のろや

善男善女の皆様方、美術館へ行こうではありませんか。

『蒔絵展』

2008-11-29 | 展覧会
会話が苦手でございます。

それはさておき

京都国立博物館の蒔絵展へ行ってまいりました。

いや、これはたいそう大規模な展覧会でございました。
時代としては平安から明治まで約1000年に渡るスパンを扱い、地域としては日本はもちろんフランス、イギリス、デンマークやザクセンの王室のコレクションになっていたもの、またインドや中国で蒔絵を模してつくられた工芸品などなど、実に幅広うございました。

年代順に展示されております中で、のろが最も心魅かれたのは、いわゆる南蛮美術を集めたセクションでございました。
国博HPの「展示作品紹介」→「大航海時代が生み出した蒔絵---南蛮漆器」で見られます。

いったいワタクシは南蛮美術というものが好きでございます。
洋のものとも和のものともつかないデザインの品々は、まるでおとぎ話の中から出て来たようでございますし、この素材・この技法でそのデザインかい?!という意外性が実に面白いではございませんか。
南蛮美術に限ったことではございませんが、全く異質な文化が交錯した所に生まれたモノには、そのどちらの文化からも少しズレた自由さがあって、それがいっそう面白うございます。
本展の「南蛮蒔絵」について言えば、独特の「埋め尽くし感」も大変よろしうございました。
例えばチラシにも使われております、いとも華麗な書見台。
幾何学的な文様で埋め尽くされた板の中央に、光輪のデザインとともにイエズス会のマークがあしらわれております。
決して大きな作品ではないのでございますが、漆の黒、ちらちらと虹色にきらめく螺鈿、渋い輝きを見せる金でかたどられた幾何学文様はまことにおごそかでございます。反語的ではございますが、びっしりと文様で埋め尽くされていることがかえって寡黙な雰囲気をかもし出しているように、ワタクシには思われました。

このセクション以降は、外国に輸出された品々の展示が続きます。
きらびやかな家具や小箱それ自体も素晴らしいものでございましたが、そうしたモノたちの背景にある文化史的なことがらがいっそう面白うございました。

例えばヴィクトリア&アルバート美術館所蔵のコモド(引き出し箪笥)。
これも国博のHPで見られます。
いかにもバロックまっ盛りといった雰囲気の、華麗な金のマウントで縁取られた足付きの箪笥。
左右対称に湾曲したその側面には、確かに蒔絵が施されております。
しかし日本で作られたとはとうてい思われない形をしております。
解説によると、もともとの箪笥は形が流行遅れになってしまったので、蒔絵部分だけを数ミリ分はがして、当時流行っていたかたちの箪笥に貼付けたのだとか。いやはや、えらいこってございます。
蒔絵がそれだけ珍重されていたことを示すものでもございましょうが、そうまでして流行に遅れまいとする、17世紀ヨーロッパにおける社交界の情熱が垣間見えて、興味深いではございませんか。

この他にも、和と洋が奇妙に折衷した家具や輸出用につくられた蒔絵の品々、そしてそういったものが鎖国の間にもヨーロッパに渡り、王侯貴族たちに愛されていたという事実はワタクシにとってまさに「蒔絵の知られざる歴史」でございました。
なにしろ点数が多うございますのでじっくり見通すのは少々疲れましたが、それだけの価値はある、質・量ともに大変充実した展覧会でござました。


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