに、外道のシロギス1尾(写真の下に途切れているもの)。

釣った魚はどうするか? 料理して食べる。

中型2尾とシロギスのウロコを取り、尾びれと背びれに塩を振り、網で焼いた。
酢3:しょうゆ1の酢醤油で食べる。
メバルは脂分が少なく、あっさりした味わいだ。身の離れがよく、食べやすい。
シロギスは小柄の割りにしっかりした歯ごたえがあり、食味はメバルを上回る。これが外道で釣れるのだから、釣りは止められない。

残ったメバルのウロコを取り、はらわたも除いた。出刃包丁が、大きな鮭を捌くものしかなく、はらわたを除くのが上首尾とはいかなった。小さな出刃包丁を用意せねばなるまい。

翌日、冷凍保存したメバルを煮付けにした。
酒2、しょうゆ1、みりん1で味付けする。水は適当。砂糖としょうがを少々。今回は水が多めだったので、薄味の煮付けに仕上がった。食べてみると、なかなかいける。やはり、メバルの淡白な味が生きている。

残りのメバルも順次塩焼きと煮付けで味わった。
メバルは食べておいしいのがうれしい。

ところで、ここで賞味したのは、「クロメバル」で、市場では滅多に目にしない種類だ。
たまに大きな魚屋で目にするのは「アカメバル」で、「クロメバル」とは異なる。一言でいえば、「クロメバル」の方が食味は数段上だ。

では、なぜ、「クロメバル」が市場に出ないのか? それは、「クロメバル」の生息域が狭く、職漁船の対象になりにくいからだ。それで、遊漁船の釣り客だけが「クロメバル」の恩恵に与っている、というわけだ。

(5)データと格言

今回の釣行のデータを記録しておく。

棹 : カレイ釣り用の軟調子の棹で、長さ3m。
リール : 小型スピニング・リール。
道糸 : ナイロン3号。
幹糸 : 2号、長さ1.5m。45cm間隔で枝糸を3本出す。
枝糸 : 1.5号、長さ20cm。
針 : 10号。
錘 : 20号。

失った錘2個、仕掛け2組。

料金:6000円。5年前は5000円だった。重油の値上がりの影響があるようだ。

さて、メバル釣りにはいくつかの格言がある。

その1。「メバルは根を釣れ。」
メバルは岩礁帯に生息しているので、根に掛かるのを恐れず果敢にアタックすべきだ、という格言。

その2。「メバルは凪ぎを釣れ。」
荒天で海が波立つと、潮が濁り、メバルの目が利かなくなる。それで、好天で凪の日を選んで釣行すべし、という格言。

その3。「メバルは船頭を釣れ。」
メバルの生息する岩礁帯は狭く、それを熟知する船長に就くのが有利だ、という格言。

今回の釣行で、これらの格言が生きていることを実感した。  (2008/5-6)