旅限無(りょげむ)

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新シルクロード『天空の道』に物申す 其の壱拾

2005-09-22 20:02:13 | チベットもの
其の九の続き

■わざわざ、訳の分からない説明を付けて青海湖の西岸まで行って「賽の河原」を撮影したのは、青海の地が戦乱の地になっていた時代に話を持って行くための作戦だったようです。チベット人が石を積み上げるのは、別に御先祖様の供養でもないし、自分の罪を消すためでもありません。魔除けのお呪いと考えた方が良いでしょう。


「かつて青海湖は、人々の悲しみが積み重なる場所でした。青海湖に戦乱の嵐が吹き荒れていた時代が有ったのです。」

青海地方に悲しみが積み重なったのは、そんなに昔の話ではありませんぞ!今だって充分に多くの悲しみが積み重なっているのに、まるで大昔は悲しくて、今はハッピー!と誰かさんに言わされているのでしょうか?1950年代に始まる「チベット解放戦争」の前哨戦が、ダライ・ラマ14世の故郷であるアムドで始まったのです。その凄まじさをちょっとだけ知りたければ、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』という映画が参考になります。小僧さんが人民解放軍の兵隊に脅かされて、ピストルで自分のお師匠さんの頭を打ち抜く、というとても分かり易い実話を映像化してくれていましたね。

■その後の、「大躍進」時代では深刻な飢餓が広がりましたし、続いて起こった「文化大革命」では、破壊と略奪のカーニバルがあちこちで繰り広げられまして、漢族の皆さんは随分と楽しんだし、人民解放軍はお寺を襲って金銀財宝を戦利品として持ち帰ったそうですなあ。でも、ツダイラさんが言おうとしている「戦乱」は1400年以上前の唐の時代の話のようです。唐は漢族とは無関係の北方民族の鮮卑族が建てた王朝ですから、念のため。


「青海湖に程近い山に、日月峠が有ります。そこに戦乱の歴史を生きた一人の女性の像が建てられています。」

さあ!とうとう始まります。ここからがこの番組の最も罪深いホラ話とヨタ話の乱れ打ちですぞ!心してビデオを再生しましょう。さっきまで青海湖の西岸にいた撮影隊は、あっと言う間に青海湖の東へと移動しまして、それも青海湖にはぜんぜん「ほど近」くない日月山に飛びます。どうしてもこの「女性の像」を撮影しなければならない事情がNHKには有ったにちがいない!この像は画面からも露骨に分かるように、極最近作られた物です。おそらくはこの2年の間でしょうなあ。そして、ちゃんと像の背景になるように2つの丘にはチャイナ風の東屋が建っています。観光写真にぴったりの構図ですなあ。嬉しくなります。後ろの東屋が建ってからまだ10年も経っていないと思います。

■青海湖への観光ツアーに強引に嵌め込むために、日月山の伝説を利用してこの場所に観光スポットとして建てられたのですが、ぜんぜん人気が出ずに、長い間、放置されて荒れていたのです。だいたい、あの場所が本当に日月峠なのか、誰にも分からないのです。歴史的な物証が発見されたわけでもないし、チベット人の多くは、あそこが史書に書かれた日月山だとは信じていません。たまたま、畑作地帯から坂道を登って草原地帯に入る所に、なかなか良い景色を楽しめる場所が有ったので、誰かさんが「おお!ここが良い。ここにしよう。うん、ここでなければいけない」とか何とか言って、適当に決めた場所なのです。ですから、折角の観光商売の目論みはしっかりと外れて、閑古鳥が鳴いていたという訳です。

■ところが、「西部大開発」の大号令で、大急ぎで再整備が進められる事になったのです。お土産屋さんが並び始めたし、どこから連れて来たのか、この地方にはいない二瘤駱駝さんまで引っ張って来られて、駱駝さんは迷惑そうな顔をしていましたなあ。そんな事には一切お構い無く、ツダイラさんは、変な女性像のアップに続けて、「7世紀 唐と吐蕃の勢力図」なる好い加減な衛星写真に合成した地図に重ねて、重々しくトンデモない歴史講釈をし始めます。御自分でも『その時、歴史が動いた』なる歴史物を担当しているのですから、もう少し丁寧に歴史を調べてから口を開いた方が宜しいかと存じます。


「文成公主、7世紀、中国の王朝、唐の皇帝の娘であった文成公主は、和睦の証(あかし)として当時敵対していたチベットの統一国家、吐蕃に嫁ぎました。」

■悲しげなピアノの音色をバックに、頬の豊かなオチョボ口の女性像の顔が大写しになります。すると、どうした事でしょう?眉間に白毫(びゃくごう)が有りますぞ!文成公主は何時の間に「如来様」になったのでしょう?棟方志功じゃあるまいし、片っ端から女性像の額に丸い印を付ければ良いというものではありませんぞ!でも、ツダイラさんの歴史講釈は、そんな「小さな事」などぜんぜん気にしないで、ますます調子が出て来ます。


「7世紀以降、青海湖はチベットと中国が衝突を繰り返した戦場でした。青海地方一帯にその勢力を拡大しようとしていた唐と吐蕃は、お互いに覇権を争って、青海湖の周辺で激しく戦火を交えて来ました。和平のため吐蕃に嫁いだ文成公主、彼女によってチベットに初めて仏教がもたらされたと伝えられています。その文成公主ゆかりの寺院を訪ねました。」

「チベットと中国」と言ったり、「唐と吐蕃」と言ったり、どちらも同じような意味だろうと視聴者が誤解をしたらどうする心算でしょう?始めから、誤解させようとしているのならば、このナレーションは犯罪的です。

其の壱拾壱につづく

新シルクロード『天空の道』に物申す 其の九

2005-09-22 18:45:37 | チベットもの
其の八のつづき

■チベットが仏教を国教としたのは、日本と大体同じ時期と考えられています。それまでは、日本と同じで山や湖には、八百万の神々みたいな神様が沢山おわしました。チベット仏教が日本仏教と違うのは、仏教の布教によってこうした自然崇拝の対象が仏教の法力で打ち滅ぼされるか、完全に屈服した事になっている事です。ですから、「本地垂迹説」が有りません。これを知らないと次のよな妙な場面になってしまいますから、ご用心。


「人気の無い湖畔にオボと呼ばれるチベット仏教の祠(ほこら)が有りました。五色の旗、タルチョ、悪霊や災難を追い払い、平和と繁栄を願って、信者がオボに巻き付ける物です。」

オボが祠(ほこら)かどうかは判断が難しいところです。石積みが印象的ですが、オボの中心は入手可能な一番長い木材を立てた柱だと思われます。日本の御神木信仰と同じで、天の神々が降りて来る時のヨリシロだったんではないでしょうか?柱を固定するためのロープが四方八方に張られて、そこに仏教哲学が世界を構成する要素とした「地水火風空」を象徴する5色の布を結び付けます。布には木版印刷の御経が書かれているのが分かりますね。

■オボは、山頂などの象徴的な場所に作られるので、やはり仏教以前の伝統が生き残った風習なのだと思われるのですが、


「オボの近くにやって来たチベット族の老人が一人。老人は湖に向って祈り始めました。こうして祈るのは、昔からの毎日の習慣だと言います。」

毎日の習慣とはご苦労様な話ですが、あの周辺の村からは随分と距離が有るので、毎日これをやっていたら、この老人は他の仕事をしている暇が無いでしょうなあ。それに、一張羅の上着を着ているのが不自然です。襟に縫い付けた毛皮が晴れ着である事を証明しています。貂や川獺(かわうそ)の毛皮は、結婚式の時に重要な結納品とされるほど重要な品です。約束通りの品質と大きさでなかったりすると、仲人さんが吊るし上げられたり、それを理由に土壇場で破談!なんて事も起こるとか……。模造品も増えていますが、画面から見ると本物の毛皮のようですから、爺様は張り切って一張羅を着込んで来たのでしょう。帽子を被ったまま拝んでいるのも面白いですね。

■「賽の河原」とツダイラさんは言いますが、この世とあの世を分かつ不思議な流れについては世界中に似たような話が残っているので、人間の潜在意識の中に刻み込まれたユングさんが言う「プロトタイプ」に関連する風景なのかも知れません。ですから、日本とチベットに共通する文化のように強調するのは注意したいものですなあ。それに、見渡す限りの石になっているのは、水位がどんどん下がっているからです。爺様の背景に昔の湖岸がはっきり写っているのが分かります。どんどん露出して来る石の湖底に、せっせと石を積んでいるわけですね。誰もそれを喜んでやっているわけではありません!

「まるで賽の河原のような見渡す限りの石の山。通りがかったチベット族の人々が一つ一つ積み上げていった物です。」

などと呑気な事を言っている場合ではないのです。このままでは大事な湖が無くなってしまうんじゃないか?とチベット人は力なく心配しています。でも、その原因を作っているのがオッカナイ人達だから黙っているだけです。

■爺様が、「ここは神様が出入りする聖なる玄関だ」と教えてくれます。さっきまでチベット仏教の話をしていたのに、急に神様の話になっても、日本人はぜんぜん気にしないでしょうが、神と仏はぜんぜん違うものです。では、この爺様が言っている神様とは何者か?と考えますと、ちょっと説明が長くなります。そもそも、青海省という名前は、中華民国の時代に正式に定められた行政区域の名前に由来しているのです。元々、この地域は「アムド」と呼ばれていたのに、侵入して来たチャイナの人達は青海湖に驚いたのか、この湖の名前を行政区に付けてしまいました。ですから、チベット人同士の会話がややこしくなってしまったのです。うっかり「青海」出身だと言ってしまうと、青海湖近くの出身者だと思われるので、「アムド」を使わないと困るという訳です。でも、間も無く青海省の人口の五割を超える漢族は平気で「青海出身だ」と言いますなあ。

■元々、この青海湖には「青い大海」を意味するチベット語の「ツォ・ゴンボ」と「青い湖」を意味するモンゴル語の「ココ・ノール」が有りました。つまり、チベット人とモンゴル人が混在していた場所だったという事です。「古来漢民族の国だった」などというのは大嘘です。チベット人が定着した後に、モンゴル系の遊牧民が南下して、清朝の頃から漢民族の移住が始まった歴史をこの湖の三種類の名前が証明している訳です。そして、「ツォ・ゴンボ」は通称で、文語の正式名称はラサの発音で「ツォ・ゴン・ティ・ショル・ギャルモ」と言うのです。直訳すると「青い大海、万、死滅、女王」となります。日本人に負けずに長い単語を省略するチベット人ですから、これは長い伝説を象徴する単語の頭を単純に繋げた名前なのです。

■この名称の謎解きをすると、未だ湖の無かった太古の昔、豊かに水が湧き出す泉を囲むようにして人や他の多くの生き物が暮らしていたのだそうです。この恵みの泉は必要の無い時には必ず重い蓋を被せて置かなければならない掟が有ったのですが、或る時うっかり蓋をし忘れた愚か者がいまして、限り無く湧き出す水で洪水となってしまったのです。それで周囲が水没してしまって「幾万」もの「命を奪って」しまったのだそうです。その様子を御覧になった神様が、湖底の泉を目掛けて一つの岩山をお投げになって栓にしたので、湧水は止まって全世界が水没するのを免れたと言います。有り難いことです。

■その時に突き刺さった岩山の頂が今も湖面ほぼ中央、やや西よりに出ていて、それが「海心山」と呼ばれる小島なのだそうで、因みにこの絶海の孤島のような離れ島には尼寺が建っていて、尼さんが結氷期に歩いて岸辺の町までやって来て必要な物資を受け取って行くらしいです。爺様が拝んでいたのは、この海心山の方角で、世界を水没の危機から救って下さった神様に感謝の祈りを捧げていると思われます。皮肉なことに、世界全部を沈めてしまうほどの水量が有ったはずの青海湖がどんどん干上がっている時代になったのですなあ。


「ここはチベット族の祈りが宿る場所です」

ツダイラさんは、大雑把なまとめ方をしてしまいましたが、神と仏の区別も付かない程度の教養で、チベット地域を取材して歩いてはいけませんなあ。

其の十に続く

新シルクロード『天空の道』に物申す 其の八

2005-09-22 18:44:32 | チベットもの
其の七の続き

■変なツァンパの食事の後で、チベット人の伝統を強調する映像が欲しいところです。カメラは、草原で踊っている人々を捉えます。


「遊牧民がチベット族の伝統的な踊りを練習しています。位の高いお坊さんがやって来るので、そのお祝いに踊りを披露するのだと言います。」


それは結構な事ですが、実は、アムド(青海)は馬と商人が有名で「踊り」と言えばカム地方が本場なので、案の定、とっても地味で単調な踊りが出てきました。それにわざわざ「練習」風景を撮影するので、アムド独特の晴れ着が見られません。特に女性は長大な髪飾りを背中に垂らすので、あのような体を単純に左右に揺するような動作しか出来ないのですなあ。カム地方では、激しく飛んだり跳ねたり、腕をぶんぶん回すような踊りが有名なので、衣装も違っているのです。

■ですから、「チベットの踊り」と十把一からげにはして欲しくないのですが、チベット人の爺さまが「チベットの伝統を伝えるんだ」と言っていたので、地味な踊りの練習でも良いとしましょう。でも、あの爺様がお喋り好きのチベット人には珍しくおどおどした口調で、ちょっとドモッていたのは不自然でしたなあ。テレビ・カメラで緊張したのか、おっかない人が睨んでいて、慎重に言葉を選んでいたのか、真相は分かりません。


「草原で出遭った笑顔の美しい、温かな人達でした。」

とまとめるしか無いのでしょうが、無理やり呼び集めないとあんな映像は取れませんなあ。それに、何だかチベット人が気楽に草原に集まって楽しそうに踊ったり笑ったりしているように見えますが、現実には、あんな大人数が集まるとなると、理由が伝統行事であろうとなかろうと、事前に公安から許可を受けておかないと、エライことになるのです。

■風景とチベット爺様の訛具合からして、西寧から西に進んで来た取材コースから外れた、もっと南の方で撮影されたのではないか?とう違われる踊りの場面でした。


「わたくし達は、青海の道に沿って、高原を更に西へと向いました。」

ツダイラさんが言うのですから、寄り道しないで真っ直ぐ西に向って走っている事になっているようです。


「7月、菜の花が青海の道の短い夏を彩っていました。その向こうに真っ青な湖がどこまでも続いています。中国最大の湖、青海湖です。琵琶湖の七倍という広大な湖面が空を反射して青く光ります。青海湖は正に青い海、天空のサファイアと称されています。」

ここでヨーヨー・マの泣かせるチェロが鳴りまして、ツダイラさんの語りにも一層の力が入ります。

■琵琶湖は671平方キロで、青海湖は4587平方キロですから、「7倍」と言うのはウソでは有りません。但し、青海湖はずんずん水位を下げ続けておりまして、昔の岸辺に作られた船着場が使い物にならず、湖岸のレストランも間が抜けた風景の中に建っていたりしますから、そろそろ「琵琶湖の7倍」ではなくなっている可能性が高いですなあ。どうして、そんなに水位が下がったか?理由は簡単で、周囲の木を誰かさんが遠慮なくばんばん伐りだして何処かに持って行ったからです。でも、チベット人には文句の一つも言えない悲しい事情が有るのです。それにしても、「天空のサファイア」などと何処の誰が言ったのでしょう?ぜんぜん、聞いた事が有りません。海抜3199メートルの青海湖を、チベット人なら絶対に「天空」などとは言いません。詩や歌を沢山持っているチベットですから、数々の美しい表現で自然を歌います。仏教の御経に出て来る極楽浄土の描写なども愛用されますから、一所懸命に探せばサファイアと翻訳しても良い詩の一節ぐらいは見つかるでしょうが、ツダイラさんが断言するような、青海湖の異名として流布している事は無いでしょう。

■湖の湿気が周囲の山波に当たって筋上の雲が出来るとツダイラさんは言います。でも、高原の雲はびっくりする速さで流れて行くので、あの湖を囲む雲が切れて、シュークリームみたいな形の雲が湖上に浮かんでいる風景の方が青海湖の夏を良く表わすのですが、撮影隊が湖に滞在した数日間では、そんな風景に出会わなかったのかも知れません。残念でしたね。


「19世紀、世界中の探検家が一度は訪れてみたいと憧れた神秘の青海湖」

「世界中の探検家」とは大きく出ましたなあ。チベットには掃いて捨てる(捨てては行けませんが)ほど、本当の神秘の湖が点在していますが、取り立てて青海湖が神秘的だというのも考え物です。画面には自慢のパラ・グライダーを飛ばして水鳥を脅して撮影したシーンが挟み込まれます。あんまり、イタズラしちゃあダメですよ。観光名所の鳥島も撮影しておこうと、撮影隊は青海の道を外れてどんどん湖岸を北上したのが分かります。問題はその場所が、重要な島に最も近い岬になっているという事実なのです。話が核心を外れて妙な信仰話にズレて行きますなあ。

其の九に続く

アラファトの遺産

2005-09-22 09:17:23 | 外交・世界情勢全般
■ほんの25年前、生前のアラファトさんが日本に来た事が有る。その時の新聞や雑誌はすべてゴミとなって既に煙か土になってしまっているのでしょうが、いくつか脳裏に刻み込まれた一節が有るのですから、うっかりした事を書き散らすのは考え物ですなあ。現在も、沢山の本を出しながら元気に全国を講演して歩き、お釈迦さまの話で稼いでおられる有名な宗教研究家?が、何を考えたのか、「アラファトさんは、本当に人間が好きなんですね。あの笑顔を見れば分かります。」と能天気なコメントを某雑誌に寄せていたんです。

■某大新聞も、パレスチナの少年ゲリラを英雄のように報道していましたなあ。クフィーヤ(アラブ風頭巾)で顔を隠してAK47突撃銃を持って後進したり火の輪をくぐったりしていた少年達が、今、イスラエルの占領軍が去ったガザで何をやっているのか……。


ガザ地区:治安の混乱が深刻化 誘拐、暗殺、軍事行動…
 
 イスラエルのガザ地区撤退に伴い、同地の政治・治安情勢の混乱が深刻化している。ギャング化した武装集団による外国人狙いの誘拐や自治政府要人の暗殺が相次ぐ。さらに、イスラム原理主義組織ハマスは市街地で過去最大級の軍事パレードを強行するなど、武装解除を求める自治政府に公然と挑戦し始めた。「法の支配」と「権威の確立」を目指す自治政府の統治能力が問われている。

 AP通信によると、ガザ市在住の同通信カメラマンが18日夕、取材先から自宅へ戻ったところを車で乗り付けた4人組の武装グループに襲われ、連れ去られた。一緒にいたパレスチナ人の同僚が車で追跡。市街地での激しいカーチェイスに気付いた自治政府治安部隊や、近くで軍事パレードを行っていたハマスの武装メンバーの介入により、カメラマンは間もなく解放された。

 カメラマンによると4人組のうち3人は逮捕された。犯人は自治政府に対し、誘拐した人質と引き換えに刑務所にいる親類の釈放を要求するつもりだったという。

 10日にはガザ地区中部デイルバラで、イタリア人記者が武装グループに誘拐され、数時間後に解放される事件が起きた。対イスラエル武装闘争で勢力を伸ばした武装集団がギャング化し、イスラエルのガザ撤退に伴う混乱に乗じ、自治政府に不当な要求を突き付けているのが実情だ。

 7日にはガザ市で、アラファト前自治政府議長のおいにあたるムーサ・アラファト元ガザ地区軍司令長官が暗殺されたが、激しい銃撃戦が約30分も続いたのに近くにいた治安部隊はすぐに現場へ駆けつけようとせず、いまだに犯人グループは捕まっていない。

 自治政府は最大のライバルであるハマスからも足元を脅かされている。ハマスは18日、イスラエルのガザ撤退を祝う軍事パレードをガザ市で開催。地元メディアによると兵士5000人以上が参加した。自動小銃だけでなく手製の対戦車砲を肩に目抜き通りを練り歩き、数百発もの祝砲を撃ち鳴らした。

 指導者の一人はイスラエルがすべての占領地から撤退するまで武装闘争をやめないと言明、自治政府による武装解除の要求を改めて拒絶した。 毎日新聞 2005年9月21日
■「イスラエルを地中海に追い落とす!」と叫んでいれば、仲の悪いアラブ産油諸国が莫大なお小遣いをくれるので、せっせと旧ソ連のテロリスト学校に若者を留学させたり、中東各地にテロリスト訓練所を作ったり、その「事業」の親方がアラファトさんでした。何処の王様からいくらのお小遣いを貰ったのやら、それを何に幾ら使ったのか、そしてどこの国の銀行にヘソクリを幾ら溜め込んでいるのか、アラファトさんの頭の中に全部入っていたそうです。秘密口座の番号が分からなくなるので、アラファトさんは暗殺されずにフランスで大往生しました。何の仕事もしていないのに、パレスチナで一番の金持ちでしたから、周囲には変な連中がいつもいっぱい集(たか)っていたし、必死でオコボレに預かろうと頑張っていた人達もいっぱいでした。

■賄賂や不正蓄財が当たり前で、別の金ヅルを持つ別の組織も生まれたし、内部で分裂したり国外から入り込んだりして、何が何やら分からない状態になっていました。米国や国連がいろいろな提案をしても、物を作って売るのを知らずに、ひたすら壊して盗んで殺していた人達が、「失業」しているのです。パレスチナの子供が可哀想だと思って資金を提供すると、どこをどう流れてそうなるのかは分かりませんが、次々に爆弾と機関銃の弾に変わってしまったようです。世界に暗躍する「死の商人」のお得意さんだったアラファトさんが死亡しても、売り込みは無くなる事は無いのでしょう。何処かの武器製造会社が倒産したとは聞きませんからなあ……。

■日本までは鉄砲玉は届かないからと思って安心して、トボケた事を書き散らしている時代は良かったのでしょうが、IT革命とグローバル化で世界中がかつてのパレスチナと同じになってしまった現在、アフガニスタンの子供が可哀想、イラクの子供も可哀想、パレスチナも……と気楽には言えなくなりました。パレスチナにもアフガニスタンにも、腐るほどの資金を抱え込んでいる者はいるのです。それを何に使うのかを決めるのは、「主権」を主張している誰かさんで、その人は欧米諸国の軍需産業にとっては最高のお客さんですから、むちゃくちゃな事をやっていても糾弾されたり犯罪者扱いされたりもしません。

■これからますますパレスチナは内輪の殺し合いが激しくなるでしょう。援助だの募金だのと騒ぐ人が、やっと日本でも減って来たのは目出度いことですが、うっかりすると、「アフリカの貧困を救済しよう!」などと言ってヒューマニズムの仮面を付けて武器商人が大キャンペーンなどを仕掛けて来ますから、ご用心ご用心。国連にしたところで、人道主義に則(のっと)って、戦争中のイラクで「石油と食糧の交換」を進めていた裏で、事務総長の一族がせっせと裏金を貪(むさぼ)っていたりします。特に国連という組織には、検察庁に当たる監視機関が付いていないのですから、全員面して相当エゲツナイ事もやり放題だと考えた方が良いでしょう。

■ですから、うま味の無くなったパレスチナは国連にも軍需産業御抱える国々からも見棄てられ、テロリストとして育てられてしまった青年や中年が、唯一身に付けた技術で金を稼ごうとするのです。皆「アラファト・チルドレン」でした。まったく、トンデモない遺産を残す人がいるものです。かつてのルーマニアでも徹底的な洗脳教育を施して虐殺集団が養っていましたが、現在、彼等が正常な暮らしをしているのかどうか、誰にも分かりません。日本の隣には、現役の洗脳軍事国家がしっかりと健在なのですから、パレスチナや東欧で、変な指導者が残した遺産に苦しんでいる人々の実情を、しっかりと報道してもらわないと困るんですなあ。近い将来、その国が崩壊した時、東欧崩壊とパレスチナ解放とが同時に起こるのですから、ちゃんと心の準備をしておかねばなりませんぞ。

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