読書な日々

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『テレマックの冒険』

2017年03月06日 | 作家ハ行
フェヌロン『テレマックの冒険』(現代思潮社、1969年)

時はルイ14世の統治の後半の17世紀末のこと。度重なる領土拡大戦争と疫病や冷害などのために国民は疲弊し、国庫は底をつきそうになっていたが、ルイ14世は、国民を犠牲にして、さらにかつての大貴族を没落させて得た栄光にすがりついて、政策を変更しようという気はまったくなかった。

そういう状況の中でルイ14世の近くにいて彼の王位を継承する王太子の側近や王太孫の教育に携わってきた貴族たちは、彼ら王位継承者を教育することで、貴族と民衆を大事にする新しいフランスを作ることを考えていた。

それがヴェルサイユで影響力をもっていたシュヴルーズ公やボーヴィリエ公であり、王太孫のブルゴーニュ公の師傅であったフェヌロンであった。彼は『統治計画案』を書いて、その中で、ルイ14世亡き後に曾孫が5才で王位を継承してルイ15世になったときに摂政となったオルレアン公が行った合議制や三部会の招集などを提言している。

残念ながら、1711年に、つまりルイ14世よりも先に王太子が、その翌年には王太孫のブルゴーニュ公が病死したために、彼らの希望は潰えてしまった。

そのフェヌロンが出版したこの『テレマックの冒険』は、1699年に出版された。ホメロスの『オデュッセイア』をもとにして、トロイ戦争の英雄であるユリス(オデュッセウス)を父とする王子テレマック(テレマコス)が、師メントール(実は英知の女神ミネルブの化身)に導かれて、行方不明の父ユリスを探して旅をして、辛苦を重ねたすえに父と再会するという話である。教え子のブルゴーニュ公の古典的教養を深め、君主はどのようにあるべきか、どのように国を治めるべきかという帝王学の伝授を目的としたと言われている。

それゆえに、人々は、巻七で語られる暴君ピグマリオンにルイ14世を、奸婦アスタルべにマントノン夫人を見ながら読んだと言われている。また同じ巻でアドアムが語るべティック国の素晴らしい治世や、「この国には、技芸を生業とする者はわずかです。人間の真実の必要に役立つ技芸しか認めようとしないからです」とか、めったに肉を食べず、果実とミルクを食料とし、質素だが、賢明で、純朴な生活をしているというこの国の風俗などを読むと、ルソーの『エミール』を思い出す。まさにルソーが最も理想とするような生活習慣や考え方が描かれている。

次から次へとテレマックとメントールに襲い掛かってくる困難や悲惨を乗り越えていく冒険譚は確かに読んでいても面白い。以前から一度読んでみたいと思っていた本だったが、古本屋で手に入れることができて、やっと読むことができた。

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