今年四月四日の月蝕は、部分を経て午後九時前後の十二分
間に皆既状態になった。東北の南部地方はちょうど桜の開花
時期で、春爛漫のスイッチが押される頃合い。白木蓮や梅、
辛夷、連翹などは咲き誇っていた。夜空に薄雲がかかってい
たものの皆既の赤銅色の月を十分に観望できた。この時季の
皆既月蝕は珍しい。この次に、はくれんと皆既月蝕が重なる
のは十七年後になる。この句、「月蝕の闇」が新鮮だ。光度
としては日蝕の闇の反対。見つめれば見つめるほど見えなく
なる。簡明直截な表現だが、はくれんと同化した作者が見え
る。「変身」ということではなく気持ちをのせているのだ。
今まさに月蝕の闇という光を、天上から浴びせられようとし
ている。はくれんのさまは、沈思黙考の悟りに至る姿勢なの
かも知れない。空間での往還を平明自在に表現して、己の心
情を静謐に投影させた宇宙感覚を持つ一句だ。また、「迫る」
の進行形の動詞から、はくれんの野性、感性にも思いが及ぶ。
(石母田星人)
間に皆既状態になった。東北の南部地方はちょうど桜の開花
時期で、春爛漫のスイッチが押される頃合い。白木蓮や梅、
辛夷、連翹などは咲き誇っていた。夜空に薄雲がかかってい
たものの皆既の赤銅色の月を十分に観望できた。この時季の
皆既月蝕は珍しい。この次に、はくれんと皆既月蝕が重なる
のは十七年後になる。この句、「月蝕の闇」が新鮮だ。光度
としては日蝕の闇の反対。見つめれば見つめるほど見えなく
なる。簡明直截な表現だが、はくれんと同化した作者が見え
る。「変身」ということではなく気持ちをのせているのだ。
今まさに月蝕の闇という光を、天上から浴びせられようとし
ている。はくれんのさまは、沈思黙考の悟りに至る姿勢なの
かも知れない。空間での往還を平明自在に表現して、己の心
情を静謐に投影させた宇宙感覚を持つ一句だ。また、「迫る」
の進行形の動詞から、はくれんの野性、感性にも思いが及ぶ。
(石母田星人)