ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「日本が叩き潰される日」 落合信彦

2006-05-12 21:13:02 | 
人間というものは、十代の頃が一番知識の吸収力があるそうです。ただし、吸収した知識を咀嚼する能力が十分でないのが、若さゆえの悩みです。

私は23歳で突然、難病に襲われ9年余りの療養生活を止む無くされました。その間に税理士の資格を取りましたが、実はそれほど集中して受験していた訳ではありません。情けないことに、受験勉強をしすぎて、病気を何度も再発させていたため、勉強すらほとほどにやらざる得なかったのです。

これは困った。病気療養といっても大量の薬を飲んで、後は安静にしているだけです。受験勉強は一日2時間としても、残りの時間が余ってしかたない。苦しくなるほど、退屈な時間。本当は退屈さから逃れたくて受験勉強を始めたのに・・・

開き直った私はこの時間を使って、十代の頃学んだ知識の総括をしていました。いや、要するに疑問に思いつつ、そのまま受け入れてしまった知識を改めて検証してみたのです。

その一つが「落合信彦」でした。私が十代の頃、かなり夢中になって読んだ国際ジャーナリストです。当時は小田実や小中陽太郎など進歩的文化人が、まだ権威をもっていた時代ですから、落合信彦の書くものは、かなり刺激的でした。

実は入院中も、その著作を読んでいたのですが、病室で隣になった方が大手石油会社の方だった。彼は私が落合信彦の著作に夢中になっていることを気にかけていたようでした。落合信彦は、その著作のなかで、石油業界で活躍していたことを吹聴してますが、実はそれはたいしたものではなかった。そのことは、石油会社に長く勤務し海外経験も相当なものであった人たちの間では、噂に上がっていたようでした。

もう名前も覚えていませんが、その方は頭ごなしに非難するのではなく、やんわりと落合の著作の矛盾点を指摘してくれました。そして、自分で調べてごらんなさいと言い残して退院されました。

凄く気になっていたので、少しずつ調べましたよ。で、やっぱりおかしかった。タイトルに挙げた本は、現在は古本屋でしか手に入りません。今にしてみると「トンデモ本」扱いも無理ないと思います。

彼はその著作のなかでモサドやCIAに人脈があるかのように書いてますが、これも眉唾です。彼はある裁判で訴えられ和解して以降、国際ジャーナリスト気取りの文を書くことを控えるようになりました。替わって以前から書きたがっていた冒険小説や、青少年向け説教本に終始しているようです。

たいした学歴も人脈もなく、国際留学した経験だけを武器に、マスメディアの世界でのし上がるには、やはりはったりも必要だったのでしょう。現在も執筆活動は盛んですが、70年代、80年代の著作を読み返すと、彼なりの熱い想いと、その想いに答えぬ国際政治の現実とのギャップが、落合信彦の虚像を浮かび上がらせます。
コメント (2)
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