ヌマンタの書斎

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民主主義の怪しさ

2016-06-29 13:36:00 | 社会・政治・一般

イギリスにおける国民投票の結果、EUからの離脱が決定された。

その差は僅差ではあったが、多数派が正しいとされるのが民主主義。48%の残留意見は押し潰されて、52%の離脱が正しいとされた。

キャメロン首相にとっては大誤算であったようだ。だが、私に言わせれば、国民投票という直接選挙で意見を問うた時点で失敗だったと思う。

民主主義の基本は、選挙という多数決システムで決定することだ。しかし、現在、議会制民主主義を採用するほとんどの国では、間接選挙方式を採用している。スイスなどの小国ぐらいでしか、直接選挙は採用していない。

アメリカにせよ、フランスにせよ、また日本にしたって、皆、間接選挙制度を採用している。つまり代議員を選出し、その代議員たちの投票で重要な意思決定をしている。

何故なのか?

はっきり言えば、衆愚政治に堕するからだ。また、直接選挙による政治決定は、歴史的に内乱と根深い対立を残すからでもある。

理屈からすれば、国民の意思が直接政治に反映される直接選挙が、民主主義の理想的なスタイルであろうと思う。私だって、そう思わないでもない。実際、国家にとって非常に重要な政治決定は、間接投票を採用している多くの民主主義国家でも国民投票というかたちをとることが多い。

しかしながら、国民が直接政治判断をする直接選挙は、結果的に好ましくないことが多い。

なぜなら、大半の国民は、世界情勢下での自国の立場、世界経済への影響、国際政治における影響などはあまり重視しないからだ。判断の基準となるのは、自分の手が届き、目に見え、耳に聞こえる範囲での情報による。

小さな国なら、それでも大丈夫かもしれない。しかし、ある程度大きくなると、国内でも地域差があり、その生活の範囲内での情報からでしか政治判断が出来ないのは、ある意味当然のことだ。

今回のイギリスのEU離脱派だってそうだ。国外からの移民により仕事を奪われた人にとっては、自分の生活が第一なのだから当然だ。言葉もろくに通じない異民族が身近に生活することに不安を覚える人が、感情的に反発するのは当然だ。当然過ぎる反応が、今回の国民投票に反映された。

イギリスはかつての大英帝国であり、国内には旧・植民地からの移民が数多く住むインターナショナルな社会を持っている。だから、当然に世界的視野からEU残留を望む人たちだって、相当数いる。

なんといっても国民投票の48%もいるのだから、これは相当な力を持つ政治的意見であるはずだ。その意見が、52%の離脱派により潰された。48%の少数意見が潰されたことの意味は大きい。

今後、イギリスがどのようになるかは不明だが、アングロサクソン以外の異人種に対する排斥感情は高まるだろう。スコットランドや北アイルランドの分離独立だって十分考えられる。国内の政治的混乱は必須であり、それに経済的苦境が輪をかけて襲ってくる。

これが、国民の意思を直接反映した国民投票である。直接民主主義の危うさが、これほどまでに露呈した事例は、そうそう多くない。民主主義は、選挙により多数派の意見を正しいと見做す政治形態である。

だが、多数派の意見が、常に正しい、あるいはその状況に照らして適切な解答を示す訳ではない。このことを改めて銘記したいものである。

コメント (2)
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