大好きな桜餅を前にして幸せにひたっている。その最高の
安らぎ、至福のひとときに、長生きが怖ろしいと感じた。中
七下五の「ふと長生きの怖ろしき」から、作者が常に考えて
いる長生きの概念が、「怖ろしい」の二項対立の概念である
「安心」とか「安らぎ」であることがうかがえる。桜餅の存
在に安らぎを思い、それをきっかけに、いつもの考えとは違
う予期しない裏側の感情がわき出た格好だ。唐木順三は「秩
序はそこに無いものがそこに在るというはたらきを要請する
…すなわち架空な造作物の力によって秩序は維持され、すべ
ては心象と言葉の力によってはじめて存続する。秩序は無い
ものを在るとする魔術によって保たれる」と語る。心の秩序
も、必ず表側と裏側の甘苦セットで物事を感受する。桜餅の
存在感が、長生きによる甘苦の双方を味わわせてくれたのだ。
中七「ふと」のはたらきが深い。一般的に用いられるような
意味の不意に、思いがけず、はっきりした理由や意識もない
ままになどを超越している。例えば、風車が回り始めるとき、
少し逆に回りかけてから本来の方向に回り出すものだ。この
「ふと」は句の中で、風車の回り出しと同じように一瞬逆回
転して、力を溜めるはたらきをしている。(石母田星人)
安らぎ、至福のひとときに、長生きが怖ろしいと感じた。中
七下五の「ふと長生きの怖ろしき」から、作者が常に考えて
いる長生きの概念が、「怖ろしい」の二項対立の概念である
「安心」とか「安らぎ」であることがうかがえる。桜餅の存
在に安らぎを思い、それをきっかけに、いつもの考えとは違
う予期しない裏側の感情がわき出た格好だ。唐木順三は「秩
序はそこに無いものがそこに在るというはたらきを要請する
…すなわち架空な造作物の力によって秩序は維持され、すべ
ては心象と言葉の力によってはじめて存続する。秩序は無い
ものを在るとする魔術によって保たれる」と語る。心の秩序
も、必ず表側と裏側の甘苦セットで物事を感受する。桜餅の
存在感が、長生きによる甘苦の双方を味わわせてくれたのだ。
中七「ふと」のはたらきが深い。一般的に用いられるような
意味の不意に、思いがけず、はっきりした理由や意識もない
ままになどを超越している。例えば、風車が回り始めるとき、
少し逆に回りかけてから本来の方向に回り出すものだ。この
「ふと」は句の中で、風車の回り出しと同じように一瞬逆回
転して、力を溜めるはたらきをしている。(石母田星人)