読書な日々

読書をはじめとする日々の雑感

「図書館戦争」

2008年10月07日 | 作家ア行
有川浩『図書館戦争』

今日の新聞によると国立国会図書館が法務省の要請によって、米兵の犯罪にかかわる裁判の資料の閲覧を禁止する措置を取っているらしい。またそれに追随して北海道大学の図書館も同様の閲覧禁止措置を取ることにしたらしい。まさに「図書館戦争」のテーマと同じ事態が、虚構ではなく、現実のものとして私たちの目の前に現れてきた。

図書館に収蔵される資料、つまり文字による資料というものには、当然のことながら、異なる立場によって都合のいいものもあれば悪いものもある。それをどちらか一方の都合だけを優先して閲覧禁止にするということがまかり通れば、図書館としての存在理由はなくなる。

図書館が待ち合わせ場所やら中高生の雑談の場になっているという現象のレベルの問題ではなく(もちろん以前にも書いたように、曜日によっては駅前広場となんら変わりない喧騒の場となりつつある現状は、これはこれで解決していかなければならない問題であろうが)、図書館というシステムの存在理由にかかわる事件である。

いったん時の権力者の一声でもって閲覧のできない文書・資料が存在するというような事態が許されることになれば、その閲覧できない文書・資料の範囲はあっというまに拡大解釈されて、それこそ時の権力者に都合の悪い文書・資料はすべて閲覧禁止ということになってしまうのは目に見えている。

図書館というものは、私のように低所得者で思うように読みたい本を購入できない者たちに無料で提供するという役割だけではなく、社会が作り出したあらゆる文字資料を収蔵して、必要があれば提供するという意味もある。とくに国立国会図書館はそうした意味での存在理由がある。あらゆる活字媒体が現在では国立国会図書館に集中されるのはそうしたことからだ。

たんにそうした文書を閲覧できないようにするというだけでなく、図書館から武力でもって略奪して焚書にしてしまうという動きが夢物語だとは言い切れない。そんなことがおきたら、武力に対して武力でもって略奪を阻止するという前提で作られた物語が、この「図書館戦争」だ。図書館に採用されたが、希望通り(街中の本屋で買おうとしていた本を危険文書として取り上げられそうになったところを防衛隊に助けられたことがきっかけ)防衛隊に配属されたことを喜ぶ主人公の女の子が防衛隊員としての実地研修をうけながら、図書館の自由に関する法律などについての話を展開したり、「優秀な」防衛隊員たちとのボケとツッコミ的なやり取りを通して読ませていくエンターテインメント作品である。

これを読むと、やっぱなんでも売れるものをつくれるかどうかは、コンセプトにかかっているよなと思ってしまう。図書館の自由とそれを武力で侵犯する勢力に武力でもって対抗する防衛隊なんて発想。筆の力という、私にはとても及ばないことに言及するのがいやなものだから、コンセプトなんて言葉でごまかしているが、要は、発想も筆の力も、卓越していないとこれだけのエンターテイメント小説は書けまい。

この人、最近では「阪急今津線」なんて小説を書いてヒットを飛ばしたよう。私も「阪急北千里線」でも書いて一旗挙げようかと、腰痛で苦しむ寝床の中で、ちらっと考えてやめた。

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