のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

コロー展

2008-11-07 | 展覧会
神戸市立博物館:特別展 コロー 光と追憶の変奏曲 へ行ってまいりました。



身体的にも精神的にも近視眼であるのろは風景写真や風景画を見る目がございません。
よって当然「風景画家」であるコローのファンというわけではございません。
しかし以前にも申しましたとうり、コローの人物画は大好きなんでございます。
本展には人物画の代表作である「真珠の女」と「青い服の婦人」が来ることが、早い時期から大きく宣伝されておりました。この2点が一度に見られるというだけでものろは大興奮でございましたが、行ってみましたらその他にも15点以上もの人物画が展示されておりまして、まーいわゆるひとつのウハウハでございました。

抑制のきいた色使い、瞑想的な表情にさりげないポーズで描かれた人物たちからは、風景画において見られる銀灰色に煙る桃源郷風のイメージとはまた違った、確固とした存在感が感じられます。ある者は視線を落とし、ある者はこちらに眼差しを向けておりますが、おおむね共通しておりますのは、もの静かでな内向的な雰囲気でございます。
また表情にしても背景や衣服の描写にしても、比較的ざっくりと描かれたものが多いんでございますね。見る者を引き込むような魅力の一因は、描きすぎないことによって見る者の想像や投影を誘うという点にもございましょう。

風景画家を自認していたコローは、人物画を飽くまでも余技として描いていたということでございます。あるいはそれゆえにこそ、画家自身の優しく慎ましい性格が、より率直に絵の中に現れているのかもしれません。
生前に発表されたコローの人物画はたったの4点でございました。しかし荒めのタッチで描かれたみずみずしい人物像が、同時代の画家たちに強い印象を与えたであろうことは想像に難くございません。

そうした数々の作品の中でもとりわけ印象深かったのは「青い服の婦人」でございます。



薄暗い室内に、もの柔らかく浮かび上がる女性の白い腕。
青いドレスはコローらしく上品にくすんだ、落ちついた色あいでございますが、褐色の背景の中でいとも鮮やかに見えます。
ふと休息しているかのような、なにげないポーズ。彼の人物画の多くがそうであるように、目元には影が落ち、その表情は定かではございません。こちらに微笑みかけることすらいたしません。
ドレスの生地は、例えばルーベンスの絵に見られるようなすべすべと豪奢な輝きは見せず、地味な背景はアトリエの一角をそのまま描いたようで、技術的な派手さや華やかさはございません。
しかしそうした技術的な派手さや鑑賞者へのあからさまな働きかけを控えたからこそ、この作品の単なるポートレイトを越えた存在感と、メランコリックでありながら見る者を強く引きつける、不思議な雰囲気とがかもし出されているのでございましょう。

小品にも素晴らしいものがございました。


「マンドリンを手に夢想する女」

これは画集でも見たことのない作品でございました。
本来、初対面の絵にいきなり近づいて行くのはよろしくないこととのろは思っております。
初対面の印象というのは二度と体験できるものではないのでございますから、遠くから一歩一歩、対話をし、印象を深めながら接近するべきなのであって、いきなり近寄ってまじまじとディテールを見るようなことをしては勿体ないのでございます。
とはいえ、牽引力のある絵というのはまさしくそちらへ引っぱられるような心地がするものでございまして、この絵にも、ひと目見るや我知らずぐんぐんと歩み寄ってしまいました。
近くで見ますと、女性の引き結んだ唇、そしてうつむいた顔から心持ち上を見つめている深い眼差しに気圧され、何か失礼なことをしたような心地で思わず後ずさりいたしました。
瞑想的な表情もさることながら、陰影の表現が素晴らしいですね。


神戸市立博物館での特別展は平日に行っても滅茶混みなことが多うございますけれども、今回は意外なほどすいておりました。
コロー作品の地味な印象ゆえでございましょうか。
おかげで椅子に腰掛けてじっくりと作品と向き合うこともでき、なかなか快適に鑑賞することができました。
ルーブル美術館が太っ腹にも貸出ししてくれたコローの「三大名画」に、日本にいながらにして会えるチャンスでございます。
コロー好きはもちろん、よく知らないというかたも、あるいはあのワンパターンな風景画は好かんのよというかたも、この機会に足を運んでみる価値はあるかと存じます。


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