※残念ながら2019年10月に閉業しました
鄙びた一軒宿にはどうして心が惹かれてしまうのでしょう。仕事で心が荒んだ5月の某日、鄙びた雰囲気と長閑な光景に包まれて昂った気持ちを鎮ませたくなり、栃木県の那珂川沿いに点在する馬頭温泉郷の温泉宿のひとつ、「那珂川温泉旅館」へ向かうことにしました。こちらは温泉ファンの間では隠れた名湯として名を馳せている、失礼ながら意外にも有名な一軒宿であります。周囲はだだっ広い田圃や畑が広がるばかり。集落からも離れており、辺りに建つ建物はこのお宿だけです。
お宿の裏手は那珂川の河原。この日は天気に恵まれ、広々とした川原はとっても爽快でした。川の中洲にはコンクリの構造物が建てられているのですが、おそらくこれは那珂川温泉の源泉櫓なんでしょう。
木造の古い建物には温泉旅館であることを示す看板などはなく、その佇まいは民家そのもの。駐車場にはゴミが散らかっており、客商売をしている気配があまり感じられません。しかしながら玄関の表に貼ってある飲食業の営業許可鑑札や「 をした方の入浴は堅く・・・」という色が褪せて一部の字が消えてしまっている注意書きによって、ここが入浴施設であることを辛うじて判断することができます。
玄関では頭に鉢巻きを締めた大きなタヌキのぬいぐるみがお出迎え。タヌ公の頭上には芸術的な文字で「那珂川温泉」と描かれている額が飾られていました。
玄関左手の居間では宿を経営する老夫婦が卓袱台を囲んでテレビを見ながら昼下がりのひとときを過ごしていました。私が入浴利用をお願いしますと、女将さんが立ち上がって、栃木県北らしい強い訛りで「いま他のお客さんが入ってっから、ちょっと待っていただきますけど、いいですか」と確認しながら対応してくださり、待つことを了承して500円玉を手渡しますと、女将は料金と引き換えにサービス券(10枚集めると入浴1回無料)をこちらに渡してくれました。このような券が存在するということは、こちらでは入浴利用の需要がそれなりにあるってことですね。
こちらのお宿はお風呂が一室しかないため、男女混浴であり且つ貸切利用が原則となっており、そのためこの時は先客が上がってくるのを待つことになったわけです。浴室の手前にあるお座敷でお茶をいただきながら、20~30分ほど過ごしました。お茶を淹れるお湯は温泉水を沸かしたもので、味や口当たりがとてもまろやかでした。旅館というより古びた農家にお邪魔しているようです。待っている間は、既にお風呂から上がって座敷で寛いでいた先々客のお婆ちゃんとお喋りしていたのですが、齢80をゆうに超えるそのお婆ちゃん曰く、午前中に自給用の野良仕事を終えて昼飯を食った後に、毎日のようにここのお風呂へ通っており、湯上りにはお湯をPETボトルに6リットルも汲んで自転車の後部に括りつけて持ち帰っているんだそうです。
浴場入口の手前に、これまた旅館らしからぬ生活臭の強い洗面台があり、お婆ちゃんはここで温泉を汲んでいるんだとか。先客のご夫婦がお風呂から出てこちらへやってくると、私の姿を見つけて「次のお客さんかい? もう上がったから入んなよ。いい風呂だよ」とさっぱりした表情を浮かべながら声をかけてくれました。
脱衣室は一応扉がふたつあり、左右に分かれてシンメトリになっているのですが、両区画を隔てるのはこの薄いレースのカーテンのみでして、実質的には一室です。ま、背中を向かい合わせにすればお互いを見ずに済むのでしょうけど、壁には鏡が貼り付けられているので、なんだかんだで見えてしまうこと必至。室内には赤く塗られた棚しか無く、まさに着替えるためだけのスペースであります。
浴室も古くてボロボロ。室内はタイル貼りですが、至るところで割れたり剥がれたりしています。一部は補修されていますが、その作業の様はかなり雑で、職人さんではなく素人が施工したんじゃないかしらん。浴槽にはフタが被せられていましたが、これは源泉温度が低いお湯を沸かしているため、熱を無駄にしないようにするためかと思われます。
フタをあけると無色透明のお湯が姿を現しました。長方形の浴槽はおおよそ6人サイズ。槽内のタイルもあちこちが剥離しており、まだら模様を呈していました。このお風呂っていつ造られたんだろう…。
浴室左側にはシャワーがひとつ取り付けられていますが、使えるかどうかは不明。
真ん中の壁より突き出た塩ビパイプから加温された温泉が注がれています。お湯は加温循環されており、適温が維持されていました。なおオーバーフローは見られません。湯面にはアルカリ性単純泉のお湯でよく見られる粉のような浮遊物が浮いていました(湯垢で無いことを信じます)。加温循環という湯使いですが、アルカリ性・ナトリウムイオン多い・炭酸イオン多いという条件を有しているために、お湯に浸かるとまるでローションの中に入っているかのようなヌルスベ浴感が全身を包み、肌を擦るとその感触を強く実感することができました。
シャワーの左にはホースがつながっている蛇口があり、ここからは非加温の生源泉が出てきます。温度的はほとんど水なのですが、さすがに新鮮な源泉だけあって、この鉱泉の感触が素晴らしく、指先でさするだけでもわかるほど、湯船のお湯を上回るヌルヌルスベスベが体感できました。できるならば暑い季節にこの冷たい鉱泉に浸かってみたいものです。私は湯上り直前にこの鉱泉を浴びてから浴室を出ました。
天井を見上げると汚れのこびりついたルーバーが取り付けられていたのですが、湯上りに裏手に回って見てみると、浴室は棟続きながら独立した湯屋になっており、屋根には田舎の古い共同浴場のような湯気抜きを戴いていました。
浴室はゴミが置きっぱなしでヌメリもあったりしますし、ひとつの湯船で少ないお湯を循環させながら使い、そのお風呂に次々とお年寄りが入ってゆくので、潔癖症の方には勧められませんが、昔ながらの鄙びた鉱泉宿風情が好きな方には堪らない佇まいですし、蛇口から出てくる非加温の鉱泉の感触も素晴らしいものがありました。お座敷で地元のお年寄りとお茶を啜りながらお喋りするノホホンとしたひと時は、都会の憂さを晴らしてくれるに十二分でした。なおトイレ(もちろんボットン)をお借りする際に客室を覗いたのですが、部屋のテレビはちゃんと地デジ対応でしたよ。もし宜しければ宿泊なさってみては。
那珂川温泉開発源泉
単純温泉 28.9℃ pH9.3 21.7L/min(自然湧出) 溶存物質0.333g/kg 成分総計0.333g/kg
Na+84.0mg(96.56mval%),
SO4--:35.4mg(20.05mval%), HCO3-:79.5mg(35.23mval%), CO3--:42.8mg(38.75mval%),
H2SiO3:81.5mg,
(昭和62年1月19日分析)
加温循環あり
栃木県那須郡那珂川町小川1679-2 地図
0287-96-4353
※残念ながら2019年10月に閉業しました
受付時間不明
500円
シャンプー類あり、他備品なし
私の好み:★★
鄙びた一軒宿にはどうして心が惹かれてしまうのでしょう。仕事で心が荒んだ5月の某日、鄙びた雰囲気と長閑な光景に包まれて昂った気持ちを鎮ませたくなり、栃木県の那珂川沿いに点在する馬頭温泉郷の温泉宿のひとつ、「那珂川温泉旅館」へ向かうことにしました。こちらは温泉ファンの間では隠れた名湯として名を馳せている、失礼ながら意外にも有名な一軒宿であります。周囲はだだっ広い田圃や畑が広がるばかり。集落からも離れており、辺りに建つ建物はこのお宿だけです。
お宿の裏手は那珂川の河原。この日は天気に恵まれ、広々とした川原はとっても爽快でした。川の中洲にはコンクリの構造物が建てられているのですが、おそらくこれは那珂川温泉の源泉櫓なんでしょう。
木造の古い建物には温泉旅館であることを示す看板などはなく、その佇まいは民家そのもの。駐車場にはゴミが散らかっており、客商売をしている気配があまり感じられません。しかしながら玄関の表に貼ってある飲食業の営業許可鑑札や「 をした方の入浴は堅く・・・」という色が褪せて一部の字が消えてしまっている注意書きによって、ここが入浴施設であることを辛うじて判断することができます。
玄関では頭に鉢巻きを締めた大きなタヌキのぬいぐるみがお出迎え。タヌ公の頭上には芸術的な文字で「那珂川温泉」と描かれている額が飾られていました。
玄関左手の居間では宿を経営する老夫婦が卓袱台を囲んでテレビを見ながら昼下がりのひとときを過ごしていました。私が入浴利用をお願いしますと、女将さんが立ち上がって、栃木県北らしい強い訛りで「いま他のお客さんが入ってっから、ちょっと待っていただきますけど、いいですか」と確認しながら対応してくださり、待つことを了承して500円玉を手渡しますと、女将は料金と引き換えにサービス券(10枚集めると入浴1回無料)をこちらに渡してくれました。このような券が存在するということは、こちらでは入浴利用の需要がそれなりにあるってことですね。
こちらのお宿はお風呂が一室しかないため、男女混浴であり且つ貸切利用が原則となっており、そのためこの時は先客が上がってくるのを待つことになったわけです。浴室の手前にあるお座敷でお茶をいただきながら、20~30分ほど過ごしました。お茶を淹れるお湯は温泉水を沸かしたもので、味や口当たりがとてもまろやかでした。旅館というより古びた農家にお邪魔しているようです。待っている間は、既にお風呂から上がって座敷で寛いでいた先々客のお婆ちゃんとお喋りしていたのですが、齢80をゆうに超えるそのお婆ちゃん曰く、午前中に自給用の野良仕事を終えて昼飯を食った後に、毎日のようにここのお風呂へ通っており、湯上りにはお湯をPETボトルに6リットルも汲んで自転車の後部に括りつけて持ち帰っているんだそうです。
浴場入口の手前に、これまた旅館らしからぬ生活臭の強い洗面台があり、お婆ちゃんはここで温泉を汲んでいるんだとか。先客のご夫婦がお風呂から出てこちらへやってくると、私の姿を見つけて「次のお客さんかい? もう上がったから入んなよ。いい風呂だよ」とさっぱりした表情を浮かべながら声をかけてくれました。
脱衣室は一応扉がふたつあり、左右に分かれてシンメトリになっているのですが、両区画を隔てるのはこの薄いレースのカーテンのみでして、実質的には一室です。ま、背中を向かい合わせにすればお互いを見ずに済むのでしょうけど、壁には鏡が貼り付けられているので、なんだかんだで見えてしまうこと必至。室内には赤く塗られた棚しか無く、まさに着替えるためだけのスペースであります。
浴室も古くてボロボロ。室内はタイル貼りですが、至るところで割れたり剥がれたりしています。一部は補修されていますが、その作業の様はかなり雑で、職人さんではなく素人が施工したんじゃないかしらん。浴槽にはフタが被せられていましたが、これは源泉温度が低いお湯を沸かしているため、熱を無駄にしないようにするためかと思われます。
フタをあけると無色透明のお湯が姿を現しました。長方形の浴槽はおおよそ6人サイズ。槽内のタイルもあちこちが剥離しており、まだら模様を呈していました。このお風呂っていつ造られたんだろう…。
浴室左側にはシャワーがひとつ取り付けられていますが、使えるかどうかは不明。
真ん中の壁より突き出た塩ビパイプから加温された温泉が注がれています。お湯は加温循環されており、適温が維持されていました。なおオーバーフローは見られません。湯面にはアルカリ性単純泉のお湯でよく見られる粉のような浮遊物が浮いていました(湯垢で無いことを信じます)。加温循環という湯使いですが、アルカリ性・ナトリウムイオン多い・炭酸イオン多いという条件を有しているために、お湯に浸かるとまるでローションの中に入っているかのようなヌルスベ浴感が全身を包み、肌を擦るとその感触を強く実感することができました。
シャワーの左にはホースがつながっている蛇口があり、ここからは非加温の生源泉が出てきます。温度的はほとんど水なのですが、さすがに新鮮な源泉だけあって、この鉱泉の感触が素晴らしく、指先でさするだけでもわかるほど、湯船のお湯を上回るヌルヌルスベスベが体感できました。できるならば暑い季節にこの冷たい鉱泉に浸かってみたいものです。私は湯上り直前にこの鉱泉を浴びてから浴室を出ました。
天井を見上げると汚れのこびりついたルーバーが取り付けられていたのですが、湯上りに裏手に回って見てみると、浴室は棟続きながら独立した湯屋になっており、屋根には田舎の古い共同浴場のような湯気抜きを戴いていました。
浴室はゴミが置きっぱなしでヌメリもあったりしますし、ひとつの湯船で少ないお湯を循環させながら使い、そのお風呂に次々とお年寄りが入ってゆくので、潔癖症の方には勧められませんが、昔ながらの鄙びた鉱泉宿風情が好きな方には堪らない佇まいですし、蛇口から出てくる非加温の鉱泉の感触も素晴らしいものがありました。お座敷で地元のお年寄りとお茶を啜りながらお喋りするノホホンとしたひと時は、都会の憂さを晴らしてくれるに十二分でした。なおトイレ(もちろんボットン)をお借りする際に客室を覗いたのですが、部屋のテレビはちゃんと地デジ対応でしたよ。もし宜しければ宿泊なさってみては。
那珂川温泉開発源泉
単純温泉 28.9℃ pH9.3 21.7L/min(自然湧出) 溶存物質0.333g/kg 成分総計0.333g/kg
Na+84.0mg(96.56mval%),
SO4--:35.4mg(20.05mval%), HCO3-:79.5mg(35.23mval%), CO3--:42.8mg(38.75mval%),
H2SiO3:81.5mg,
(昭和62年1月19日分析)
加温循環あり
栃木県那須郡那珂川町小川1679-2 地図
0287-96-4353
※残念ながら2019年10月に閉業しました
受付時間不明
500円
シャンプー類あり、他備品なし
私の好み:★★
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます