「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

風紋に遊ぶ母子や放哉忌 渡辺登美子 「滝」6月号<滝集>

2013-06-25 04:20:40 | 日記
 「風紋」には鳥取が思われ、尾崎放哉の生誕の地である。種
田山頭火らと並び自由律俳句の著名な俳人の一人であるが、41
歳で亡くなりその晩年は
「咳をしても一人 尾崎放哉」
と、寂しいものだった。遊ぶ親子は放哉親子の在りし日の
幻想のように思えた。
4月7日は、東日本大震災の、本震に負けず劣らずの余震が
あった日でもありますね。(H)

くっきりと比良の残雪ダージリン 中川浩子 「滝」6月号<滝集>

2013-06-24 05:21:48 | 日記
 残雪の美しい比良山系がくっきりと見えています。もしか
したら湖にその姿を映しているのかもしれません。桜が咲い
ているかもしれません。きっとそんな景色でしょう。香り高
いダージリンティーを飲みながら、ゆったりのんびり春を感
じているカフェのテーブルには、ぐい飲みほどのガラス器に
野の花が挿してあって、低くピアノ曲が流れている。そんな
感じでしょうか。撮影カメラが人の目になって景色を映し、
ナレーションが登場人物の心を語っている。そして場面は回
想シーンへ・・・。そんな物語の伏在を感じます。(H)

スポイトの一滴の艶さへずれり 木下あきら 「滝」6月号<滝集>

2013-06-23 05:14:58 | 日記
 「囀」は繁殖期にオスがなわばり宣言と、メスの獲得のた
めの鳴き声である。しかし、カラスが木の実をアスファルト
に落したり、路上に置いて車に割らせる等の知恵を持ってい
ることは知られているが、感情の世界があることはあまり知
られていない。私も鳩には感情があると確信したことがある。
以前、二、三日マンションを留守にした時のこと、ベランダ
の棕櫚箒を即席の巣にし卵を抱いていたのである。鳩のフン
公害が騒がれていたこともあり、鳩のいない間に三つの卵を
階下にずり落した。戻ってきた鳩は、しばらくうらめしそう
な目でじっと部屋の中をにらんでいたのには、親鳥の心情も
わかるので、さすがに後ろめたかった。ところが数日後、そ
れまで部屋のガラス戸を開けておいても入ってこなかった鳩
が、留守の間に畳みやステレオの上にフンをしていったこと
には驚かされ、咄嗟に鳩に仕返しをされたと思った。
 俄雨のあと、太陽が射しはじめると、鳥たちはいっせいに
喜びを謳歌する情緒的な面が見られると、動物の専門家の間
でいわれはじめているとか・・・。
 掲句は、囀と光がつながっている一瞬を、的確にとらえて
詠んでいる。(遠藤玲子)

卵焼ふんはりたたむ春怒濤 及川原作 「滝」6月号<滝集>

2013-06-22 04:57:34 | 日記
 だし巻き卵でしょうか。三回くらいに分けて「ジュッ」と
溶き卵を入れて、半熟になったら、ふんわりと三つ折りにた
たんで手前に寄せて、次の卵液を入れることを繰り返して出
来上がる卵焼き。岩壁に寄せる怒濤も春めいて・・・。寄せ
る両方に「母」の見える句ですね。今朝は私も玉子焼きを作
りましょう。我が家はちょっとお砂糖が多めの卵焼きです。
(H)

トランスのかすかな唸り別れ霜 鈴木幸子 「滝」6月号<滝集>

2013-06-21 04:54:56 | 日記
 まだ家族が起きだすまで間がある朝の窓。別れ霜に農作物
の心配をしながらも「これでいよいよ春が終わる」という、
過ぎ去る春に対する、心残りのような気持ちが含まれている
のでしょう。かすかに唸っているというトランスは柱上変圧
器でしょうか。各家庭に電気を送っていて、コンセントを差
せば電気製品が動きますが、その家電の多くにトランスが入
っていて、必要な電圧に変換しています。その運転音でしょ
うか。「変えるもの」と「変わるもの」の配合が巧みですね。(H)