前回取り上げた大船温泉「下の湯」から上がった後、そのお湯の源泉地帯を散策することにしました。その記事中でも紹介しましたが、湯小屋の後ろに設けられている手造り感溢れる中継槽は、源泉から引湯されてきたお湯を受けて男女両浴室へ分配しているわけですが、そのお湯がどこから流れてきているのかを辿るわけです。ま、この源泉については、北海道の温泉ファンによるレポートがネット上でいくつも紹介されていますから、情報に関しては何らの新鮮味もありません。私もその踏み跡を追いかけてみたくなっただけです。
まずは橋の上から大船川の上流側を眺めてみますと、本流の右側の川原で一筋の細い流れが本流へ合流していますが・・・
その細い流れは白く染まっており、ゆらゆらと湯気が立ち上っています。その様子からも明らかなように、川原では随所で温泉が湧いており、それらが集まって流れを形成しているわけですね。その流れに手を突っ込んでみたところ、体感で35℃前後の温度でした。私が訪れた時期は山々の紅葉を一気に色づかせたほど急激に冷え込んでいたため、細い流れのお湯もその影響を受けて温度が下がっていたのかもしれませんが、外気温がもう少し暖かい時期でしたら、ここでお湯を堰き止めて野湯ができるかもしれませんね。なおこのお湯はお風呂に引かれている源泉とは別のものですから(一部は引湯樋からこぼれたものも含まれているかと思われますが…)、これを見ただけでは満足せず、川原からちょっと山側へ上がってみることにしました。
大船川左岸の川原から山側へ上がると、原生林の斜面に白いお湯が流れる水路を発見。これが「下の湯」の湯船へお湯を導く樋なんですね。入浴設備へ引湯するための設備なのに、まるで田んぼの用水路みたいに土がむき出しですし、落ち葉も入り放題、屋根も無いので思いっきり雨晒しです。なんて原始的な樋なんでしょう。雨天時の「下の湯」は泥臭かったり生臭かったりするそうですが、この様子を見ればむべなるかな。さてこの溝の上流を辿ってゆきますと・・・
濛々と湯気を立ち上らせている湯沼にたどり着きました。山々を覆う赤や黄色の紅葉と、青白い湯沼とのコントラストが実に神秘的で、観光名所にしたいほどの美しさです。
あちらこちらの底からプクプクを泡を上げて温泉が湧いています。この湯沼が「下の湯」のお湯の供給源なんですね。沼の真ん中あたりで温度計を突っ込んでみたところ、62.3℃という高温でした。従ってこの湯沼での入浴は不可能。入ろうものなら忽ちボイルされちゃいます。
青白いお湯と鮮やかな紅葉との取り合わせはまさに絵画の世界です。日本の温泉地には無数の源泉がありますが、これほど美しい源泉地は他にどれほどあるでしょうか。
沼の最上流では地獄の釜のように、ふつふつと音を立てながら熱湯が湧き出ていました。ここでは温度を測り損ねちゃいましたが、沼の中程よりもっと高い温度なのでしょうね。
繰り返しになりますが、湯沼の熱湯はこの溝を流れて、お風呂へと導かれているのであります。沼ではアツアツだったお湯も、流れている過程で自然冷却され、最下流の湯船では44℃という入浴可能な温度まで下がるわけですが、単なる自然冷却だけでこの絶妙な温度調整を実現しているのですから、その妙には驚く他ありません。
湯沼は大船川左岸のちょっぴり高いところに位置しているのですが、その湯沼から川の方へ下りてみますと・・・
左岸の崖のあちこちでお湯が湧いており、硫黄のお湯とカルシウムの付着によって白い石灰華が岩肌を覆って、恰もモンスターのようなおどろおどろしい景観を作り出していました。こちらで湧くお湯も湯沼同様に60℃近い熱湯であり、迂闊に触れると火傷しちゃいますね。
川岸の熱湯湧出地帯で特徴的なのは、綺麗な円錐形をかたちづくるこの噴泉塔でしょうね。以前は先っちょがちゃんと尖っていたそうですが、数年前に何らかの理由によってその先端がポキっと折られちゃったらしく、今では頂上で広い噴火口を開けている成層火山(コニーデ)のようなスタイルになっています。でもネット上で拝見した(先端が折られて間もない)2~3年前の噴泉塔の様子と比べますと、現状の方が高く盛り上がって円錐形に近くなっているので、あと数年待てば綺麗な円錐形の噴泉塔が再形成されるかもしれませんね。なおお湯が噴き出る先端では86.3℃という高温でした。
いくつかある湧出点から湧出する量は決して多くないものの、それらを集めて川の水とブレンドさせれば、ここでも野湯が楽しめそうな感じでした(私は実践していませんが…)。
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温泉好きにはたまらない素晴らしい光景です。
これで入浴できたら極楽なんでしょうけど、この温度じゃあねぇ~(笑)
紅葉の季節は温泉の美しさがより映えるものですね。この時も、単に源泉地帯を探検したかっただけだったのですが、
期せずして綺麗な光景に出会えてラッキーでした。
あわよくば野湯も…と淡い期待を抱いていましたが、この時は無理でした。北海道の自然って素晴らしいですね。