オールドゲーマーの、アーケードゲームとその周辺の記憶

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「FARO」に関する備忘録

2020年08月16日 15時26分53秒 | シリーズ絶滅種
今回は「FARO」の歴史や遊び方などを、忘れないように残しておこうと思います。

と言っても、ワタシが「国産初のメダルゲーム機」と認定する、セガの「FARO」(関連記事:初の国産メダルゲーム機の記憶)のことではありません。米国の西部開拓時代に大流行したカードゲームの「FARO」のことです。


1910年のネバダ州リノにおけるFAROの様子。たくさんのチップがベットされ、周囲には見物人が群がっており、当時のFAROの人気のほどが窺える。

「FARO」は、今でこそ忘れられたゲームですが、19世紀半ばから20世紀半ばまでは、米国の西部で最も人気のあるギャンブルゲームのひとつでした。ネバダ州バージニアシティにある「Delta Saloon」というレストランでは、往時にすべての財産を失って自殺した者を3人まで出したという逸話が残るFAROテーブルを「Suicide Table (自殺テーブル)」と呼んで展示しており、(関連記事:ネバダ・ギャンブリング・ミュージアム(ネバダ州バージニアシティ)の思い出)観光名物の一つとなっています。






ネバダ州バージニアシティの「Delta Saloon」に展示されている自殺テーブル(上)、それに見入る観光客たち(中)、および「Delta Saloon」の外観(下)。Delta Saloonは、数年前まではバーリーの60~70年代のスロットマシンを稼働させるカジノエリアもあったが、現在はただのレストランとなっており、マシンは展示品の一つとなっている(関連記事:新・ラスベガス半生中継 2017年GW カーソンシティ2日目の記録)。

■名前の由来

ゲーム名「FARO」は「PHARO」と記述されることもあり、「エジプトの王を意味する「ファラオ(Pharaoh)」から転訛したものと言われています。調べると、「古いフランスのカードに、ハートのキングとしてエジプトの王が描かれていたものがあったことに由来する」としている資料が複数見つかります。しかし、この説に対して、「ハートのキングがこのゲームで特に意味を持つと言うわけでもなく、また、たくさんの古いカードを調べたが、その説を裏付けるようなデザインのカードを見た例がない」と、疑問を呈している人もいます。

また、このゲームには「Bucking the Tiger」との異名(これは「虎に立ち向かう」とでも訳せばよいのでしょうか?)があり、その由来については、

・初期のカードの裏に虎の絵が描かれていた
・このゲームの道具を輸送する箱に、虎の絵が描かれていた
・このゲームが行われている場所では、それを示すために、外壁に虎の絵が描かれた看板を掲げていた
・多くの賭博場で、ファロのテーブルの上に虎の油絵が掲げられていた

など諸説ありますが、確定はしていないようです。ある人は、「証拠は無いが」と前置きした上で、「19世紀中頃は、虎はファロゲームを司る神と考えられており、『虎に立ち向かう』とか『虎の尻尾をひねる(Twisting the tiger’s tail)』という言葉は、ファロで遊ぶことを婉曲的に言ったものだと思われる。実際、ファロが代表的なゲームであった頃は、賭博場がたくさんあるような通りや地域は、しばしば『虎の小路(tiger alley)』とか『虎の町(tiger town)』と言われていた」と言っています。


1860年代のバージニアシティにおけるFAROテーブル。確かに背後の壁に虎の絵が掲げられている。

■ファロの歴史

英国のパブで人気があった「バセット(Basset)」と言うゲームがフランスに渡り、1691年に時の王ルイ14世がこれを違法としたのを受けて、ジョン・ロウ(John Law 1671-1729)というスコットランド人エコノミストが、法に抵触しないように改造したゲームが原型とされています。

ある評伝によれば、ロウはギャンブル依存症を疑いたくなるようなばくち打ちです。フランスにいた時には、ルイ14世の甥であるオルレアン家当主のフィリップ二世(後のルイジアナ州ニューオーリーンズの名の由来となる人物)を巻き込んで、ギャンブルでたいへんな借金を作ってしまい、ルイ14世によってフランスから追い出されてしまいます。王にしてみれば、自分が禁止したバセットを改造して合法にしてしまったロウに対して面白くない感情もあったのかもしれません。

ロウが考案したゲームの米国への伝来は、1717年ごろ、北米大陸の、後にルイジアナ州ニューオーリーンズとなる地域に、当のジョン・ロウによってもたらされたとされているようです。1803年、その土地が米国によって1500万ドルで買い取られたのを境に、ロウのゲームはミシシッピ流域をリバーボートに乗って急速に普及します。シャープスと呼ばれるプロギャンブラーたちはこのゲームを大いに支持し、「ギャンブラーのゲーム(Game of the Gambler)」と称されました。ファロが行われている風景は、当時の絵や写真にも多く残されており、いかに盛んであったかが伺われます。

しかし、ハウスエッジが小さいゲームであったため胴元に嫌われ、近代から現代へと時代が移るに連れて次第に稼動が減って行きます。また、胴元が少ない利益をカバーしようと不正を行うようになったため急速に客離れが起きたと記述している資料もあります。そんなこんなで、最も高い人気を誇っていたはずのゲームは、1950年代にはネバダ州全体でも僅かに5台のテーブルが稼動しているのみにまで衰退しました。1985年には、リノのラマダというカジノに唯一残っていたテーブルが撤去され、かくしてFAROは絶滅しました。

■FAROの道具

・レイアウト(layout):レイアウトには、AからKまでのカードが、7を折り返し点とする二列の配置で描かれています。描かれるカードのスーツは多くの場合スペードですが、スーツはゲームの勝敗には関係しません。


FAROテーブルのレイアウト。多くの場合、スペードのカードが描かれるが、スーツ自体には意味はない。ラスベガス近郊のヘンダーソン博物館の展示より。

・ディーリングボックス(dealing box):ゲームに使用するカードを入れる箱です。上面には、カードより一回り小さいくらいの大きさの窓が開いており、パックの一番上のカードが何であるかが見えるようになっています。ディーリングボックスの中にはばねが仕込まれていて、セットされたカードは常に窓に押し付けられる形で保持されています。窓の上から見えている一番上のカードを指で横方向にずらすと、そのカードだけがボックスの外に出てきて、次のカードがボックスの最上部に現れます。


ディーリングボックス。バージニアシティのネバダギャンブリングミュージアム(現存せず)の展示より。

・ケースキーパー(casekeeper):ゲームに使用されたカードを記録しておくそろばんです。これによって、ディーリングボックスの中にどのカードが何枚残っているかが一目でわかります。レイアウト同様、ここでもカードの象徴としてスペードのカードが描かれていることが多いですが、ワタシはハートのカードが描かれているケースキーパーを見たこともあります。


ケースキーパー。バージニアシティのDelta Saloonに展示されている「自殺テーブル」より。

・チップ(chip):レイアウトの上に現金の代わりに置いて賭けを行います。
・カパー(copper):チップよりも少し径が小さい6角形のコマで、これをチップの上に置くと、そのカードが負けカードとなることを予想することを意味します。


チップとその上に置かれたカパー。

■基本的な遊び方

・52枚のカードをよくシャッフルし、表面を上にしてディーリングボックスにセットします。

・最初の1ゲームでは、一番上の既に見えているカードは「ソーダ(Soda)」と言って、ゲームには使用しません。ソーダを捨てて次に出てきたカードが1ゲームめの「負け」カードとなります。

・負けカードを抜き取り、次に出てきたカードが「勝ち」カードとなります。これで1ゲームが終了です。この後、「コーリング・ザ・ターン」(後述)までゲームを続けます。

★賭け方

・勝ちカードへの賭け(図の(1))
 レイアウト上の、勝ちカードと予想されるランクの絵の上にチップを置きます。

・負けカードへの賭け(図の(2))
 レイアウト上の、負けカードと予想されるランクの絵の上にチップを置き、その上に更にカパーを置きます。

・スプリット賭け(図の(3)~(6))
 レイアウト上の複数のカードの絵の間にチップを置くと、それらのランクすべてに賭けたことを意味します。形としては、左右2枚の中間、上下2枚の中間、上下左右4枚の中間、6-7-8の3枚の中間があります。チップ上にカパーを置けば、指定するカードのいずれかが負けカードになることを予想することを示します。

・コーナーベット(図の(7)~(8))
 スプリットベットの変形で、レイアウト上のカードの絵の角にチップを置く方法です。レイアウトの外側の角にチップを置くと、そのカードと、一枚飛ばした次のカードの2枚に賭けたことを表し、レイアウトの内側の角にチップを置くと、そのカードと、その斜め上(または下)のカードの2枚に賭けたことを表します。チップ上にカパーを置けば、指定するカードのいずれかが負けカードになることを予想することを示します。

・ハイカード賭け(図の(9))
 勝ちカードが負けカードよりも高いランクであることを予想する賭けです。レイアウト上の「HIGH CARD」の部分にチップを置きます。また、このチップの上にカパーを置くと、負けカードの方が高いランクであることを予想していることを意味します。なお、ファロにおいては、エース(A)は最も低いランクとして扱われます。


FAROの賭け方の図。

・予想が的中すると、賭け金の1倍の配当を得ます。

・勝ちカードと予想したランクが負けカードになるか、または逆に負けカードと予想したランクが勝ちカードになると、賭け金を失います。

・勝ちカードと負けカード両方に同じランクのカードが現れた場合は、そのランクに賭けられている賭け金の半額が胴元の取り分として徴収されます。

・賭けたランクが勝ちカードでも負けカードでもない場合は勝負無しとなります。その場合は、チップをそのままにして次のゲームに引き続き賭けても良いですし、チップを引き上げて改めて別の場所に賭け直しても構いません。

・コーリング・ザ・ターン(例外的な賭け)
 52枚のカードをディーリングボックスにセットすると、一番上のカードは最初から見えているのでゲームには使用しないため、51枚のカードでゲームを続けて行くことになります。1ゲームごとに2枚ずつ使用して行くと、ディーリングボックスの中には最終的に3枚のカードが残ります。コーリング・ザ・ターンは、この残りの3枚の出現順を予想する賭けです。通常は、的中すると4倍の配当が支払われますが、残り3枚の中に同じランクが2枚入っている場合は、配当は2倍になります。3枚とも同じランクの場合は、この賭けは行われません。

■トリビア

・「OK牧場の決闘」で有名な「ワイアット・アープ」は、バージニアシティでファロテーブルのオーナーだったことがある。

・そのアープの活躍を描いた1993年製作の米映画「トゥームストーン」(主演:カート・ラッセル、ヴァル・キルマー 監督:ジョージ・P・コスマトス)に、このファロが登場する。しかし、ファロに関する描写には誤りが多く、なかでもレイアウトのデザインがでたらめで、「一体製作者たちは何を考えているのか」と憤っている人もいる。

・日本のゲーム機メーカーのセガ社は、1974年の「ファロ(FARO)」に続き、その2年後に「プント・バンコ(PUNTO BANCO=カードゲームのバカラのバリエーション)」という、8人用のメダルゲーム機を発売しているが、これも本来のプント・バンコとは何の関連性も無い、ルーレットをモチーフとしたゲームだった。当時のセガ社に、いったい何があったのだろうか。

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