「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

春眠や鳥獣戯画に迷ひ込む 清野やす 「滝」5月号<滝集>

2013-06-01 03:57:28 | 日記
「春眠」の季語は、作者の感性が重視され、人事句の中で
も発想の把握の独創が難しいとある。春眠の例句に
「金の輪の春の眠りにはひりけり 高浜虚子」
「春眠や金の柩に四肢氷らせ 三橋鷹女」
があるが、どちらも金色を連想している。しかし、掲句は、
鳥獣戯画という墨一色の描線で描かれた白描画に迷い込んだ
のである。心地よい眠りが、白いイメージの幻想とあいまっ
て、独創性に富む秀句となった。
 鳥獣戯画は、いうまでもないが、京都高山寺に伝わる四巻
からなる絵巻物であり、猿・兎・蛙などの遊びを擬人的に描
いた国宝であり、日本最古の漫画とも称されている。(遠藤玲子)


春眠や鳥獣戯画に迷ひ込む 清野やす
「滝」5月号<滝集>
鳥羽僧正の作と伝えられる「鳥獣人物戯画」は、甲・乙巻に
猿・兎・蛙などの動物が擬人化され、<禁じ手「耳カジリ」の
あと兎を投げ飛ばした蛙力士。大喜びする蛙たち。>は切手に
もなっていて有名だ。丙巻には、さまざまな遊びに興じている
人々、丁巻には曲芸、流鏑馬などの催し、法事などが描かれて
いる全四巻の白描の絵巻物。詠まれたのは空想的な動物を含め
て70匹近い鳥獣が人間もどきに描かれた鳥獣の巻。作者が「兎
と蛙の相撲」を観戦して拍手などしている様子が見えるようで
す。現実離れした絵空事は「春眠」だからこそ趣を共有できる
のだと、その連想と技巧を尊敬する。(H)