「空間陥没す」を、末黒野の心象的把握と言ってしまえば
簡単。だが、そんな解釈では済まされない魅力的な措辞だ。
地球上の地面や地殻の陥没なら「重力のせいで陥没する」と
言えば分かり易いが、これは空間の陥没。空間が陥没すると
はどんな現象だろう。陥没させる主体は何なのか。探ってい
くと「宇宙空間はゆがんでいる」という一般相対性理論に行
き当たる。物質が存在すると、その周りに重力場が生じ、重
力場の存在する空間は、その重力場の強さに比例してゆがむ。
宇宙空間には大小さまざまな物質が存在するので、当然、空
間は大なり小なりゆがんでいる。物質の大きさ次第では陥没
状態にもなり得る。地球上の地面や地殻の陥没と同じで、空
間の場合も重力のせいで陥没する。ここまでを頭に入れてあ
らためて掲句を読むと、輝きだした星々の存在が浮かび上が
ってくる。作者は末黒野の原始的な風景の中に立ち、体内に
飛び込んでくる星の光に思いを致していた。原始時代いや地
球誕生よりもっと遠い昔に、遠くで放たれた星の光が、こう
してやっと今わが体内に届いてくれた。陥没してゆがんだ宇
宙空間の内も進んできたはずだ。直進したくても、曲がった
空間の中を進まざるを得なかったのだろう。作者は焼野の真
っ黒な景色に触発されて星の光の出立を思い、体内に届いた
その輝きに、宇宙空間での行程を察知したのだ。末黒野も陥
没した空間を進んできた星の光も虚実の「実」。この句は決
して心象風景ではない。「空間」の一語を抽象的な言葉と読
んで、味わうことを放棄したらきっと後悔する。それほどの
一句だ。(石母田星人)
簡単。だが、そんな解釈では済まされない魅力的な措辞だ。
地球上の地面や地殻の陥没なら「重力のせいで陥没する」と
言えば分かり易いが、これは空間の陥没。空間が陥没すると
はどんな現象だろう。陥没させる主体は何なのか。探ってい
くと「宇宙空間はゆがんでいる」という一般相対性理論に行
き当たる。物質が存在すると、その周りに重力場が生じ、重
力場の存在する空間は、その重力場の強さに比例してゆがむ。
宇宙空間には大小さまざまな物質が存在するので、当然、空
間は大なり小なりゆがんでいる。物質の大きさ次第では陥没
状態にもなり得る。地球上の地面や地殻の陥没と同じで、空
間の場合も重力のせいで陥没する。ここまでを頭に入れてあ
らためて掲句を読むと、輝きだした星々の存在が浮かび上が
ってくる。作者は末黒野の原始的な風景の中に立ち、体内に
飛び込んでくる星の光に思いを致していた。原始時代いや地
球誕生よりもっと遠い昔に、遠くで放たれた星の光が、こう
してやっと今わが体内に届いてくれた。陥没してゆがんだ宇
宙空間の内も進んできたはずだ。直進したくても、曲がった
空間の中を進まざるを得なかったのだろう。作者は焼野の真
っ黒な景色に触発されて星の光の出立を思い、体内に届いた
その輝きに、宇宙空間での行程を察知したのだ。末黒野も陥
没した空間を進んできた星の光も虚実の「実」。この句は決
して心象風景ではない。「空間」の一語を抽象的な言葉と読
んで、味わうことを放棄したらきっと後悔する。それほどの
一句だ。(石母田星人)