旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

月刊『文藝春秋』10月号 其の弐

2005-09-13 20:00:14 | 書想(その他)
其の壱の続き

■更に、旅限無は日本を留守にしている間に起こったので、未だに詳細に合点が行かない田中真紀子外相更迭事件に関して、


堺屋 …戦後の内閣は「大臣は辞任するときに官僚の人事を行なってよい」という慣例を守ってきました。大臣は辞めるときに事務次官や局長、官房長を代えることができる。つまり、大臣を辞めさせれば官僚は返り血を浴びるという「刺し違え」の仕組みが互いの抑止力として働いていました。ところが、田中真紀子代務大臣を更迭するに当たって、大臣の意向とは関わりなく、小泉さんが外相と外務省の野上義二事務次官を代えました。つまり、大臣には人事権がなくなったのです。これ以来、官僚の世界に「大臣は“資質がない”という噂を流せばいつでも代えられる」といった考えがまかり通るようになったのです。

真紀子さんが泣いて「鬼の目にも涙」のような茶番劇に仕立てた馬鹿者がいたようですが、そんなに生易しい話ではなく、これ以降、平壌電撃訪問という裏で何が有ったのか今でもさっぱり分からない政治ショーが繰り広げられて、国民は目の前に差し出される包み紙ばかりに気を取られて「純ちゃん人気」が煽られて行ったのではないでしょうかな?

■小泉さんが官僚を喜ばせた例は沢山有るようです。


堺屋 文部官僚だった遠山敦子氏を、選挙も長期の社会評価も経ずに文科省の大臣にしていたこと。実はこの人事も官僚社会をたいへん喜ばせました。…戦前の反省に基づく慣例を、いとも簡単に破ってしまったんです。さらには、その時の事務次官を、間を置かずに中央教育審議会の役員に入れた。これによって、事務次官時代に提案したものを、審議委員として審議するという手前味噌を許すことにもなった。

「ゆとり教育」が出たり引っ込んだりして子供達を大混乱させた元凶がこんな役人の人気取りだったとしたら、開いた口が塞がりませんなあ。一体、小泉さんという政治家はどんな人なのかと思ったら、

堺屋 …小泉さんは意欲と正義感は強いんですが、知識が不足しているので、自分の行動が周囲に及ぼす影響を予測できない。やはり政治家としては、大蔵大臣も官房長官も、党幹事長も経験していないと、人脈が限られてくる。結局官邸に入ってくる秘書官なり官僚の話、特定の評論家たちで構成される「何でも官邸団」の話にしか耳を傾けないようになってしまった(笑)

■小泉さんが大好きだと言い触らしているオペラを考えますと、大方の名作は、筋書きを一言でまとめてしまうと、「そんなバカな」という物ばかりです。それを、人間とも思えない声で歌い上げられると、つい感動してしまうように出来ている芸術です。ワーグナーも好きだと言っているそうですから、思い込みの激しさは想像できますなあ。政治を考える時は素面のままでいてくれれば、趣味は問題ではないのですが、音痴なくせに自分も舞台で歌っている気分になって妙な啖呵調の演説をされたら、聞いている方が恥ずかしくなりますぞ!衆議院解散直後のガリレオ演説に感心した新聞記者が沢山いたそうですから、そんな新聞は要りません!戦前の新聞と何も変っていないじゃないですか?新聞記者も一緒になって酔っ払って記事を書いてしまったらエライことになりますぞ!

■オマケとして、BSE問題で農水省が「全頭検査でないと危険だ」と先に発表してしまったのが間違いで、その後の議論も交渉も出来なくなった事。国連安全保障理事会の常任理事国入りの問題も、国民の大半が「国連の常任理事国入り」の話と混同するように外務省はアナウンスしている事。日米財務相会談で、塩川財務相が不良債権処理加速のために公的資金を活用する方針を発表した直後に、官僚があっさり否定した事。国税庁が戦中の特高警察並みに強権を持っている証拠に、申告前に事前照会しても応じず、国税庁の見解と違っていれば「守秘義務」を破って、マスコミにリークして修正申告を「脱税事件」のように書かせて恐怖を煽っている事などが指摘されている対談です。

■p234の『霞ヶ関コンフィデンシャル』に、ちょっと耳寄りな話が紹介されていますぞ!


「民主党が政権をとったら俺たちはクビになる」総選挙で霞ヶ関の話題をさらったのが、岡田克也民主党代表が掲げた「岡田政権500日プラン」だ。…「脱『官僚政治』」という一項を設けて「局長級以上の幹部職員は、原則として、新政権の政権運営方針への賛同と協力を前提に任命」と記した。つまり、局長級以上の人物は辞表をいったん提出する事が義務づけられる。…総選挙後第一週で「補佐官、総理秘書官、内閣官房及び内閣府の副大臣・副長官の人選」を行い、前政権を支えたスタッフ全員を入れ替えるとした。

但し書きとして、官僚出身の政治家は安易な官僚叩きで人気を得ようとする点も注意されているのですが、小泉さんが役人出身候補を雨後の筍(たけのこ)のように乱立させて見せましたが、小泉さんは現役官僚とは喧嘩しないので、岡田プランが消えて官僚達は祝杯を挙げた事でしょうなあ。

■「郵政民営化法案」に反対した総務省幹部数名を更迭したのが大きく取り上げられたので、小泉さんが官僚と喧嘩しているように見えたのは幻想トリックです。官僚達は小泉さんが大好きです。岡田さんに任せれば日本は大丈夫だ、とはまったく思えませんが、しかし、こんな圧勝を小泉さんにさせてしまっては、これからが大変ですなあ。

其の参に続く
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月刊『文藝春秋』10月号 其の壱

2005-09-13 19:58:55 | 書想(その他)
■何が何やらさっぱり分からないまま選挙に突入する直前に編集された最新号なので、選挙に関係する記事は「どちらが勝つにしても」の但し書きが付いている割には、現実の選挙結果を予期しているような文章が多いような気がします。いくつか注目した記事を引用しながら、選挙を「反省」してみようと思います。

■追求リポート『役人公費40兆円の暗黒大陸』(伊藤惇夫&取材班)は胸が悪くなるような情報が満載で、余程体調が良い時か精神的な余裕が有る時に読んだ方が良いでしょうなあ。本当に腹が立ちます。でも、こんなミミッチイことを大真面目な顔をしてやっているお役人さん達が哀れにも思えます。さてさて、最新号の特集は「9・11総選挙と日本の選択」という論文9本と対談1本で構成されていまして、これは読ませますぞ!中西輝政さんの『宰相小泉が国民に与えた生贄(いけにえ)』というちょっと長い論文は、御専門の英国政治史からロイド・ジョージを引っ張り出して、小泉さんの「刺客選挙」とそっくりな「クーポン選挙」が1918年に実施された顛末を詳細に述べています。後日談まで書かれているので、小泉さんが圧勝したからには、是非目を通しておくべきだと思いますなあ。オチまで書いてしまうと営業妨害になりますから、差し控えますが、さも有りなん、という筋書きが楽しめます。

■同じ特集に入っている東谷暁さんの『郵政民営化の中身は空っぽ』も、自民党に投票した人の中には選挙前に読んでおきたかった!と悔しがる人もいるかも知れない内容です。さてさて、一番のお楽しみが堺屋太一さんと野口悠紀雄さんの対談『族議員死して官僚の高笑い』です。二人とも官僚の悪口となったら自分の体験を通して楽しそうに語るので、小泉さんが何をしたのかを官僚側から解説してくれています。最後は、選挙に勝った政党に、官僚政治打破を望む、という詰まらない締め方なのですが、対談中に出て来る聞き捨てならならにネタを抜き書きしておきます。


p141 
堺屋 戦後日本の社会構造において、この官僚集団を牽制する力を持っていたのは、民間大企業と自民党政治でした。ところがここ数年のうちに、この三者の拮抗状態の中から政治の力が急速に低下している。……

野口 高度成長期に比べて官僚の力が低下した一つの理由は、税制における山中貞則氏のように、専門的知識を持つ政治家が藤蔵したからです。

■小泉時代になって、政治家が重石にならなくなって官僚が好き放題に動き出したという話なのですが、その恐ろしい具体例が出て来ます。


堺屋 90年代には政治主導の改革が進みましたが、小泉内閣はそういった政治家たちを“族議員”という名のもとに駆逐してしまったのです。その結果、残った官僚の独走となり、官僚だけがどんどん力を強化されています。残念ながら小泉さんはそのことに気付いていない。族議員を潰したからいいじゃないか、と思っているはずです。

「族議員」には良い族議員と悪い族議員がいるという事です。しかし、多くのマスコミは水戸黄門の悪代官と同じ扱いで「族議員」を悪者にしていましたなあ。だから、自分が族議員になれなかった小泉さんが、訳知り顔のジイサン連中をばったばったと切り倒すのが痛快に思えたのでしょう。この筋書きを作ったのが、官僚達だったとしたら、これはエライことですぞ!

其の弐に続く
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何を今更、漢字の心配

2005-09-13 07:38:14 | 日本語
■「日本漢字能力検定協会」というのは、世界標準にはなれないままの「英語検定」を真似て旧文部省が作った天下り団体には違いないのですが、学校の外にこんな組織を作っているのが日本の教育問題の深刻さを示しているとも言えますなあ。因みに、旅限無は漢字検定2級を持っていたりします。資格マニアというわけではなく、ちょっとした柵(しがらみ)で受験する必要が生じた事が有りまして、漢検協会推奨の教材など一切買わずにぶっつけ本番で受けたのでした。

漢字能力:大学生は低レベル!?苦手は四字熟語、誤字訂正--正答率4割切る 日本漢字能力検定協会調査

隣人はアイビョウ家▽油のシみ▽ドタンバで逆転。カタカナ部分を正しい漢字で書けますか? 全部、高校卒業程度の漢字です--。財団法人日本漢字能力検定協会が初めて実施した調査で、中学・高校・社会人に比べ、大学生の漢字能力の低いことが分かった。

4~5月、中学・高校・大学・新卒社会人の1年生計8365人にテストを実施した。中学生は小学卒業、高校生は中学卒業、大学生と社会人は高校卒業程度を出題。正答率は中学生が78・5%と最も高く、高校生は59%、社会人は60・7%。大学生は39・8%と目立って低かった。

問いは、漢字の読み書きのほか、部首や対義語など。大学生の正答率が特に悪かった分野は、四字熟語の書き取り(14・5%)、誤字訂正(15%)だった。

大学生の正答率が低かったことについて同協会は「受験用の勉強に偏っているためでは」と分析。「漢字は、一つ一つが意味を持つ世界でも珍しい表意文字。奥深い文化があるので多くの人に楽しんでほしい」としている。(冒頭の問いの答えは、愛猫▽染▽土壇場)【大迫麻記子】毎日新聞 2005年9月12日 東京朝刊

■昔、英語タイプライターの宣伝で、「単語は指で覚える」という当時としてはカッコ良いCMが有りましたなあ。テンポの良い作品で、学生達が次々とブラインド・タッチの動作を思い出して、英単語を正確に覚えている事を示す内容でした。その影響か、旅限無も指の筋肉が鍛えられる安物タイプライターを買ってもらってバチバチと打ったものでした。それが多少は効果を発揮したのか、英語もちょっと使えるようになったようですが、それよりも日本語ワープロが出現した時に、一足先に「ローマ字入力」を習得して大いにタイプライターに感謝したものです。

■さてさて、学年が進むに連れて日本の学生達が漢字能力を低下させている原因は、単に「手で書かなくなるから」です。ですから、小学生からパソコンのキー・ボード操作を教えようと頑張ると、ますます漢字能力は落ちて行きます。携帯メールは漢字を駆逐して、ついには仮名文字も捨てつつあるのですから、漢字検定協会も無用の長物となるでしょう。英語はタイプライターでキーの位置を頼りにして、確かに記憶を定着させることは出来ます。しかし、かなを漢字に変換する便利な日本語ワープロでは、いくら指の動きを覚えても漢字は覚えられません。中国が難行苦行の末に考えた漢字入力システムの中には、漢字の部首を正確に記憶していないと使えない方式が有ります。でも、便利な日本語ワープロでは無理です。暢気に部首検索や総画数検索をしながら漢字を探さない限り、漢字と真剣に付き合う事などないでしょう。

■昔のタイプライターCMの向こうを張って、是非とも、毛筆や硯メーカーに漢字習得を強調した宣伝をして欲しいものです。


「漢字は筆で覚える」

という宣伝コピーで、学生達が漢字テストを受ける時に運筆を思い出して、画像処理して加えた「吹き出し」の中にピカリと光って漢字が現れる。ちょっと、地味でしょうか?でも、漢字はこれ以外に覚える方法が無いのです。漢字は面倒だから書かない、だから、覚えない、分からないから読みたくない、漢字の多い本は敬遠する、だからますます知っている漢字が減って行く、このアホなスパイラルに入り込んだ学生が再生することは無いでしょうなあ。有名大学卒業なのに、仕事で書類を作るのにも漢字が使いこなせない。その内、自分の名前くらいしか漢字で書けない!などという豪の者が現れる、否、もう沢山出現しているのかも知れませんなあ。

■せいぜい、旅限無では漢字を多目に紛れ込ませて、時代に反抗していようと思っております。大切なことは、日本語は漢字の数がそのまま、認識可能な「概念」の数と一致しているという事実です。漢字を少ししか知らないという事は、頭脳が扱える「概念」が少ないという事なのですなあ。そういう人が喋ったり書いたりする言葉は、直ぐに飽きられてしまいますから、意地になって「固有名詞」で時間を稼ぐようになります。そのためには、流行物に関する情報をコマメに仕入れて置かねばなりません。そうすると、カタカナ名前ばかりの商品名や歌手名ばかり覚えるようになりますから、ますます知っている漢字は減って行くのです。嗚呼。


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