ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ワースト 小室孝太郎

2012-07-26 12:17:00 | 

生き残ったのはどちらか?

そんな謎を残して、この漫画はエンディングを迎えた。沢山の漫画を読んできたが、これほど記憶に残る最後を提示した漫画は希だと思う。

その絵柄から手塚治虫の弟子筋であることは、誰にでも分かると思う。1970年代に週刊少年ジャンプに連載されていた幻の傑作として知られている。なぜに幻かといえば、作者である小室氏とジャンプ編集部がもめてしまい、結果として漫画の世界から消された漫画家だからだ。悪名高いジャンプ編集部の専属システムの最初の犠牲者とも言われている。

だから小室氏の漫画を見た人は少ないと思う。その長いとは云えない漫画家としてのキャリアのなかで、最高傑作とされたのが表題の作品だ。

高度成長を迎えて未来にまい進する日本に、突如謎の生物が出現した。生命力が強く切られても撃たれても、なかなか死なず、しかも人を憎み襲い掛かってくるこの新種の生き物(ワーストマンと呼ばれる)は、当初陽の光の下では活動できないがゆえに、あまり目立つことはなかった。

しかし、本当に恐ろしいのは進化のスピードだった。あっという間に環境に適応し、羽を生やして空を飛んだり、呼吸器系を変化させて海中生活に適応したりと次々と変種が現れ、気が付いたら世界中に蔓延して、人類との生存競争を繰り広げる。

その圧倒的な生命力に苦闘を余儀なくされる人類だったが、遂にこの新生物がある種の細菌に弱いことを突き止める。この細菌を兵器として全世界にばら撒きだそうとした矢先、遂に人類に最悪の事態(ワースト)が訪れる。

それが氷河期であった。冷気に弱い細菌が新生物を滅ぼすのが先か、それとも人類が新生物に滅ぼされるのか。20万年後、氷河期が終わり、洞窟から生き残った生物のシルエットだけが漫画の最後のページに描かれている。

生き残ったのは人類なのか、それとも新生物ワーストマンなのか。

真の答えは現されることなく、漫画家・小室孝太郎は姿を消した。そのほとんどの作品もまた書店から姿を消したが、唯一この漫画だけは一度だけ朝日ソノラマから単行本として再販されている。

私は何度も手に取り、買おうかどうしようか迷ったが、遂に買うことはなかった。後悔先立たずというが、本当に悔いが残る。もし、古本屋で見かけたら、是非とも手にして欲しい。それだけの価値ある漫画だと思いますよ。

コメント
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