其の九の続き
■わざわざ、訳の分からない説明を付けて青海湖の西岸まで行って「賽の河原」を撮影したのは、青海の地が戦乱の地になっていた時代に話を持って行くための作戦だったようです。チベット人が石を積み上げるのは、別に御先祖様の供養でもないし、自分の罪を消すためでもありません。魔除けのお呪いと考えた方が良いでしょう。
「かつて青海湖は、人々の悲しみが積み重なる場所でした。青海湖に戦乱の嵐が吹き荒れていた時代が有ったのです。」
青海地方に悲しみが積み重なったのは、そんなに昔の話ではありませんぞ!今だって充分に多くの悲しみが積み重なっているのに、まるで大昔は悲しくて、今はハッピー!と誰かさんに言わされているのでしょうか?1950年代に始まる「チベット解放戦争」の前哨戦が、ダライ・ラマ14世の故郷であるアムドで始まったのです。その凄まじさをちょっとだけ知りたければ、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』という映画が参考になります。小僧さんが人民解放軍の兵隊に脅かされて、ピストルで自分のお師匠さんの頭を打ち抜く、というとても分かり易い実話を映像化してくれていましたね。
■その後の、「大躍進」時代では深刻な飢餓が広がりましたし、続いて起こった「文化大革命」では、破壊と略奪のカーニバルがあちこちで繰り広げられまして、漢族の皆さんは随分と楽しんだし、人民解放軍はお寺を襲って金銀財宝を戦利品として持ち帰ったそうですなあ。でも、マツダイラさんが言おうとしている「戦乱」は1400年以上前の唐の時代の話のようです。唐は漢族とは無関係の北方民族の鮮卑族が建てた王朝ですから、念のため。
「青海湖に程近い山に、日月峠が有ります。そこに戦乱の歴史を生きた一人の女性の像が建てられています。」
さあ!とうとう始まります。ここからがこの番組の最も罪深いホラ話とヨタ話の乱れ打ちですぞ!心してビデオを再生しましょう。さっきまで青海湖の西岸にいた撮影隊は、あっと言う間に青海湖の東へと移動しまして、それも青海湖にはぜんぜん「ほど近」くない日月山に飛びます。どうしてもこの「女性の像」を撮影しなければならない事情がNHKには有ったにちがいない!この像は画面からも露骨に分かるように、極最近作られた物です。おそらくはこの2年の間でしょうなあ。そして、ちゃんと像の背景になるように2つの丘にはチャイナ風の東屋が建っています。観光写真にぴったりの構図ですなあ。嬉しくなります。後ろの東屋が建ってからまだ10年も経っていないと思います。
■青海湖への観光ツアーに強引に嵌め込むために、日月山の伝説を利用してこの場所に観光スポットとして建てられたのですが、ぜんぜん人気が出ずに、長い間、放置されて荒れていたのです。だいたい、あの場所が本当に日月峠なのか、誰にも分からないのです。歴史的な物証が発見されたわけでもないし、チベット人の多くは、あそこが史書に書かれた日月山だとは信じていません。たまたま、畑作地帯から坂道を登って草原地帯に入る所に、なかなか良い景色を楽しめる場所が有ったので、誰かさんが「おお!ここが良い。ここにしよう。うん、ここでなければいけない」とか何とか言って、適当に決めた場所なのです。ですから、折角の観光商売の目論みはしっかりと外れて、閑古鳥が鳴いていたという訳です。
■ところが、「西部大開発」の大号令で、大急ぎで再整備が進められる事になったのです。お土産屋さんが並び始めたし、どこから連れて来たのか、この地方にはいない二瘤駱駝さんまで引っ張って来られて、駱駝さんは迷惑そうな顔をしていましたなあ。そんな事には一切お構い無く、マツダイラさんは、変な女性像のアップに続けて、「7世紀 唐と吐蕃の勢力図」なる好い加減な衛星写真に合成した地図に重ねて、重々しくトンデモない歴史講釈をし始めます。御自分でも『その時、歴史が動いた』なる歴史物を担当しているのですから、もう少し丁寧に歴史を調べてから口を開いた方が宜しいかと存じます。
「文成公主、7世紀、中国の王朝、唐の皇帝の娘であった文成公主は、和睦の証(あかし)として当時敵対していたチベットの統一国家、吐蕃に嫁ぎました。」
■悲しげなピアノの音色をバックに、頬の豊かなオチョボ口の女性像の顔が大写しになります。すると、どうした事でしょう?眉間に白毫(びゃくごう)が有りますぞ!文成公主は何時の間に「如来様」になったのでしょう?棟方志功じゃあるまいし、片っ端から女性像の額に丸い印を付ければ良いというものではありませんぞ!でも、マツダイラさんの歴史講釈は、そんな「小さな事」などぜんぜん気にしないで、ますます調子が出て来ます。
「7世紀以降、青海湖はチベットと中国が衝突を繰り返した戦場でした。青海地方一帯にその勢力を拡大しようとしていた唐と吐蕃は、お互いに覇権を争って、青海湖の周辺で激しく戦火を交えて来ました。和平のため吐蕃に嫁いだ文成公主、彼女によってチベットに初めて仏教がもたらされたと伝えられています。その文成公主ゆかりの寺院を訪ねました。」
「チベットと中国」と言ったり、「唐と吐蕃」と言ったり、どちらも同じような意味だろうと視聴者が誤解をしたらどうする心算でしょう?始めから、誤解させようとしているのならば、このナレーションは犯罪的です。
其の壱拾壱につづく
■わざわざ、訳の分からない説明を付けて青海湖の西岸まで行って「賽の河原」を撮影したのは、青海の地が戦乱の地になっていた時代に話を持って行くための作戦だったようです。チベット人が石を積み上げるのは、別に御先祖様の供養でもないし、自分の罪を消すためでもありません。魔除けのお呪いと考えた方が良いでしょう。
「かつて青海湖は、人々の悲しみが積み重なる場所でした。青海湖に戦乱の嵐が吹き荒れていた時代が有ったのです。」
青海地方に悲しみが積み重なったのは、そんなに昔の話ではありませんぞ!今だって充分に多くの悲しみが積み重なっているのに、まるで大昔は悲しくて、今はハッピー!と誰かさんに言わされているのでしょうか?1950年代に始まる「チベット解放戦争」の前哨戦が、ダライ・ラマ14世の故郷であるアムドで始まったのです。その凄まじさをちょっとだけ知りたければ、『セブン・イヤーズ・イン・チベット』という映画が参考になります。小僧さんが人民解放軍の兵隊に脅かされて、ピストルで自分のお師匠さんの頭を打ち抜く、というとても分かり易い実話を映像化してくれていましたね。
■その後の、「大躍進」時代では深刻な飢餓が広がりましたし、続いて起こった「文化大革命」では、破壊と略奪のカーニバルがあちこちで繰り広げられまして、漢族の皆さんは随分と楽しんだし、人民解放軍はお寺を襲って金銀財宝を戦利品として持ち帰ったそうですなあ。でも、マツダイラさんが言おうとしている「戦乱」は1400年以上前の唐の時代の話のようです。唐は漢族とは無関係の北方民族の鮮卑族が建てた王朝ですから、念のため。
「青海湖に程近い山に、日月峠が有ります。そこに戦乱の歴史を生きた一人の女性の像が建てられています。」
さあ!とうとう始まります。ここからがこの番組の最も罪深いホラ話とヨタ話の乱れ打ちですぞ!心してビデオを再生しましょう。さっきまで青海湖の西岸にいた撮影隊は、あっと言う間に青海湖の東へと移動しまして、それも青海湖にはぜんぜん「ほど近」くない日月山に飛びます。どうしてもこの「女性の像」を撮影しなければならない事情がNHKには有ったにちがいない!この像は画面からも露骨に分かるように、極最近作られた物です。おそらくはこの2年の間でしょうなあ。そして、ちゃんと像の背景になるように2つの丘にはチャイナ風の東屋が建っています。観光写真にぴったりの構図ですなあ。嬉しくなります。後ろの東屋が建ってからまだ10年も経っていないと思います。
■青海湖への観光ツアーに強引に嵌め込むために、日月山の伝説を利用してこの場所に観光スポットとして建てられたのですが、ぜんぜん人気が出ずに、長い間、放置されて荒れていたのです。だいたい、あの場所が本当に日月峠なのか、誰にも分からないのです。歴史的な物証が発見されたわけでもないし、チベット人の多くは、あそこが史書に書かれた日月山だとは信じていません。たまたま、畑作地帯から坂道を登って草原地帯に入る所に、なかなか良い景色を楽しめる場所が有ったので、誰かさんが「おお!ここが良い。ここにしよう。うん、ここでなければいけない」とか何とか言って、適当に決めた場所なのです。ですから、折角の観光商売の目論みはしっかりと外れて、閑古鳥が鳴いていたという訳です。
■ところが、「西部大開発」の大号令で、大急ぎで再整備が進められる事になったのです。お土産屋さんが並び始めたし、どこから連れて来たのか、この地方にはいない二瘤駱駝さんまで引っ張って来られて、駱駝さんは迷惑そうな顔をしていましたなあ。そんな事には一切お構い無く、マツダイラさんは、変な女性像のアップに続けて、「7世紀 唐と吐蕃の勢力図」なる好い加減な衛星写真に合成した地図に重ねて、重々しくトンデモない歴史講釈をし始めます。御自分でも『その時、歴史が動いた』なる歴史物を担当しているのですから、もう少し丁寧に歴史を調べてから口を開いた方が宜しいかと存じます。
「文成公主、7世紀、中国の王朝、唐の皇帝の娘であった文成公主は、和睦の証(あかし)として当時敵対していたチベットの統一国家、吐蕃に嫁ぎました。」
■悲しげなピアノの音色をバックに、頬の豊かなオチョボ口の女性像の顔が大写しになります。すると、どうした事でしょう?眉間に白毫(びゃくごう)が有りますぞ!文成公主は何時の間に「如来様」になったのでしょう?棟方志功じゃあるまいし、片っ端から女性像の額に丸い印を付ければ良いというものではありませんぞ!でも、マツダイラさんの歴史講釈は、そんな「小さな事」などぜんぜん気にしないで、ますます調子が出て来ます。
「7世紀以降、青海湖はチベットと中国が衝突を繰り返した戦場でした。青海地方一帯にその勢力を拡大しようとしていた唐と吐蕃は、お互いに覇権を争って、青海湖の周辺で激しく戦火を交えて来ました。和平のため吐蕃に嫁いだ文成公主、彼女によってチベットに初めて仏教がもたらされたと伝えられています。その文成公主ゆかりの寺院を訪ねました。」
「チベットと中国」と言ったり、「唐と吐蕃」と言ったり、どちらも同じような意味だろうと視聴者が誤解をしたらどうする心算でしょう?始めから、誤解させようとしているのならば、このナレーションは犯罪的です。
其の壱拾壱につづく