ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ブロンズの男 ケネス・ロブソン

2012-07-09 13:18:00 | 

ディック・トレイシーよりはSFだけど、バットマンより現実的。

敢えて言えば、冒険活劇小説なんだろうが、当時はSFとされていた。ただし、宇宙船もエイリアンも出てこない。それでも、1940年代から50年代のアメリカにおいて、少年たちから圧涛Iに支持されたのが、ドッグ・サヴェッジだ。

紙質の悪いパルプ紙で濫造された少年向けの雑誌は、通称パルプ・マガジンと言われていた。ターザン、スーパーマン、超人ハルクなどのアメリカン・コミックのヒーローたちが、この雑誌群から生まれて絶大な人気を博した。

パルプ・マガジンのヒーローたちは、コミックだけではない。実は小説も連載されていて、その内容は多種多彩。推理小説もあれば、冒険小説もある。ファンタジー小説からサイエンス・フィクションに至るまで多くの作品を生み出した。コンチネンタル・オプやコナン、ジョン・カーターなどが有名だ。

そのなかでも、雑誌のタイトルになるほどの人気を博したのが、この「ブロンズの男」ことドッグ・サヴェッジだ。犯罪者に両親を殺されたが、その両親の親友たち、それも各分野の超一流のエキスパートに育てられた。サヴェッジは医師であり、科学者であり、軍隊武術の達人でもあるが、なにより冒険心に富んだ犯罪を憎む正義の男である。

冒険の最中に発見したマヤの金山を財力の元として、NYのエンパイヤーステイトビルのワンフロアを独占して、世界各地へと冒険に旅立つ。全部で180編あまりの作品が刊行されたが、残念ながら日本で翻訳販売されているのは、そのほんの一部に過ぎない。

翻訳発行元は、あの早川書房である。今でこそお高くとまっていやがるが、当時の早川書房及びその編集部はSFという分野を広めようとの熱い情熱に燃えて、次々と多彩な作品を出版した。

その情熱はイラストや表紙画にもあらわれていて、画家やイラストレーターにとどまらず、漫画家にも仕事を依頼していた。ちなみにこの作品の表紙画とイラストを手鰍ッたのは、漫画家のバロン吉元だ。

いささかバタ臭い画風ゆえに、現在はまず見かけることのない漫画家ではあるが、この作品にはピッタリの画風だと思う。私はバロン吉元の漫画といえば「柔狭伝」ぐらいしか知らない。この漫画も絶版扱いなのが、いささか残念だ。

そして、なにより残念なのは早川書房の方針転換だ。これは私の推測だが、1980年代頃から早川書房は、SFの高品質化を目指したように思われる。ラリー・ニーブンらの最新のリアルでハードなSFを積極的に取り上げる一方、スペース・オペラと揶揄された低品質(?)な冒険活劇SFを冷遇するようになった。

イラストは廃止して、表紙画も大人しめのものと変え、映画のタイアップがあれば映画の映像写真を表紙にもってくる。どうも、低レベルなスペース・オペラなどであまり売れない作品は、次々と絶版にして、SFのブランド・アップを狙ったように思える。

それゆえ、典型的なパルプ・マガジンの冒険活劇であったドッグ・サヴェッジのシリーズものなんざ、あっという間に店頭から姿を消してしまう有様だった。おかげで、私なんぞ、古本屋を走り回ってシリーズを揃えなければならなかった。

私は未だに、この早川の変心を許せなく思っている。スペース・オペラが低品質だなんて、あまりに一方的な見方に過ぎない。イラスト付きの本が、低レベルだなんて偏見に過ぎない。漫画家の描く表紙画よりも、画家の描くほうが高品質なんて差別に近い。

大人には大人に相応しい作品があるし、それを否定する気はない。しかし、子供には子供向けの作品が必要だ。当然、少年たちにも夢を見させる作品は必要なんだ。そして、少年の気持ち、心を思い出したい大人だっていることを忘れて欲しくない。

そんな訳で、今後も早川が絶版にしやがった作品を、こつこつと取り上げるつもりです。もはや古本屋でしか入手できない貴重品ばかりであり、いささか不親切な気もしますが、私のわがままゆえお許しくだされ。

コメント (4)
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