「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

蝶生れて風に翻弄されしかな 菅原鬨也 「滝」5月号<飛沫抄>

2015-05-19 04:45:57 | 日記
 自然界の蝶の生存率は卵百個に対して、幼虫は五十頭と
半減し、さなぎは一・六頭、成虫は0・六頭になる。自然
界は虫・鳥など天敵も多く生きることは厳しい結果であっ
た。しかもせっかく生まれても今度は風に翻弄される蝶。
ただ、人間のように戦争に翻弄されることはない。海を越
えるアオスジアゲハは上昇気流を捉えて海を渡る。時には
海へ落ちる時もあるが、海上で休んでまた、飛び出す生命
力。この句をよく考えると本当に翻弄されるのは人間の方
かもしれない。(八島 敏)

春満月ペットショッブの泥鰌浮く 斉藤伸光 「滝」5月号<滝集>

2015-05-18 04:04:30 | 日記
 泉区の将監沼は昔、広くて、そこから流れる水は透きとお
って、白い砂に泥鰌は住んでいた。今は小さな沼となり、黒
い泥。我が家では醤油汁に泥鰌がよく入っていた。魚屋で売
られていたし、泥鰌の躍り食いもあった。コップの水に数匹
の小さい泥鰌がいて、浮き上がってくるところを箸でつまん
で生で食べる。今は観賞用にペットショップで売られている。
満月と泥鰌との取り合わせが良く、浮くが泥鰌を生き生きさ
せている。(八島 敏)

映写機の微かな湿り鳥帰る 鎌形清司 「滝」5月号<滝集>

2015-05-17 04:16:13 | 日記
 紙が湿ってしまうと紙送りが悪くなりプリンターに絡まっ
てしまう時がある。映写機も同じで絡まる心配がある。光源
は強い熱を出すので、風で冷やしている映写機。そこに微か
な湿りを見つけた作者に感心。なお一層、映写機をタイミン
グ良く操作することが求められる。特に、始めの段階。鳥帰
ると直接の関係はないが、無事帰ってくれないかと言ってい
るようでもある。(八島 敏)

呼ぶ声を海は還さず彼岸雪 相馬カツオ 「滝」5月号<滝集>

2015-05-16 05:08:16 | 日記
 震災の句がほんとうに少なくなった。相変わらず仮設の住
まい。高台の造成や災害住宅の建設は進んでいるが、地元に
戻るか決めかねている人もいる。浜には慰霊碑も建ってきて、
そこから呼ぶ声に返事がない。山であれば谺が還っては来る
が、波音だけが聞こえてくる虚しさ。震災四年目の今年も雪
が降った。この句のように呼ぶ声がある限りこの光景は続く。
三月の震災は風化させてはいけないと思う。(八島 敏)

鳥帰る鋏の音の澄みにけり 池田智惠子 「滝」5月号<滝集>

2015-05-15 04:31:14 | 日記
 補聴器の子供に特にうるさく聞こえるのは何かを聞いた時、
掃除の時の移動する机の音と言っていた。補聴器は周りの全
ての音を拾う。人間の耳は騒音の中の話し声を聞き分けるこ
とができる。実に便利。剪定のリズムのよい鋏の音だけが聞
こえる。鳥帰ると直接関係がないが、帰る鳥の後押しをして
いる感じが伝わってきた。(八島 敏)