静聴雨読

歴史文化を読み解く

ヨーロッパ:オペラと将棋の旅 7

2014-08-19 07:24:02 | 異文化紀行

 

(7)デブレツェン将棋クラブ

デブレツェンはハンガリー東部に位置するハンガリー第二の都市である。古くから、カトリックに対立するカルヴァン派の拠点として栄え、現代では多くの大学を擁する大学都市となっている。街を歩くと、ひと目で裕福な人々の住む街であることがわかる。街の人と目を合わせると、じっとこちらを窺うようで、笑みをたたえた顔は見たことがない。

さて、この街の大学の一つに勤めるゲルゲリーと大学前の噴水で待ち合わせた。ゲルゲリーは大学の将棋クラブを主宰している。この日は、10名ほどの将棋指しが集まった。初めに日本から携行したみやげ物を手渡して、この会合を開いてくれたことに感謝の意を表した。

ゲルゲリーによれば、彼に続く新鋭として、二人のクリスティアンが台頭している、とのこと。私は、初めにゲルゲリーに負け、次いで一人のクリスティアンにも負けてしまった。

WOSCにおけるクリスティアン・ソモディ(先)と私の棋譜を別稿で示す。

クリスティアンは対局中、67手まで、棋譜を自分で記録していた。彼はまた長考派だ。

デブレツェンの将棋指しは研究熱心だ。これはESCの会場でのことだが、対局の合間に、デブレツェンの将棋指しが何人か集まって対局し意見を闘わしている。そこに、ゲルゲリーが顔を出し、アドバイスする。このような情景を何度も目にした。ゲルゲリーは序盤の戦法に明るく、彼らにとって絶好のコメンテーターなのだ。このような組織者がいてこそ、デブレツェンの将棋シーンが隆盛になることを実感した。

なお、ハンガリーの将棋指しの拠点はデブレツェンであり、ブダペストでは定例のミーティングを開くまでには至っていない、とのこと。

(2014-08-19)


ヨーロッパ:オペラと将棋の旅 6

2014-08-16 07:17:25 | 異文化紀行

 

(6)鉄道の旅

ミュンヘンのノイエ・ピナコテークは、主に19世紀の美術品を展示している。一通り観て回ったが、1時間半で済んだ。5年前のアルテ・ピナコテークで5時間かかったのに比べると、楽だった。私の好きなフェルディナン・ホードラーの作品が2点あった。この秋、国立西洋美術館で「フェルディナント・ホドラー展」が開かれるので、いい予習になった。また、スイスの画家セガンティーニの秀作を1点見ることができた。

バイエルン州立歌劇場では、ほかに、ロッシーニ『ウィリアム・テル』を聞いた。3幕を通しで上演し、2時間10分。開始は午後6時、カーテン・コールもなしだった。この日のサッカーのワールド・カップ決勝戦に配慮して、早めに切り上げたか?

ホテルに帰って、ロビーでワールド・カップ決勝戦を観戦した。ドイツが優勝したが、素人目には凡戦に写った。周りの人に「おめでとう」と声をかけて部屋に戻った。表の道路からは、夜中遅くまで、地元の若者の嬌声が聞こえてきた。

翌朝、ミュンヘンからデブレツェンまで大移動の旅に出た。

ミュンヘンからブダペストまでは、以前のオリエント急行の軌跡をたどること7時間半。1等を奮発した。鉄道の旅は快適だったが、NMさんに災難がふりかかった。詳細は略す。

ブダペストの東駅から西駅にタクシーで移動し、ブダペストからデブレツェンに向かう。2時間半の予定。ところが、デブレツェンに到着する寸前で、列車が枕木か砂利に乗り上げたような音を発して停車してしまった。同行3人は顔を見合わせた。「3人だから不安は薄らぐが、1人だったらどうしただろう」と異口同音に話した。結局、列車は1時間半遅れでデブレツェンに到着した。長い旅だった。長すぎる旅を計画したことを反省した。ITさんはさぞ疲れただろう。

(2014-08-16)

 


ヨーロッパ:オペラと将棋の旅 5

2014-08-13 07:15:11 | 異文化紀行

 

(5)『さまよえるオランダ人』

ワーグナー『さまよえるオランダ人』は、全3幕を一挙に上演した。2時間10分。第1幕と第3幕は普通の舞台装置だったが、第2幕は、何と、現代のフィットネス・ジム。ダラント船長の娘ゼンタもトレーニング・ウェアで登場するのだが、恋人エリックからマントをかぶせられる場面では、何とも様にならない。第3幕で登場する時には、トレーニング・ウェアは脱いでいたが。

第2幕をフィットネス・ジムに設定した意味は? 効果は? という疑問が残る。

ほかには、序曲の長いことと「水夫の合唱」に力強さが欠けることが気になった。

ここで、ワーグナーの楽劇全10作を比較してみると、私の好みは『ニュルンベルクのマイスタージンガー』『トリスタンとイゾルデ』『タンホイザー』の順になる。

『マイスタージンガー』は小市民の哀しみを描き出して秀逸だ。第3幕でハンス・ザックスの家に泊まっていた騎士ワルターが、「昨晩、こんな歌を思いつきました」と歌い出す歌は見事で、ハンス・ザックスはその歌の中に、従来の規約にとらわれない新しい歌唱法を見出す。「いいねえ、そのまま、今日の歌試験で歌ってみたら」とワルターに勧める。ハンス・ザックスはワルターの歌の中に、改革派の市民像を見出しているのだ。

『トリスタンとイゾルデ』は第2幕から第3幕にかけてのトリスタンとイゾルデのアリアが見事だ。この楽劇では、合唱を排して、二人のアリアを徹底して聴かせることに集中している。

『タンホイザー』は官能と救済というワーグナー楽劇の主題を最もわかりやすく表現している。序曲が秀逸だ。

(2014-08-13)


ヨーロッパ:オペラと将棋の旅 4

2014-08-10 07:12:26 | 異文化紀行

 

(4)ミュンヘン

ミュンヘンは2009年に続いて2回目の訪問だ。前回は、バイロイト音楽祭の帰りに、この街をベースにして、ルートヴィヒ二世を偲ぶ旅をした。(「バイエルン紀行」)

今回は、ワーグナー『さまよえるオランダ人』を聴き、ノイエ・ピナコテークを鑑賞するのが主目的だ。

ITさんがミュンヘンを大変楽しみにしているので、前回体験して良かったことを勧めてみようと思う。すなわち、聖ミヒャイル教会でルートヴィヒ二世とオットー一世の墓を詣でること、名物の白ソーセージを食することなど、たわいのないことだ。実際には、ITさんは聖ミヒャイル教会には興味を示されなかった。また、白ソーセージについては特別の感想をいただけなかった。

ワーグナーの楽劇全10作を、現地で(すなわち、ドイツ語圏で)聴く計画を立てて6年にして、ようやく計画が完遂しようとしている。2009年にバイロイトで5作、2013年にベルリンで4作聴き、今回ミュンヘンで最後の1作を聴くわけだ。いささか感慨を催さざるをえない。

バイエルン州立歌劇場には初見参だ。壮麗な建物で、内部はバルコニー席が6階まである。6階から舞台を見渡すということは、高千穂峡のつり橋から下の川を見るようなものだ。想像しただけで冷や汗が出てくる。

座席は新しく張り替えたようで快適だ。ただ、前の座席との間隔は、バイロイト祝祭歌劇場やベルリン・ドイツ・オペラと同じく狭い。

(2014-08-10)

 


ヨーロッパ:オペラと将棋の旅 3

2014-08-07 07:42:22 | 異文化紀行

 

(3)ボランティア活動

将棋の国際交流活動は一種のボランティア活動ととらえることができる。ボランティア活動とは、やりたいこと・できることをやるのが大原則で、各人の意思は尊重しなければならない。NMさんのスタンスを理解した以上、無理強いはできない。また、将棋の国際交流活動は、チームでなくとも、個人でも十分その成果を出せることは、私自身過去半年間で経験したことだ。NMさんには、個人として立派な成果を出すことを期待したいと思う。

でも、NMさんのスタンスにはいささか違和感も覚える。旅程を組むのも・フライトやホテルの手配も人任せ、それなのに、チームを組んで役割分担するのを拒絶とは! 彼は、みこしに乗るのは熱心だが、みこしを担ぐのはいやだという。彼には「ただ乗りの達人」または「 Easy Rider 」というニックネームを献上したいと思う。

結局、今回の旅行では、NMさんとはフライト・鉄道で同道し、同じホテルに泊まるものの、そのほかの活動は別という奇妙な珍道中となった。(最終的にはフライトは別になった。)

一方、ITさんは80歳と高齢であり、首痛と腰痛を抱えているとのことなので、道中、十分なケアをしなければならない。この旅の最大のテーマであることに変わりはない。道中のITさんの様子を見ながら、参加していただくイベントとそうでないイベントを臨機に判断してITさんに提案することにした。

(2014-08-07)


ヨーロッパ:オペラと将棋の旅 2

2014-08-04 07:39:18 | 異文化紀行

 

(2)チームの結成と解散

旅程が決まり、フライトとホテルの手配も済ませた。

ここで、ITさんとNMさんとから、同道したいという申し出を受けた。異論はない。ただし、私の旅程は決まってしまったので、私の旅程をテンプレート(下敷き)にして、各自の旅程を考えてもらうことにした。私の旅程は、期間が長い・体力もいる・金もかかるので、他人にそのまま勧めるのはいかがなものかと考えたからだ。また、フライトとホテルの手配は各自で済ますのを条件とした。詳述は避けるが、昨年の苦い経験を繰り返さないためだ。ITさんはこれに同意した。だが、NMさんは、驚くことに、フライトとホテルの手配をITさんに任せるという。

やがて、二人から、「すべての旅程に同道したい」との意向が示された。異論はない。それでは、ということで、三人でチームを組んで行動しようと提案した。将棋の国際交流の実を挙げるには、個人として活動するよりも、チームを組んで活動する方が相乗効果を発揮するだろうと考えたからだ。

ところが、NMさんから思わぬ反応が返ってきた。棋譜を採譜することはお断りします・報告の作成はお断りします・写真を提供することもお断りします、ということらしい。これでは、チームを組んで活動して実を挙げるのは難しいので、チームは解散することにした。

ITさんからはなかなか反応が返ってこない。気力・体力に問題がありそうなので、ITさんともチームを組むのを断念した。

(2014-08-04)


ヨーロッパ:オペラと将棋の旅 1

2014-08-01 07:34:34 | 異文化紀行

 

日程:2014年7月10日-24日

この夏、ヨーロッパ中央部を旅した。ミュンヘン(ドイツ)から始まり、デブレツェン・ブダペスト(ハンガリー)を経てブラティスラヴァ(スロヴァキア)を巡る大旅行であった。うち、ミュンヘンではオペラを聴いたり、絵を鑑賞したりし、他の3都市では、将棋仲間との交流に尽した。以下はその記録である。

(1)事前準備

今年のヨーロッパ将棋選手権(ESC)がハンガリーのブダペストで開催されることが決まり、私は小躍りした。ブダペストは誰もがいい街だというし、私も一度は訪ねてみたいと思っていたからだ。フン族・マジャール人の末裔はアジアとのつながりを思い起こすし、ハプスブルク家の歴史遺産にも興味をそそられる。また、ハンガリーは温泉大国としても知られている。

ブダペストでのESCの前に、どこかでオペラを聴けないか探したところ、ミュンヘン・オペラ・フェスティバルでワーグナー『さまよえるオランダ人』が上演されることをつかんだ。これで、私の旅程の骨格が決まった。さらにハンガリー将棋協会とスロヴァキア将棋協会に連絡を取り、ブダペストでのESCの前と後に、デブレツェンとブラティスラヴァで現地の将棋指しと交流することが決まった。

(2014-08-01)