静聴雨読

歴史文化を読み解く

外人部隊

2013-01-26 08:50:45 | 社会斜め読み

 

アルジェリアの天然ガス・プラントにたいする襲撃事件は、政府軍による鎮圧により、ひとまず収束した。

わが国にとっては、日本人10名が犠牲になり、外国人7名を含めると日揮の関係者が17名も犠牲になるなど、考えられる最悪の結末となった。

一方、アルジェリアにとっては、犯人のテロリスト集団の要求に応じず、テロリスト集団を殲滅するか拘束するかすることができ、その上、国の富の源泉である天然ガス・プラントの損傷を最小限に抑えることができたのだから、考えられる最良の結末だったのだろう。

 

日本やイギリスなどアルジェリアに人材を派遣している国々の国益とアルジェリアの国益とがここまで乖離している現実は衝撃的だ。アルジェリア政府が人質となった外国人の安全な救出に意を用いていなかったことが判明したからだ。

 

ここで、「外人部隊」ということばが浮かんだ。高額で雇われた外国の政府のために、情け容赦なく、戦い、殺人を繰り返す兵士のことだ。近年の例では、リビア政府のカダフィ大佐に雇われた外人部隊がリビア国民を無差別に殺害したことが知られている。「金のためには、命を賭ける」というのが外人部隊の信条だ。

 

図らずも、今回わかったことは、日本やイギリスなどから派遣されたエンジニアは、一種の「外人部隊」ではないか、ということだ。彼らは、イギリスの天然ガス掘削会社や日本のエンジニアリング会社に高額(月収300万円ともいわれる)で雇われているものの、働く場所はアルジェリアの砂漠地帯だ。過酷な自然環境に加えて、セキュリティー管理はアルジェリアまかせにならざるを得ない。

 

「あなたも私も買われた命」というフレーズは、「カスバの女」という歌謡曲の一節だ。北アフリカの街の酒場で働く女が、フランスから来た外人部隊の兵士を想っていうセリフだ。このセリフが痛いほど身に滲みる。 (2013/1)

 


近況報告・4

2013-01-12 07:47:47 | 身辺雑録

 

「どうしてインプットが少なくなったの?」

「身辺が多忙になったせいもあります。」

「というと?」

「大学の先輩が体調を崩して、彼の携わるNPO法人の運営に支障が生ずることになりました。それで、彼の業務のお手伝いを始めました。今は決算期で、3月の総会に向けて決算資料の作成に携わっています。予算が100万円に満たないNPO法人でも、それを運営するには多くの労力が必要なようです。」

 

「退役後は『忙しくしない』というのがあなたのモットーではなかったの?」

「はい、これまでは、そのモットーに忠実に過ごしてきたつもりです。忙しくしている人には、近づかないようにしてきました。」

「今回は宗旨替えしたの?」

「そう責めないでください。身近な先輩が窮地に陥ったときに、助けるのは当然ではないか、そう思うようになりました。周りからも、『あまり意固地にならないで。時には、現実を受け入れて、生き方の軌道修正も必要よ。』と忠告されました。」

 

「でも、NPO法人といっても、結構運営が大変よ。いろいろな人がいるから。」

「はい、『老いたる覇権争いに加わらない』というもう一つのモットーは死守するつもりです。」

「なら、心配しないけど。」

「私は還暦を過ぎたあたりから、『世話好き』の本性に目覚めました。今回も、その本性が先輩を助けるというところに現われました。当分の間、NPO法人の運営に携わっていくつもりです。」

 (2013/1)

 


近況報告・3

2013-01-10 07:31:23 | 身辺雑録

 

「では、ノンアルコールビールで乾杯!」

「乾杯! ところで、最近、ブログの更新が滞っていない?」

「すみません。その通りです。」

「どうして?」

「単純にいうと、インプットが少なくなったからです。」

「え?」

「ブログに載せるコラムは、必ず、読書・音楽鑑賞・美術鑑賞・旅行などの経験が下地になっています。その経験がインプットになっているわけです。ところが、読書・音楽鑑賞・美術鑑賞の量が少なくなっています。旅行だけでしょうか、頻繁に行っているのは。」

「それで、書くものがなくなった。」

「まあ、そうです。最近、ある人から、『もう、義務のようなブログは辞めて、自分の好きなことに時間を使ったら?』という忠告を受けました。ブログを続けることが決して義務だとは考えていないのですが、痛いところを衝かれた気がします。つまり、ブログにマンネリ性を見つけ出されてしまったようなのです。」

「じゃあ、そろそろ、ブログ卒業ね。」

「いえ、まだ、今のところは・・・」

「何か、歯切れが悪いわね。」

「書きたいことがなくなったわけではありません。その証拠に、書きたいコラムのタイトルだけでも披露しましょう。」

「何々?」

「『セーヌ左岸』・『アンダルシアの思い出』・『1907年のピカソ』・『物見遊山の効用』・『ニュー・イングランドの思い出』・『古本一期一会』・『将棋の国際交流』・『「属する」ということ』・『グローバル・スタンダード』・『近代の詩人たち』・『コンサルティングの思想』などなど。」

「そう、それを書いてみたら。読んでみたいわ。」

「これらのコラムを完成させるためには、多かれ少なかれ、新たな『インプット』が必要なのです。」

「なるほどね。」  (2013/1)


近況報告・2

2013-01-08 07:09:17 | 身辺雑録

 

「部屋がずいぶんすっきりしたようね。」

「はい、甥っ子の助けを借りて、大々的なレイアウト変更を実施しました。」

「居間に本棚4本が並んだわね。」

「居間は書斎でもあるわけですが、ここにこれからも置いておきたい本を並べました。仮に、『究極の本棚』と名づけています。」

「鶴見俊輔、加藤周一、寺山修司、木下順二、大江健三郎、森有正・・・。あなたらしいラインアップだわ。」

「ヘンリー・D・ソローやウィリアム・モリスもあります。種村季弘や池内 紀も登場です。」

「柳宗悦もあるわね。」

「柳宗悦はわが国の民芸運動の創始者として知られていますが、ほかにも、白樺派の人たちとも交わっていました。実は、ヘンリー・D・ソローやウィリアム・モリスをわが国に紹介したのも柳宗悦と白樺派の人たちなのですよ。」

「そうなの。」

「そして、ヘンリー・D・ソロー、ウィリアム・モリスと柳 宗悦との関係を明らかにした思想家が鶴見俊輔なのです。ですから、私にとって、この4人は私の思想形成を支えるバックボーンなのです。」

 

「あちらの部屋は?」

「『座敷牢』と戯れに呼んでいますが、『究極の本棚』に入らない本を収納しています。これらの本は、『BIBLOSの本棚』からお客様のもとに飛んでいくのを待っているわけです。」

「思ったより、『座敷牢』の中もすっきりしているわね。」

「毎月、ダンボール箱で2箱分の本が減っています。お客様と三省堂古書館に送り出すからです。臨時のフェアがあると、一度に6箱ほど送り出します。」

「じゃあ、随分本は減ったんじゃない?」

「1年間で、本棚にして3本減りました。今年秋には『BIBLOSの本棚』を卒業しようと思っています。」

「あら、また、なぜ? もったいないじゃない。」

「本を詰めたダンボール箱を持ち上げようとして、腰を痛めました。それで、辞める踏ん切りがつきました。」

 

「こちらの部屋は空いてるようね。」

「オーディオ・ルームにしようと思っています。最近、クラシック音楽ファンやオーディオ・ファンが周りに多くいることがわかりまして、私もそれに刺激を受けて、オーディオを再開しようと考えているところです。」

「そういえば、あなたのコラムに『大作曲家とは』というのがあったわね。この部屋でバッハ・モーツァルト・ベートーヴェンを聴いてみたいわ。」

「いずれ、部屋が整備できたら、ご招待します。」  (2013/1)

 


近況報告・1

2013-01-05 07:20:00 | 身辺雑録

 

「あけましておめでとうございます。」

「おめでとうございます。今年もどうぞよろしく。」

「はい、これ。ノンアルコールビール。あなた、最近太っているから。」

「ビールもノンアルコールビールもいただきます。でも、ノンアルコールはノンカロリーなのかな?」

「ほら、エネルギーは11kcalでしょ。ビールは、42kcalもあるのよ。」

「はいはい、せいぜい、ノンアルコールビールを飲むことにしましょう。」

 

「今日は晴れて、空がきれいね。」

「遠くの、左右の丘が切れたところに、海が見えるでしょ。あれが金沢八景。」

「ほんとだ。海が上・下二段になって見えるわね。」

「なぜ、二段になって見えるか不思議なのですが。」

「左側に観覧車が見えるわね。あれが、『八景島シーパラダイス』ね。」

「そう、夏の週末には、あそこで花火が上がる。規模が小さく、高さも低いので、あまり迫力を感じないがね。」

「でも、素晴らしいじゃない。」

 

「あなた、以前、金沢八景に住みたいといっていたわね。」

「はい、真剣に物件を探しました。でも、なかなか、これはという物件が見つからなくて。そのうちに、東日本大震災が起こりました。」

「金沢八景は海辺に近いから、津波が心配ね。」

「役所に行って、『津波からの避難に関するガイドライン』というのをもらって来ました。それによると、『慶長型地震』を想定した『予測される最大津波高』が4.0mとなっています。金沢八景近辺でも、1m-2mの津波は覚悟しないといけないらしい。」

「それは、考え込まざるをえないわね。」

「最近、売りに出ている中古マンションのほとんどは1階か2階なのさ。」

 

「なるほど。それだったら、ここは高台で、津波の心配もないし、遠くに金沢八景も見えるし、ここに落ち着いたら。」

「私もそういう考えになってきました。」  (2013/1)


アウシュビッツについて・4

2013-01-03 07:20:25 | 異文化紀行

 

(4)現代に置き換えると

 「ずいぶん、寂しい話ね。」

「・・・」

「あれ、黙ってしまった。」

「これ、ご覧よ。イスラエルがガザ地区への新規入植を認めた、という記事が出ている。」

「それとアウシュビッツがどう関係するの?」

 

「アウシュビッツでは、働けると判定されたユダヤ人は、労働中隊に編入されて、道路工事や線路工事に駆り出された。」

「それで?」

「現代のイスラエルでは、入植者が汗水たらして、痩せた土地を開拓するために働いている。同じ厳しい労働でも、強制された労働(アウシュビッツ)と半ば自ら進んで行う労働(ガザ地区)では、その意味が違うかもしれない。しかし、ガザ地区への入植には大義がない。ガザ地区はパレスチナの領土なのだから。ということは、汗水たらした神聖な労働が、アウシュビッツの強制労働でも、ガザ地区への入植活動にしても、無駄に、あるいは不当に、行使されていることになる。」

「難しくてよくわからないけど、なるほどね。」

 

「だから、アウシュビッツでの苦しみを舐めたユダヤ人には、パレスチナの領土を不当に占領したり、意味のない労働で入植活動をしたりするという考えを改めてほしいと思うわけだ。」

 (2013/1)


アウシュビッツについて・3

2013-01-01 07:32:56 | 異文化紀行

 

(3)既視感

「それで、実際のアウシュビッツはどうだったの?」

「正門では、言語別にガイド・ツアーがありました。英語・ドイツ・フランス語・スペイン語のガイドはありましたが、日本語のガイドはありません。そもそも日本人にはまったく出会いませんでした。」

「中国人や韓国人は?」

「いません。それで、英語のガイド・ツアーに入りました。」

 

「収容所の入口には、有名な『 ARBEIT MACHT FREI 』 の鉄製の看板がありました。『働けば自由になる』とは何とふざけた標語でしょう。これを見た瞬間に気持ちが沈んでいきました。」

「収容所に連れてこられたユダヤ人は振り分けられたのでしょ?」

「そう、働けない囚人は焼却炉行き、働ける囚人は労働に駆り立てられたわけ。」

 

「途中、ガイドにはぐれ、後は一人で見学しましたが、行く先々で、これは見たことがあるという『既視感』に囚われました。なぜだろうと考えたら、アラン・レネのドキュメンタリー『夜と霧』で見た映像を追体験しているのだとわかりました。」

「私もあれは見たわ。」

 

「アウシュビッツの後は、隣りのビルケナウに行きました。これがとてつもなく大きな収容所で、アウシュビッツより大きかったですね。」

「そう、アウシュビッツ=ビルケナウ収容所として世界遺産になっていたわね。」

「正門から奥に真直ぐ線路が伸びていて、その長さが1km あるそうだ。そこを歩いていると、ナチスの途方もない蛮行が伝わってきて、怖気をふるったものさ。」

「・・・」

「加えて、途中から雨が降ってきて、冷気に身が縮みました。7月だというのに。」  (2013/1)