「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

はくれんに月蝕の闇迫りけり 鈴木三山 「滝」5月号<瀑声集>

2015-05-13 04:00:13 | 日記
 今年四月四日の月蝕は、部分を経て午後九時前後の十二分
間に皆既状態になった。東北の南部地方はちょうど桜の開花
時期で、春爛漫のスイッチが押される頃合い。白木蓮や梅、
辛夷、連翹などは咲き誇っていた。夜空に薄雲がかかってい
たものの皆既の赤銅色の月を十分に観望できた。この時季の
皆既月蝕は珍しい。この次に、はくれんと皆既月蝕が重なる
のは十七年後になる。この句、「月蝕の闇」が新鮮だ。光度
としては日蝕の闇の反対。見つめれば見つめるほど見えなく
なる。簡明直截な表現だが、はくれんと同化した作者が見え
る。「変身」ということではなく気持ちをのせているのだ。
今まさに月蝕の闇という光を、天上から浴びせられようとし
ている。はくれんのさまは、沈思黙考の悟りに至る姿勢なの
かも知れない。空間での往還を平明自在に表現して、己の心
情を静謐に投影させた宇宙感覚を持つ一句だ。また、「迫る」
の進行形の動詞から、はくれんの野性、感性にも思いが及ぶ。
(石母田星人)