温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

岩手県八幡平 草の湯 2014年10月

2014年12月27日 | 岩手県
※今回の記事は画像がちょっと多めです。読み込みに時間がかかるかもしれません。ゴメンナサイ。

2014年ラストの温泉レポートでは、2回にわたって、岩手県の八幡平北麓に湧き続ける2つの野湯を取り上げます。

 
先日、拙ブログでは秋田焼山の野湯「湯の沢(硫黄取りの湯)」を取り上げましたが、その達成感に気を良くした私は、翌日県境を超えて岩手県側に入り、安比高原の道を西へと走って「草の湯」へ向かうことにしました。道中ではキツネが車の前を横切りながらこちらを一瞥しています。



安比高原スキー場から約8キロで視界が開け、兄川牧場の中を気持ち良く通り抜けます。でも牧場なのに、家畜の姿は1頭も見られない…。どこへ行っちゃったの?


 
牧場を通り抜けて再び山林へ戻ろうとする辺りで、左へ林道が分岐しています。この丁字路角には「八幡平登山道草の湯コース入口」と記された杭が立っていますから、これを確かめつつ、林道へ入ります。


 
林道は未舗装で、部分的にデコボコがきついものの、要所要所を気をつけて運転すれば、乗用車でも走れる程度には整備されていました。後述するように、この先では工事が行われており、重機も入っていますので、それなりにメンテナンスされているのでしょう。


 
でも沢に直接突っ込んでゆく洗い越しの箇所もありましたから、雪解け時には水嵩が増して、通りにくくなるかもしれません。
砂利道でひたすら山を登ってゆきます。


 
何度か赤いゲートを通過。
見通しの悪いS字カーブにはミラーが設けられており、それぞれには番号が付されていました。


 
林道入口から20分ほど車を走らせると、私の車のカーナビに「草の湯」が表示されました。画面の縮尺200mですから、ナビの表示が正しければ、車の位置から現地まであと2キロ弱といったところでしょうか。ナビに載っているからといって、車では到達することができるわけじゃなく、ここから先は登山道をトレッキングします。
ちょうどこのポイントでは大きなクレーンが聳えており、その下で地熱調査の工事が行われていました。そこで、工事現場の方に駐車許可をいただいてから、敷地内に車を止めました。

この場所には元々、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が当地の地熱資源量を調べるために掘った調査坑があったそうですが、電力自由化によってコストが重要視されるようになると、地熱発電はコスト面の課題を技術面でカバーすることが難しいため(技術的に限界があるため)、NEDOは地熱事業から手を引いてしまいます。しかし東日本大震災を機に地熱発電が再注目されるようになると、経産省が旗振り役となり、大手非鉄金属企業Mがその坑を活用して、改めて地熱発電事業化の可能性を探ってみようじゃないかという話になったようです。
参考:「地熱発電拡大へ調査本腰 経産省、八幡平市2カ所も」(『岩手日報』2011年11月6日)

私が入手できた経産省の資料によりますと、ザックリ言えば、安比には発電に十分な地熱があるのですが、期待通りに発電できたとしても、東北電力の送電網のキャパの問題で、系統連系ができません。つまり、作った電気を送れません。そのあたりを発電事業者が自前でクリアしようとすると、送電線の整備に莫大な費用を要し、とてもじゃないがソロバンが合わなくなっちゃうんだとか。たしかに東北電力の連系制約マッピングを確認しますと、安比を含む岩手県内陸北部の送電網は、地図で赤く示されている通り、悉く連系制約を受けていることがわかります。安比に関する試算を弾き出したのはNEDOですから、採算合わない場所をこれ以上ほじくっても仕方ないじゃん、ということで撤退したのでしょう。地熱に限らず太陽光や風力等でも、電気を生み出すには十分なエネルギーがあるのに、肝心の送電網が脆弱なため、連系制約を受けて発電が事業化できないというケースが全国的に見られます。それなら単純に送電線を増強すれば問題は解決するはずですが、既存の電力会社が他の事業者のために、わざわざ多額のコストを払って道を切り開いてあげるようなことをするかどうか…。
一方で、送電網が脆弱なことが明らかでありながら、FIT(固定価格買取制度)で一山当ててやろうと鼻息荒いベンチャー企業なら、勇み足の一つや二つは踏んでもおかしくありませんが、Mのような古参の大手企業が何の手を打たないまま発電事業に唾を付けようとするのはちょっと考えにくい。下衆の勘繰りですが、国から何かしらの担保が提示されているのか、はたまた、表向きは連系のキャパが一杯と言いながら実際には余裕があるのか…。いずれにせよ、岩手県の中央を南北に貫く送電線は、北海道・東北・関東の間で電力を融通させるには必須であり、それゆえ増強が欠かせません。いずれ送電網が補強されたら、晴れてこの地に地熱発電所が誕生するかもしれませんね。この安比の地熱が日の目を見る時は、果たしてやってくるのでしょうか。


 
閑話休題。車で簡単な山支度を整えてから、「草の湯」に向かってトレッキング開始です。この一帯はクマの巣窟ですから、熊除け鈴を忘れずに装着。また「草の湯」までの道のりにはぬかるんでいる箇所もあるそうですから、足元はトレッキングシューズではなく、ゴム長靴に履き替えました。


 
ザクッザクッと音を響かせ、落ち葉の絨毯を踏みしめながら、黄色く染まったブナ林の中を気持ちよくトレッキング。地理院地図で確認すると、現地までは等高線をほぼトラバースするような感じ。むしろ若干下ってゆくような形ですので、息が切れるような坂道はありません。


 
部分的に視界が開け、梢の向こうに八幡平の稜線が広がります。コースの中盤までは比較的道幅が広く、ぬかるみもほとんど無いので、足取りは実に軽快。陽気もまずまずでしたから、思わず口笛吹いちゃいました。


 
以前拙ブログでご近所の野湯「安比温泉」を取り上げた際、現地へ向かう登山道には一定間隔ごとに距離を示すプレートが掲示されていることを紹介しましたが、同じ山域にあるこの道でも同様であり、ルート上には森林管理署による同書式の距離プレートが掲示されていました。慣れない初見の山道は距離感が摑めませんから、こうした設備はありがたいですね。



歩き始めて15分で、小さな沢を渡ります。この前後、特に対岸はかなりぬかるんでおり、沢から上がる箇所では、足首まで潜っちゃうほどのひどい泥濘でした。先ほどまでの快適な道から一転し、この沢から先は、ぬかるみの多い区間になります。でも、ゴム長靴を履いていたので、ズブズブに潜ろうともヘッチャラ。ビバ!ゴム長靴!


 
歩き始めて22分で視界が開け、登山道は小さな湿地を横切ります。小さいといえども水はしっかり溜まっており、部分的には沼のようにグジュグジュです。一応足元には足場代わりに縦向きの丸太が並べられているのですが、その丸太の一部が浮き橋状態になっているため、丸太の上を歩いていると、たまに不安定なところを踏んで、踝までズブリと水に潜ってしまいます。どこが不安定なのか見ただけでは判然としないので、一か八かで進みました。懐かしのテレビ番組「風雲たけし城」の「竜神池」と同じ状態であり、違いは谷隊長の「行けっ!!」という掛け声があるかないか。



湿地を通りすぎてからも、ブナに日差しを遮られて薄暗くドロドロな区間が続きます。私はゴム長靴を履いていたので、スリップさえ気をつければ良かったのですが、もしトレッキングシューズだったら、たとえ防水靴であっても靴下まで湿っていたでしょう。
歩き始めてから28分、2回目の沢渡りです。



沢を渡って2分もしないうちに、辺りにイオウの匂いが漂いはじめ、俄然視界が開けて、下を流れる沢の畔が白く染まっている光景が目に飛び込んできました。歩き始めてちょうど30分で「草の湯」に到着です。



沢の下流側から「草の湯」を捉えてみました。硫黄の白さと周囲の紅葉が、秋ならではのコントラストを生み出しており、美しい光景が広がっています。なかなか良いロケーションじゃないですか。



後述する湯溜まりの脇を流れる沢は、河床こそ白く染まっていますが、沢水を手で触ったところ、完全に水の冷たさでした。上流側でもお湯は湧いているものの、沢水の方が圧倒的に多いのでしょう。


 
入浴できるサイズの湯溜まりは、大小ひとつずつ。お湯はほぼ無色で透明度は高く、湯溜まりの底には湯の華がたくさん沈殿しており、湯の華の影響でお湯は灰白色を呈しているように見えます。湯溜まりのお湯の大部分は、巨大な岩の裏にある源泉から流れてきているのですが、底の至るところからプクプクと気泡が上がっていますので、底からも湧出しているようです。



この日は麗らかな陽気でしたが、さすがに紅葉の季節ですから山の空気は冷え込んでおり、表面積が広い大きな湯だまりは32.3℃とかなりぬるめでした。でもここまで来て入らないのは勿体無い。多少の肌寒さを怺えながら、その場で服を脱いで、いざ入浴。私が足を踏み入れると、沈殿していた湯の華は一気に舞い上がって撹拌され、お湯は急激に灰白色に濁りはじめました。上画像では良い具合に湯浴みしているように見えますが、実際には少々浅く、寝そべらないと肩まで浸かることはできません。全身湯の華にまみれます。




その隣にある小さな湯だまりは、1人しかは入れないミニサイズですが、肩まで浸かれる深さがあり、しかも巨大な岩の裏で湧いたばかりのお湯が直接注がれていて、その小ささと源泉傍というポジションのおかげで、33.5℃と若干温かい湯加減になっていました。わずか1℃の違いですが、こちらの方が断然温かく、深さのおかげでしっかり浸かれましたので、私としては、この小さな湯だまりの方が気に入りました。



湯溜まりに注がれること無く沢へ流れ落ちるだけの源泉もいくつかあり、その中で最も勢い良く噴き上げていた箇所の数値を測ると、34.4℃およびpH4.0という数値が得られました。温度としてはこの源泉のお湯に浸かりたいものですが、そうもいかないのが自然の難しいところ。なおこのお湯をテイスティングしてみますと、マイルドな酸味、石膏的な甘味、そして苦味が感じられました。硫化水素臭はかなり強めです。

紅葉の季節の「草の湯」は、温度としてはかなりぬるめですが、虫に全く襲われることなく、そこそこ快適に湯浴みすることができました。


岩手県八幡平市八幡平山国有林  地図
(地理院地図での表示はこちら

私の好み:★★+0.5

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