静聴雨読

歴史文化を読み解く

日本ソロー学会の全国大会

2006-10-17 07:18:00 | ソローとモリス
アメリカのヘンリー・D・ソロー Henry D. Thoreau (1817年―1862年)はわが国でも根強い人気があり、小さいが学会まである。会員は百数十名で、そのうち、アクティヴな会員が60名程度というところだ。この種の学会としては質が高く、年1回の全国大会のほか、年1回研究誌も発行している。

私はノンアクティヴな会員であるが、今年は全国大会に参加して、いろいろ刺激を受けてきた。

アジェンダは大きく分けて3つあった。それぞれについて感想を記す。

1.シンポジウム「ソローと女性作家たち」
  4人の発表者が、女性作家(チャイルド、アニー・ディラード、モリスン、女性ネイチャー・ライター)に見られるソロー的要素などについて発表した。
  私としては、ソローの女性観・家族観について知りたい。特に、母・伯母・妹とソローとが互いに影響しあっている姿を知りたい、という願望がある。ソローは終身独身であったが、伯母や妹も独身であった。それが、ソローの女性観・家族観にどう影響したか、知りたいところである。
 若い発表者のプレゼンテーションのうまさ(声がはっきりしている・引用の作法が明快である、など)が目についた。

2.研究発表2件
  2件のうち、ソローの著作における「散文的詩と詩的散文」を探求した山本洋平氏のものが興味深かった。
  ソローが生前に出版した「コンコード川とメリマック川の一週間」と「ウォールデン」はともに、極めて詩的な散文として知られている。詩と散文の混交・融合がどのようにして成立したか、また、(若くはあるが)晩年まで、ソローが詩心を保った秘訣は何か、という探求をこの発表は誘起する。

3.講演「ソローは『畏敬の念』を抱いたか」
  朝日新聞の宗教担当記者だった人の講演で、大変面白かった。「畏敬の念」はキリスト教、ユダヤ教などで見られるもの(「神を畏れよ!」)で、仏教ではあり得ない観念だというのは勉強になった。ソローは無宗教でキリスト教会に行くことはなかった一方で、サンスクリットなどに親しんでいたことは示唆的だ。

2007年の全国大会は、10月12日(金)に広島で開催される予定。  (2006年10月)