温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

精英温泉(塔羅湾渓の河原に湧く野渓温泉) (台湾中部)

2012年05月06日 | 台湾
台湾で最も高い所に位置している温泉地は南投県の廬山温泉なんだそうですが、実際にはそれよりも高い場所で湧く温泉が何ヶ所かあり、廬山温泉から川を数キロ遡った河原には、その中のひとつである「精英温泉」という野湯が存在しています。旅行前にその情報を仕入れた私は、予めゲストハウスプリのオーナーさんに相談したところ、オーナーさんがわざわざ現地へ行って状況を調査してくださいました。その結果、地図で見る限りでは廬山温泉からあまり離れていないように見えるものの、実際には相当の距離があり、しかも集落がある山の上から野湯がある谷底に向かってものすごい標高差を往復しないといけないから、路線バスと徒歩によるアクセスはかなり難しい、とのことでした。そこでオーナーさんが温泉最寄りの集落に住む原住民の方に連絡してくださり、私はその原住民の方にガイドをお願いすることとなりました。



まずは埔里バスターミナルから8:15発の廬山行路線バスに乗車。廬山温泉へ行くバスなら1~2時間おきに運転されているのですが、温泉地から更に奥の廬山地区へ行くバスは一日4往復しかありません。



廬山温泉までの道は険しいワインディングながらも片側一車線が確保されているため、大型バスでも難なく通行できますが、温泉地を過ぎると道は俄然離合困難な狭隘路となり、途中バックして対向車をかわしながら、8:50に廬山バス停へ到着しました。


 
ここはセデック(賽克)族が暮らす集落です。バス停付近の小屋の壁には「生食はやめ、手をよく洗い、健康を維持しましょう」という標語が付された絵が描かれていました。


 
まずは今回精英温泉へ案内してくださるセデック族のダナ(達那)さんのお宅へ伺います。画像右がダナさん、左のデブおやじが私。ダナさんは簡単な日本語の単語ならわかるそうで、「上等でしょ」というフレーズを頻繁に口にしていました。なぜ日本語がわかるのかについては後述にて。


 
お宅のテラスからは、峻険な山稜が重畳する壮大な眺望が広がっていました。こんな絶景のテラスがあるお家って羨ましいですね。対岸の山にはダナさんの茶畑があるんだそうです。なお谷の一番底がこれから目指す温泉のある河原。この日はカンカン照りの暑い日でしたから、谷底まで歩いていったら干からびちゃうかも。


 
ダナさんの4WDの軽トラに乗って出発。茶畑が広がる山腹をひたすら下ります。急勾配が続き、路面もかなり荒れている悪路です。



出発して数分後、九十九折の坂の途中で後方を振り返ると、先程までいた廬山の集落が遠方に望めました。


 
車内で体が前後左右にピョンピョン跳ねてしまうデコボコ道を下り切って、集落から約4km、ようやく谷底の川「塔羅灣渓」に到達。目の前には吊り橋が架かっていますが、これは渡らず、橋の下をくぐって、車のまま川へ突っ込んで対岸(左岸)へ渡河します。なお谷底へ下りるまでなら普通車でも何とかなりますが、その先は4WDでないと走行不可です。



川を渡ってすぐのところに精英温泉があるはずなのですが、ダナさんはそのポイントを通過して更に上流へと軽トラを進めます。河原の礫が大きくなって車がこれ以上進めなくなったところで下車し、歩いて河原を遡ってゆきます。ビーチサンダルのダナさん、ヒョイヒョイと飛ぶような華麗な足運びで岩を飛んでゆくのですが、一体どこへ行くのかしら?


 
やがて目の前には立派な滝が姿を現しました。これを私に見せたかったのですね。狭い岩の切れ込みに大量の川水が集まって落ちているので、その滝の勢いは圧巻、なかなか壮観な景色です。ポーズを決めて滝の前に立ってご機嫌なダナさん。


 
ダナさんが私に紹介したかったのは滝だけではありませんでした。滝の右脇でちょろちょろ落ちている水を発見。周囲の岩は若干赤茶けており、ただの水ではなさそうです。もしかしたら…と思って訊いてみたら、ダナさんはシャワーを浴びるジェスチャーをしながら、これは打たせ湯みたいなもんだと説明してくれました。やっぱりこれは温泉なのです。この周辺の塔羅灣渓の河原一帯が大きな温泉湧出地帯のようです。



さて、第一目的である野湯に入るべく、河原を歩いて下流の吊り橋直下へと戻ります。



左岸の断崖下に大きな湯溜まりがありました。これがお目当ての「精英温泉」ですね。
大自然に抱かれた、本当に素晴らしいロケーションです。


 
温泉の湯溜まりを上流側に向いて撮影してみました。火山の噴気孔でもない普通の河原ですが、かなり大きな湯溜まりなのに、お湯の温度は46.6℃もあります。


 
湯溜まりの一番上(端)ではお湯がプクプク湧出していました。温度計を突っ込むと54.3℃という数値を計測。一般的に、川状の野湯は流れる方向へ下るに従い温度が下がってゆきますが、精英温泉はこの上流端のみならず、プール底のあちこちから湧出しているので、上流側も下流側もどこでも熱いんです。


 
砂利の下を潜って川の水が湯溜まりへ流れ込んでくるポイントが何ヶ所かあり、その水をブレンドさせれば丁度良い湯加減に調整することができるのですが、そのポイントでは先客が河原の礫で即席浴槽を作っていました。河原には水を求めて蝶々が次々に飛来してきます。



持参した着替え用ポンチョを身に纏いながら、その場で水着に着替えて、いざ入浴。
うひゃー! 極楽極楽!
お湯は無色透明無味無臭で癖の無い優しい泉質です。底から熱湯が湧いてきますから、適宜手でお湯をかき混ぜながら湯加減を調整しました。


 
3月とはいえ南国の日差しは強烈。ガンガン肌に突き刺してきますから、バッグから折り畳み傘を取り出し、これを日傘代わりにしながら入浴を続行。傘を持ってきて良かったわ。



お風呂から上がって集落へ戻った後、ダナさんのご自宅でお昼ごはんをごちそうになりました。初対面だというのに、こんなにもてなしてくださるとは! 
筆談と片言の中国語を交えながらご家族とお話ししたのですが、非常に興味深かったのは、セデック族の言葉にかなりの数の日本語が溶け込んでいること。日本統治時代を経ている台湾では、老人を中心にいまだ日本語が使われていることはよく知られていますが、日本時代の教育を受けたから日本語を話しているのとは別に、現在の日常生活で使われている原住民の言葉の語彙にすっかり日本語が吸収されているのです。言うなれば、英語をはじめとする横文字が日本語として使われているのと同様です。具体的には…
トウサン(父さん)・カアサン(母さん)・コップ・ハシ(箸)・チャワン(茶碗)・オートバイ・デンシャ(自転車の転訛)・タイヨウ(太陽)・リャカ(リヤカーの転訛)・セッカイ(石灰)
などなど。日本語における横文字のように、そもそも現地の言語に適切な概念や語彙が無かったために外来語をそのまま取り入れたのならともかく、植民地支配から解放されて60年以上経っているにもかかわらず、父さん・母さん・太陽など全人類にとって普遍的な事象ですらも日本語を借用しているのが意外でした。更に申し上げるならば、ダナさんのファーストネームは信(シン)さんなのですが、お父様は信一(シンイチ)さん、お母様は菊(キク)さん、40歳代と思しきお姉さんは華(ハナ)さんにフミコさんと、家族全員の名前が日本語読みなのです。セデック族といえば台湾最大の抗日暴動で知られる霧社事件で知られており、最近台湾で公開された映画『セデック・バレ』でもその様子が描写されていますが、諸々の過去を乗り越えて日本の文化を吸収し、自分たちの文化に昇華して現在に至っているんだろうと思われます。

 
もしご自分で廬山へ行かれる場合は、赤い民族衣装を来た女性の壁絵で右にそれる小道があるので、そこをひたすら道なりに進んで谷底を目指して下さい。


南投県仁愛郷精英村  地図

野湯につき無料。
施設などは一切ないので、着替えや入浴に必要なもの、食料や水は事前の用意が必要。
アクセスに関しては本文参照

私の好み:★★★

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