旅限無(りょげむ)

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1.25は他人事? 其の弐

2006-06-13 15:22:00 | 社会問題・事件


……ひとたび親になれば、子育ては何年もつづく。保育所や学童保育の充実は必要だが、親と子を長い時間離す支援だけではいけない。父親も母親も子どもと深くかかわり、家族そろって夕食が食べられる。そんな社会に変えたいと思う。

最後は宮沢賢治ばりに、「変えたいと思う」のだそうです。そんな文章を社説と銘打って印刷して配達しては行けません。「したいと思う」と書けば問題が解決するのなら、こんなに結構な事は有りません。朝日新聞が夢に描いているような家庭生活が送れていたら、きっと社長さんの長男が麻薬覚醒剤に手を出したりしなかったのでしょうなあ。

■こんな寝言社説を熟読しても何の足しにもなりませんが、5月28日には『選択のとき』シリーズで少子化を取り上げて、少しは足しになる事が書かれていましたぞ。


フリーターは、04年で213万人とされる。91%の女性が結婚相手に求める条件として「経済力」を挙げて、低収入は結婚の大きな障害だ。

当然の結果のようにも思えますが、「経済力」というのは意味不明ですぞ。子育てに限っても、健康に育つ最低限度の医療費と食費を超えて、高額な塾費用と家庭教師、数々の習い事に始まり、「お受験」騒ぎから私立中学受験に予備校生活も含めて私立の医学部受験までを充分に担保するほどの「経済力」なのか?それとも、国民健康保険に入って餓死しない程度に工夫した手料理を食べさせ、風邪を引かない程度に隙間風が入らない住宅さえ有れば充分だと考えての「経済力」なのでしょうか?

■まして、「学歴」や「経済力」に拘って結婚した女性が、続々と離婚率の上昇運動に参加しているの理由が分からなくなります。貧しくても楽しく暮らせる夫婦と家庭の生活は有るはずですし、腐るほど富を持っていても寂しい家庭も有るでしょう。貧しさ故に腐ってしまう人間が居るのと同様に、豊かさ故に人生を狂わせてしまう者も居ますなあ。


00年に誕生した第1子のうち、26%が「できちゃった結婚」で生まれた。10代後半では8割だ。結婚を出産の前提と考える人が多いことを示しているといえ、未婚化は少子化と直結している。

「3年子無きは去る」と言われていた「お家大切」の時代が終ったそうですが、結婚したら即子供を要求する風潮は簡単に無くなるはずも無いのです。人権と自由の行き着く果てに昔懐かしいDINKSなどという奇怪な米国製の単語が輸入されたのはバブル時代でしたなあ。「共稼ぎで子ども無しカップル」という意味でした。その裏側でメディアの発達に従って、暇潰しセックスと若年層の売春が流行したりして「できちゃった結婚」が増えたようですが、同時に10代の妊娠中絶も激増してしまったそうですなあ。

■乱暴に括ってしまえば、進学・就職・出世競争に忙しいグループと、暇に任せてまぐわっているグループとに分かれるのかも知れませんなあ。


そもそも交際相手がいない人は、未婚男性の5割、未婚女性の4割を占めている。

男女の出会いの機械が急速に減った原因を解明するには、戦後日本の家庭倫理や風俗習慣の変化を分析しなければならないでしょう。そのヒントになる話が同じ特集記事に載っています。


70年代に最も多かったお見合い結婚は大幅に減り、次に多かった職場結婚も半減している。……かつて、会社は、職場結婚で女性が「寿退社」し、新たに女性が入社することで出会いの場として機能した。上司も縁結び役を買って出たし、社員旅行など社内の交流も盛んだった。結婚後も働く女性が増え、結果的に職場結婚は減った。見合いや「職縁」が廃れた分を埋める新たな出会いの場は無い。


1.25は他人事? 其の壱

2006-06-13 15:21:30 | 社会問題・事件
■6月1日、2005年度の合計特殊出生率が発表されて、1日だけニュースのネタになったようです。ワールド・カップ・サッカーのお祭騒ぎの方に力が入っているマスコミは、「大変ですね。はい、次のニュースですが」と困った時のテキパキ作業で流しているしかないのでした。変な担当大臣が任命されたり、国民の心に響かない縦割り行政から提案される政策が実行されたりしても、子供の産み辛さや育て難さは変わらないようですなあ。朝日新聞を材料にしてちょっと「1.25ショック」を考えてみました。最初は6月2日の社説『働き方を変えよう』です。

景気の回復を反映して雇用の改善は進んだが、パートや派遣などの非正社員は増える一方だ。今や働く人の3人に1人を占める。若い世代では2人に1人だ。非正社員は正社員に比べ収入が低く、不安定だ。厚生労働省が20~34歳の若者を対象に02年に行なった調査によると、正社員の男性は4割が結婚していたのに、非正社員は1割に満たなかった。……

■社民党が熱心に主張しているパート労働者問題を少子化の最大の原因とする説です。しかし、経済的に貧しい事が少子化の原因なのでしょうか?多大な海外援助を必要とする貧困に苦しむ国々には子供が沢山居るのはどうしてでしょう?正社員になっても、一度崩れた終身雇用制度と安易なリストラ癖がついた日本の企業ですから、いつ解雇されるか分かりませんぞ。税金を使って正社員さえ増やせば少子化が解消されるような底の浅い理屈に耳を貸していると大事な事が分からなくなるような気がしますなあ。どうも、社会主義革命さえ起こればこの世は天国になる!という信仰を持っている人からは、単純で分かり易いアイデアが出て来るもののようです。


一方、正社員はどうだろう。過労などが原因で脳や心臓の疾患になったとして05年度に労災認定された人は330人で、過去最高となった。背景に広がっているのは慢性的な長時間労働だ。この10年をみると、週に60時間以上働く人の割合が増えている。なかでも30代の男性の労働時間が長い。有給休暇を取る率も減っている。子育て世代の男性正社員は、毎日、長時間、休みもとらないで働いている。

■ちゃんと朝日新聞でも「正社員雇用」が少子化対策の切り札にはならないと言っているのです。地方では不景気を良いことにして、週休2日制も残業手当も無視して弱い立場の労働者をこき使っている企業がごろごろしているのが日本です。その根深い滅私奉公を曲解した生命軽視と子供を邪魔にする企業風土を考えないと、有効な打開策は見つかりそうも有りません。


最初の子どもが生まれると、7割の女性は職場を去っていく。仕事と子育てを両立することが困難だからだ。会社に残っても、なかなか2人目を産める環境ではない。仕事に打ち込みながら、子育てをして趣味も楽しめる。そうした生活と調和がとれた働き方を実現したい。

思い詰めると、すぐにオカルトめいて来るのが新聞の悪い癖ですなあ。前段の客観的な統計数値に、後段の夢物語はまったく結び付きません。


短時間勤務や在宅勤務を組み合わせ、人生の様々な場面に応じた働き方を選べればいい。正社員と非正社員の待遇をできるだけ近づける努力も欠かせない。

■ペンがどんどん滑って夢見心地になっているようですが、朝日新聞の社員の皆さんは、家庭を放り出して「夜討朝駆け」で特ダネを追い回す記者を称賛するように教育されているのではないのですかな?子育て優先で「特オチ」を連発した記者が居たら、譴責処分にしたりしないのでしょうか?長野県知事との捏造インタヴュー記事を書かねばならなかった朝日新聞の記者はどうしてあんな事をしたのでしょう?