「スーパー源氏」を運営している紫式部から委嘱されて、「古本屋開業講座」の講師を勤めました。今回で二回目です。これまで、インターネット古書店として経験したことを中心に1時間ほど話しました。受講者は3名、気楽な座談形式のお話にしました。
「楽天フリマ」に古本を出品し始めたのが2003年。一昨年から「スーパー源氏」にお世話になり、インターネット古書店の運営は通算6年を超えたので、それなりに経験を積み、ノウハウは貯まっています。それを話しました。
受講者は、定年後に古本屋を創めてみようかという人が2人、新刊書店の若い店員が1人。新たに、古本屋の主人として巣立っていただきたいものです。
以下、この時のお話を紹介します。
***********
開業を目指す人に
(1) 自己紹介
こんにちは。「BIBLOSの本棚」の主人です。
定年後にインターネット古書店を始め、まもなく5年になります。
私は本が好きです。
まず、本を買うのが好きです。そして、本を本棚に並べるのが好きです。
若いころから、本を買い、本棚に並べてきたところ、気がついたら、家中に17本の本棚が並び、それも前列・後列に本がひしめき合うようになりました。
もちろん、私は本を読むのも好きですが、これだけの本を読破するにはあと150年ほどの余命がなくてはかなわぬことがはっきりしました。
50歳を越えたある日、突然、集めてきた本を減らそうと考えるようになっていました。
「人生縮退作戦」の一環です。
(2)古本屋に処分
それで、古本屋に来てもらって、本を引き取ってもらいました。その時の感触が何とも忘れられません。
古本屋は、私の処分しようとする古本を、市場価値に乏しいとか売れる見込みがないとか、あれやこれやと難癖をつけるのです。集めてきた本のコンテンツには自信をもっていた私には、これがショックでした。引き取り価格が低いのは我慢するとしても、本のコンテンツの価値を否定されたことが尾を引きました。
(3)ネットで古書を扱うに至ったきっかけ
それで、自分で顧客を見つけてみようかと思うようになりました。本当に良いコンテンツであれば、必ず求める人がいるはずだ、という信念でした。
楽天の仮想商店街に「楽天フリマ」というフリーマーケットがあり、誰でも気軽に出品できました。2003年、そこに出品してみようと思いたちました。
手始めに、『日本思想大系 全67巻』、岩波書店、を出品してみました。素人が出品する大掛かりな書籍に反応があるのかと心配しましたが、まもなく引き合いが入りました。
お客様は、本の状態を確認したいとわざわざ「BIBLOSの本棚」まで足を運ばれました。そして、本の状態に満足して、段ボール箱4箱分の『日本思想大系』を持って帰られました。
その時のお客様のうれしそうな顔が忘れられません。先の古本屋の親父の苦虫を噛み潰したような顔とは対照的です。
(4)「スーパー源氏」にお世話になったきっかけ
2006年秋、突然、「楽天フリマ」が閉鎖になり、途方に暮れました。
ほかに仮想商店街としては、「ヤフー・オークション」がありましたが、必ずしも多くのセリ手がいるわけではない古本には、出品期間が短いオークションは向いていません。
それで、固定価格方式の古本仮想商店街「スーパー源氏」にお世話になることにしました。
出品のための登録作業に多くの労力がかかり、また、本棚の借り賃もコンスタントに出ていくことを考えると、ここで気合を入れ直す必要があると考えました。2007年初頭のことです。
(5)ホームページ「BIBLOSの本棚」
そこで、「BIBLOSの本棚」のホームページを作ることにしました。
ここで、お客様の古本の探求・購入行動を説明します。
まず、求める書名・著者などで「スーパー源氏」のサイトで検索をかけます。そこで気に入った本が見つかれば、購入まで進みます。
その際、この古本屋はほかにどのような本を扱っているのだろう、という気持ちがお客様にはあります。
その時、古本屋のホームページがあれば、お客様をそちらに誘導できる、というわけです。
それまで、ホームページを持ったことはありませんでした。何もかも新しい経験です。プロバイダのサーバを借りることも、ホームページのラフ・デザインをすることも、すべてが初めてです。
HTMLを使ってホームページを記述することを含めて、私の「先生」に制作を依頼しました。
BIBLOSの本棚 : http://enjoy1.bb-east.ne.jp/~biblos/
一方で、出品のための登録データ作成作業を進め、2007年3月、「BIBLOSの本棚」を開業しました。
(6)定年後のサイドビジネス
ここで、店名の由来を説明しておきます。
「BIBLOS」はギリシア語で、「聖書」です。そう、英語の bible と同根のことばです。書誌学は bibliography 、書痴は bibliophile です。
ただ、調べると、マッキントッシュ用書体(フォント)の商品に「BIBLOS」があり、また、富士通のPCに「BIBLO」のシリーズがあるため、紛らわしさを避けるため、「BIBLOSの本棚」という長い店名を採用しました。
フルネームの「BIBLOSの本棚」と読んだり書いたりしてくださるお客様はいまだ20%ほどで、まあ、これは、仕方のないことです。
店名が象徴するように、私にとって、古本屋は一種の趣味であり、あくまでもサイドビジネスです。この原点を忘れないようにしたいと思っています。
(7)扱う古書
「BIBLOSの本棚」の扱う古書は、「歴史・地誌・思想・文学・美術・音楽・演劇・映画・芸能・遊び」という10個のジャンルで表わすことができます。
ホームページでは、これらのジャンルから書籍を検索できる仕掛けになっています。
そこで工夫したのが、歴史・地誌・思想・文学については、あえて区分けせず、代わりに地域別の区分けを入れたことです。つまり、フランス・イギリス・ドイツ・ロシアなどの地域ごとに、歴史・地誌・思想・文学をまとめて分類しました。それ以外のヨーロッパは「ヨーロッパ」で括り、その中に歴史・地誌・思想・文学をまとめて入れました。
小さな古本屋では、得意な分野だけに絞って特徴を出することが重要だと思います。
(8)経営数値
古本屋は一種の趣味であり、あくまでもサイドビジネスだといっても、漫然とした経営姿勢では破綻を来たします。
私の場合は、売り上げ目標と粗利目標を掲げています。
(9)古書の価値
古本(古書ともいいます。)は、独特の価値を主張しています。
最大の価値は、その希少性でしょう。
次に、人気の高いこと・コンテンツの良さが挙げられます。
三番目に、状態の良さが挙げられます。
以上のような古本あるいは古書の価値をお客様に判っていただくのはやさしくありません。
普通のお客様は、「新刊当時の定価」から離れることができません。そのため、「新刊当時480円だった本がなぜ3000円もするのだ」(購入の場合)とか「この全集は3万円で買ったのですよ。それが1500円の引き取り価格とは、ひどいじゃないですか。」(売却の場合)とか、というケースが生じます。
(10)「お客様」とは?
「お客様」とはそのような矛盾を抱えた存在です。
ここで、ネットユーザの特性を挙げるとすれば、リアルサイトを訪れるお客様に比べて、やや「いい加減」なところがあることでしょう。簡単に注文する、簡単にキャンセルする、という傾向がネットユーザにはあります。
そのような傾向を頭に入れて、対処する必要があります。
私の心がけていることは、一週間ルール(一週間の間に入金・連絡のない場合、督促するかキャンセルする)を励行することです。趣味で続けている仕事でストレスを溜めては元も子もないではありませんか。
(11)古書店の3つの功徳
ネット古書店を続けてみて、三つの功徳があることを実感しています。
その1。蔵書スペースの縮小。長年の悩みだった蔵書スペースの増大を食い止めて、さらに蔵書スペースを縮小できたことは私にとって大きな成果です。
その2。お小遣いの確保。もっともそれはすべてコニャックに消えてしまいますが。
その3。お客様とのふれあい。手元の本が、本当に求めているお客様の手に渡り、再び役に立つのを見るのはうれしいものです。
いつのまにか、「本を買うのが好き」「本を本棚に並べるのが好き」「本を読むのも好き」だけでなく、「本を売るのが好き」になっている自分を発見しています。ネットで古本を扱うことが、IT時代の一つの「癒し」なのだと実感しています。
(12)70歳には引退
古本を扱って60歳代半ばを迎えました。これからは、おそらくは現行ペースを維持して、70歳には引退しようかと思い描いています。
今、私は、これから是非読みたい本を選んで「究極の本棚」を作る作業に取り掛かりました。「究極の本棚」には、今まで読みたいと思って読んでいない本、もう一度読みたい本などを選んで、自分だけの図書館に仕上げるもくろみがあります。
「BIBLOSの本棚」から「究極の本棚」へ。これがこれからの私の本との付き合い方になるはずです。 (2009/3)
「楽天フリマ」に古本を出品し始めたのが2003年。一昨年から「スーパー源氏」にお世話になり、インターネット古書店の運営は通算6年を超えたので、それなりに経験を積み、ノウハウは貯まっています。それを話しました。
受講者は、定年後に古本屋を創めてみようかという人が2人、新刊書店の若い店員が1人。新たに、古本屋の主人として巣立っていただきたいものです。
以下、この時のお話を紹介します。
***********
開業を目指す人に
(1) 自己紹介
こんにちは。「BIBLOSの本棚」の主人です。
定年後にインターネット古書店を始め、まもなく5年になります。
私は本が好きです。
まず、本を買うのが好きです。そして、本を本棚に並べるのが好きです。
若いころから、本を買い、本棚に並べてきたところ、気がついたら、家中に17本の本棚が並び、それも前列・後列に本がひしめき合うようになりました。
もちろん、私は本を読むのも好きですが、これだけの本を読破するにはあと150年ほどの余命がなくてはかなわぬことがはっきりしました。
50歳を越えたある日、突然、集めてきた本を減らそうと考えるようになっていました。
「人生縮退作戦」の一環です。
(2)古本屋に処分
それで、古本屋に来てもらって、本を引き取ってもらいました。その時の感触が何とも忘れられません。
古本屋は、私の処分しようとする古本を、市場価値に乏しいとか売れる見込みがないとか、あれやこれやと難癖をつけるのです。集めてきた本のコンテンツには自信をもっていた私には、これがショックでした。引き取り価格が低いのは我慢するとしても、本のコンテンツの価値を否定されたことが尾を引きました。
(3)ネットで古書を扱うに至ったきっかけ
それで、自分で顧客を見つけてみようかと思うようになりました。本当に良いコンテンツであれば、必ず求める人がいるはずだ、という信念でした。
楽天の仮想商店街に「楽天フリマ」というフリーマーケットがあり、誰でも気軽に出品できました。2003年、そこに出品してみようと思いたちました。
手始めに、『日本思想大系 全67巻』、岩波書店、を出品してみました。素人が出品する大掛かりな書籍に反応があるのかと心配しましたが、まもなく引き合いが入りました。
お客様は、本の状態を確認したいとわざわざ「BIBLOSの本棚」まで足を運ばれました。そして、本の状態に満足して、段ボール箱4箱分の『日本思想大系』を持って帰られました。
その時のお客様のうれしそうな顔が忘れられません。先の古本屋の親父の苦虫を噛み潰したような顔とは対照的です。
(4)「スーパー源氏」にお世話になったきっかけ
2006年秋、突然、「楽天フリマ」が閉鎖になり、途方に暮れました。
ほかに仮想商店街としては、「ヤフー・オークション」がありましたが、必ずしも多くのセリ手がいるわけではない古本には、出品期間が短いオークションは向いていません。
それで、固定価格方式の古本仮想商店街「スーパー源氏」にお世話になることにしました。
出品のための登録作業に多くの労力がかかり、また、本棚の借り賃もコンスタントに出ていくことを考えると、ここで気合を入れ直す必要があると考えました。2007年初頭のことです。
(5)ホームページ「BIBLOSの本棚」
そこで、「BIBLOSの本棚」のホームページを作ることにしました。
ここで、お客様の古本の探求・購入行動を説明します。
まず、求める書名・著者などで「スーパー源氏」のサイトで検索をかけます。そこで気に入った本が見つかれば、購入まで進みます。
その際、この古本屋はほかにどのような本を扱っているのだろう、という気持ちがお客様にはあります。
その時、古本屋のホームページがあれば、お客様をそちらに誘導できる、というわけです。
それまで、ホームページを持ったことはありませんでした。何もかも新しい経験です。プロバイダのサーバを借りることも、ホームページのラフ・デザインをすることも、すべてが初めてです。
HTMLを使ってホームページを記述することを含めて、私の「先生」に制作を依頼しました。
BIBLOSの本棚 : http://enjoy1.bb-east.ne.jp/~biblos/
一方で、出品のための登録データ作成作業を進め、2007年3月、「BIBLOSの本棚」を開業しました。
(6)定年後のサイドビジネス
ここで、店名の由来を説明しておきます。
「BIBLOS」はギリシア語で、「聖書」です。そう、英語の bible と同根のことばです。書誌学は bibliography 、書痴は bibliophile です。
ただ、調べると、マッキントッシュ用書体(フォント)の商品に「BIBLOS」があり、また、富士通のPCに「BIBLO」のシリーズがあるため、紛らわしさを避けるため、「BIBLOSの本棚」という長い店名を採用しました。
フルネームの「BIBLOSの本棚」と読んだり書いたりしてくださるお客様はいまだ20%ほどで、まあ、これは、仕方のないことです。
店名が象徴するように、私にとって、古本屋は一種の趣味であり、あくまでもサイドビジネスです。この原点を忘れないようにしたいと思っています。
(7)扱う古書
「BIBLOSの本棚」の扱う古書は、「歴史・地誌・思想・文学・美術・音楽・演劇・映画・芸能・遊び」という10個のジャンルで表わすことができます。
ホームページでは、これらのジャンルから書籍を検索できる仕掛けになっています。
そこで工夫したのが、歴史・地誌・思想・文学については、あえて区分けせず、代わりに地域別の区分けを入れたことです。つまり、フランス・イギリス・ドイツ・ロシアなどの地域ごとに、歴史・地誌・思想・文学をまとめて分類しました。それ以外のヨーロッパは「ヨーロッパ」で括り、その中に歴史・地誌・思想・文学をまとめて入れました。
小さな古本屋では、得意な分野だけに絞って特徴を出することが重要だと思います。
(8)経営数値
古本屋は一種の趣味であり、あくまでもサイドビジネスだといっても、漫然とした経営姿勢では破綻を来たします。
私の場合は、売り上げ目標と粗利目標を掲げています。
(9)古書の価値
古本(古書ともいいます。)は、独特の価値を主張しています。
最大の価値は、その希少性でしょう。
次に、人気の高いこと・コンテンツの良さが挙げられます。
三番目に、状態の良さが挙げられます。
以上のような古本あるいは古書の価値をお客様に判っていただくのはやさしくありません。
普通のお客様は、「新刊当時の定価」から離れることができません。そのため、「新刊当時480円だった本がなぜ3000円もするのだ」(購入の場合)とか「この全集は3万円で買ったのですよ。それが1500円の引き取り価格とは、ひどいじゃないですか。」(売却の場合)とか、というケースが生じます。
(10)「お客様」とは?
「お客様」とはそのような矛盾を抱えた存在です。
ここで、ネットユーザの特性を挙げるとすれば、リアルサイトを訪れるお客様に比べて、やや「いい加減」なところがあることでしょう。簡単に注文する、簡単にキャンセルする、という傾向がネットユーザにはあります。
そのような傾向を頭に入れて、対処する必要があります。
私の心がけていることは、一週間ルール(一週間の間に入金・連絡のない場合、督促するかキャンセルする)を励行することです。趣味で続けている仕事でストレスを溜めては元も子もないではありませんか。
(11)古書店の3つの功徳
ネット古書店を続けてみて、三つの功徳があることを実感しています。
その1。蔵書スペースの縮小。長年の悩みだった蔵書スペースの増大を食い止めて、さらに蔵書スペースを縮小できたことは私にとって大きな成果です。
その2。お小遣いの確保。もっともそれはすべてコニャックに消えてしまいますが。
その3。お客様とのふれあい。手元の本が、本当に求めているお客様の手に渡り、再び役に立つのを見るのはうれしいものです。
いつのまにか、「本を買うのが好き」「本を本棚に並べるのが好き」「本を読むのも好き」だけでなく、「本を売るのが好き」になっている自分を発見しています。ネットで古本を扱うことが、IT時代の一つの「癒し」なのだと実感しています。
(12)70歳には引退
古本を扱って60歳代半ばを迎えました。これからは、おそらくは現行ペースを維持して、70歳には引退しようかと思い描いています。
今、私は、これから是非読みたい本を選んで「究極の本棚」を作る作業に取り掛かりました。「究極の本棚」には、今まで読みたいと思って読んでいない本、もう一度読みたい本などを選んで、自分だけの図書館に仕上げるもくろみがあります。
「BIBLOSの本棚」から「究極の本棚」へ。これがこれからの私の本との付き合い方になるはずです。 (2009/3)