其の七の続き
■変なツァンパの食事の後で、チベット人の伝統を強調する映像が欲しいところです。カメラは、草原で踊っている人々を捉えます。
「遊牧民がチベット族の伝統的な踊りを練習しています。位の高いお坊さんがやって来るので、そのお祝いに踊りを披露するのだと言います。」
それは結構な事ですが、実は、アムド(青海)は馬と商人が有名で「踊り」と言えばカム地方が本場なので、案の定、とっても地味で単調な踊りが出てきました。それにわざわざ「練習」風景を撮影するので、アムド独特の晴れ着が見られません。特に女性は長大な髪飾りを背中に垂らすので、あのような体を単純に左右に揺するような動作しか出来ないのですなあ。カム地方では、激しく飛んだり跳ねたり、腕をぶんぶん回すような踊りが有名なので、衣装も違っているのです。
■ですから、「チベットの踊り」と十把一からげにはして欲しくないのですが、チベット人の爺さまが「チベットの伝統を伝えるんだ」と言っていたので、地味な踊りの練習でも良いとしましょう。でも、あの爺様がお喋り好きのチベット人には珍しくおどおどした口調で、ちょっとドモッていたのは不自然でしたなあ。テレビ・カメラで緊張したのか、おっかない人が睨んでいて、慎重に言葉を選んでいたのか、真相は分かりません。
「草原で出遭った笑顔の美しい、温かな人達でした。」
とまとめるしか無いのでしょうが、無理やり呼び集めないとあんな映像は取れませんなあ。それに、何だかチベット人が気楽に草原に集まって楽しそうに踊ったり笑ったりしているように見えますが、現実には、あんな大人数が集まるとなると、理由が伝統行事であろうとなかろうと、事前に公安から許可を受けておかないと、エライことになるのです。
■風景とチベット爺様の訛具合からして、西寧から西に進んで来た取材コースから外れた、もっと南の方で撮影されたのではないか?とう違われる踊りの場面でした。
「わたくし達は、青海の道に沿って、高原を更に西へと向いました。」
とマツダイラさんが言うのですから、寄り道しないで真っ直ぐ西に向って走っている事になっているようです。
「7月、菜の花が青海の道の短い夏を彩っていました。その向こうに真っ青な湖がどこまでも続いています。中国最大の湖、青海湖です。琵琶湖の七倍という広大な湖面が空を反射して青く光ります。青海湖は正に青い海、天空のサファイアと称されています。」
ここでヨーヨー・マの泣かせるチェロが鳴りまして、マツダイラさんの語りにも一層の力が入ります。
■琵琶湖は671平方キロで、青海湖は4587平方キロですから、「7倍」と言うのはウソでは有りません。但し、青海湖はずんずん水位を下げ続けておりまして、昔の岸辺に作られた船着場が使い物にならず、湖岸のレストランも間が抜けた風景の中に建っていたりしますから、そろそろ「琵琶湖の7倍」ではなくなっている可能性が高いですなあ。どうして、そんなに水位が下がったか?理由は簡単で、周囲の木を誰かさんが遠慮なくばんばん伐りだして何処かに持って行ったからです。でも、チベット人には文句の一つも言えない悲しい事情が有るのです。それにしても、「天空のサファイア」などと何処の誰が言ったのでしょう?ぜんぜん、聞いた事が有りません。海抜3199メートルの青海湖を、チベット人なら絶対に「天空」などとは言いません。詩や歌を沢山持っているチベットですから、数々の美しい表現で自然を歌います。仏教の御経に出て来る極楽浄土の描写なども愛用されますから、一所懸命に探せばサファイアと翻訳しても良い詩の一節ぐらいは見つかるでしょうが、マツダイラさんが断言するような、青海湖の異名として流布している事は無いでしょう。
■湖の湿気が周囲の山波に当たって筋上の雲が出来るとマツダイラさんは言います。でも、高原の雲はびっくりする速さで流れて行くので、あの湖を囲む雲が切れて、シュークリームみたいな形の雲が湖上に浮かんでいる風景の方が青海湖の夏を良く表わすのですが、撮影隊が湖に滞在した数日間では、そんな風景に出会わなかったのかも知れません。残念でしたね。
「19世紀、世界中の探検家が一度は訪れてみたいと憧れた神秘の青海湖」
「世界中の探検家」とは大きく出ましたなあ。チベットには掃いて捨てる(捨てては行けませんが)ほど、本当の神秘の湖が点在していますが、取り立てて青海湖が神秘的だというのも考え物です。画面には自慢のパラ・グライダーを飛ばして水鳥を脅して撮影したシーンが挟み込まれます。あんまり、イタズラしちゃあダメですよ。観光名所の鳥島も撮影しておこうと、撮影隊は青海の道を外れてどんどん湖岸を北上したのが分かります。問題はその場所が、重要な島に最も近い岬になっているという事実なのです。話が核心を外れて妙な信仰話にズレて行きますなあ。
其の九に続く
■変なツァンパの食事の後で、チベット人の伝統を強調する映像が欲しいところです。カメラは、草原で踊っている人々を捉えます。
「遊牧民がチベット族の伝統的な踊りを練習しています。位の高いお坊さんがやって来るので、そのお祝いに踊りを披露するのだと言います。」
それは結構な事ですが、実は、アムド(青海)は馬と商人が有名で「踊り」と言えばカム地方が本場なので、案の定、とっても地味で単調な踊りが出てきました。それにわざわざ「練習」風景を撮影するので、アムド独特の晴れ着が見られません。特に女性は長大な髪飾りを背中に垂らすので、あのような体を単純に左右に揺するような動作しか出来ないのですなあ。カム地方では、激しく飛んだり跳ねたり、腕をぶんぶん回すような踊りが有名なので、衣装も違っているのです。
■ですから、「チベットの踊り」と十把一からげにはして欲しくないのですが、チベット人の爺さまが「チベットの伝統を伝えるんだ」と言っていたので、地味な踊りの練習でも良いとしましょう。でも、あの爺様がお喋り好きのチベット人には珍しくおどおどした口調で、ちょっとドモッていたのは不自然でしたなあ。テレビ・カメラで緊張したのか、おっかない人が睨んでいて、慎重に言葉を選んでいたのか、真相は分かりません。
「草原で出遭った笑顔の美しい、温かな人達でした。」
とまとめるしか無いのでしょうが、無理やり呼び集めないとあんな映像は取れませんなあ。それに、何だかチベット人が気楽に草原に集まって楽しそうに踊ったり笑ったりしているように見えますが、現実には、あんな大人数が集まるとなると、理由が伝統行事であろうとなかろうと、事前に公安から許可を受けておかないと、エライことになるのです。
■風景とチベット爺様の訛具合からして、西寧から西に進んで来た取材コースから外れた、もっと南の方で撮影されたのではないか?とう違われる踊りの場面でした。
「わたくし達は、青海の道に沿って、高原を更に西へと向いました。」
とマツダイラさんが言うのですから、寄り道しないで真っ直ぐ西に向って走っている事になっているようです。
「7月、菜の花が青海の道の短い夏を彩っていました。その向こうに真っ青な湖がどこまでも続いています。中国最大の湖、青海湖です。琵琶湖の七倍という広大な湖面が空を反射して青く光ります。青海湖は正に青い海、天空のサファイアと称されています。」
ここでヨーヨー・マの泣かせるチェロが鳴りまして、マツダイラさんの語りにも一層の力が入ります。
■琵琶湖は671平方キロで、青海湖は4587平方キロですから、「7倍」と言うのはウソでは有りません。但し、青海湖はずんずん水位を下げ続けておりまして、昔の岸辺に作られた船着場が使い物にならず、湖岸のレストランも間が抜けた風景の中に建っていたりしますから、そろそろ「琵琶湖の7倍」ではなくなっている可能性が高いですなあ。どうして、そんなに水位が下がったか?理由は簡単で、周囲の木を誰かさんが遠慮なくばんばん伐りだして何処かに持って行ったからです。でも、チベット人には文句の一つも言えない悲しい事情が有るのです。それにしても、「天空のサファイア」などと何処の誰が言ったのでしょう?ぜんぜん、聞いた事が有りません。海抜3199メートルの青海湖を、チベット人なら絶対に「天空」などとは言いません。詩や歌を沢山持っているチベットですから、数々の美しい表現で自然を歌います。仏教の御経に出て来る極楽浄土の描写なども愛用されますから、一所懸命に探せばサファイアと翻訳しても良い詩の一節ぐらいは見つかるでしょうが、マツダイラさんが断言するような、青海湖の異名として流布している事は無いでしょう。
■湖の湿気が周囲の山波に当たって筋上の雲が出来るとマツダイラさんは言います。でも、高原の雲はびっくりする速さで流れて行くので、あの湖を囲む雲が切れて、シュークリームみたいな形の雲が湖上に浮かんでいる風景の方が青海湖の夏を良く表わすのですが、撮影隊が湖に滞在した数日間では、そんな風景に出会わなかったのかも知れません。残念でしたね。
「19世紀、世界中の探検家が一度は訪れてみたいと憧れた神秘の青海湖」
「世界中の探検家」とは大きく出ましたなあ。チベットには掃いて捨てる(捨てては行けませんが)ほど、本当の神秘の湖が点在していますが、取り立てて青海湖が神秘的だというのも考え物です。画面には自慢のパラ・グライダーを飛ばして水鳥を脅して撮影したシーンが挟み込まれます。あんまり、イタズラしちゃあダメですよ。観光名所の鳥島も撮影しておこうと、撮影隊は青海の道を外れてどんどん湖岸を北上したのが分かります。問題はその場所が、重要な島に最も近い岬になっているという事実なのです。話が核心を外れて妙な信仰話にズレて行きますなあ。
其の九に続く