(1)労働の質の変容
わが国の「バブル崩壊」が1989年。その後の10年間は、内需が停滞し、証券会社や金融機関が破綻するなどして、外国からは「日本の失われた10年」といわれました。世界経済に何の貢献もしてこなかった10年間、というわけです。
さて、それからまた10年が経過しました。その10年間を何と表現したらよいのでしょうか?
私は「もう一つの失われた10年」と評したいと思います。
この期間は、ITミニバブルが崩壊した後、小泉純一郎の率いる内閣が「市場原理主義」を推し進めた期間です。「市場原理主義」を推進した結果、地方が疲弊し、格差が拡大し、労働の質が劣化しました。特に、私は、「労働の質の劣化」に注目したいと思います。
パート・タイマー、アルバイト、派遣社員、期間工、季節工。これらは、まとめて「非正規労働者」と呼ばれます。個々の間の違いはよく知りませんが、まさに、「正規でない労働者」であることは間違いありません。
わが国の経済が低成長時代に入り、企業収益を確保するために、企業は、コストの高い「正規労働者」を抑えて、コストの安い「非正規労働者」を大量に導入しました。それを可能にした一つの要因が、ITの普及だと、寺島実郎氏が述べています。つまり、ITの普及により、熟練労働の需要が減少し、極端にいえば、レジ打ちだけできればいい労働者の需要が拡がった、というわけです。
一方で、中小企業に点在する熟練労働者が、低賃金のまま置かれています。
このように、わが国では、低成長化に伴い、労働の需要が減っただけでなく、労働の質も劣化し続けています。これでは、国力が浮揚するはずがありません。
(2)ワークスタイルの変容
低成長時代に入り、国内需要が爆発的に増大する期待がもてないとすれば、労働のあり様に変化が生まれることは必然です。非熟練労働の需要の増加、「非正規労働者」の増加がそれです。
その中で、できる限り、労働の質を維持する方策が求められます。
オランダなどでは、解決策を「ワーク・シェアの導入」に求めています。
「ワーク・シェア」は、少ない仕事を多くの労働者で分担することにより、多くの人の雇用を確保する仕組みです。当然、一人あたりの労働時間は少なくなり、オランダでは、週30時間程度です。また、一人あたりの賃金も減少します。
「ワーク・シェア」により空いた労働時間を埋め、目減りした賃金を回復するには、新たな方策が必要です。
第一に考えられるのは、空いた労働時間で、もう一つの仕事をすることです。
例えば、会社員の例を挙げると:
月曜日:会社勤務
火曜日:会社勤務
水曜日:河川改修の仕事に従事
木曜日:会社勤務
金曜日:会社勤務
土曜日:休日
日曜日:休日
もう一つの仕事は、本来の仕事と違う内容・違う質のものでもいい。それが、このワーク・スタイルの特徴です。もう一つの仕事は、国や自治体が供給することができます。また、もう一つの仕事は、国の推進する「再生戦略」に基づく地域再生の仕事などにすることもできます。
さらに、重要なことは、「もう一つの仕事」は、好きな時に好きな時間だけ働くことが選べることです。
すると、この「もう一つの仕事」は、空いた労働時間を埋め・目減りした賃金を回復する目的に活用できるだけでなく、ボランティア活動の対象にすることもできるということが容易に類推できます。
これまでは、単一労働に従事することが当然のように考えられてきましたが、「マルチ・ワーク」のワーク・スタイルを普及させることにより、多くの「正規労働者」を確保する一方、地域の再生に貢献する労働力も確保することも期待できます。
・・・以上は、2010年初頭の三つ目の「初夢」でした。 (2010/2)