「亀鳴く」は、鳴きもしない亀が鳴いているという架空の
現象を、ひとつの約束として楽しむ俳諧上の趣向。近頃どの
俳誌も雑誌もこの季語を使った句がやたらに目立つ。幻想と
いう前提があるので、取り合わせとして周りの何を持ってき
ても一句になるということなのだろうか。亀鳴くと些事では
何の新味もない。そんな風潮の中にあってこの句はいい。新
しさと俳味を十分兼ね備えている。よく福祉施設などに置い
てある「きょうのあなたの脳年齢が分かります」という装置
の前に座っている作者。タッチパネル画面上に出てくる数字
を順に触れていくと現在の脳年齢が分かるという優れものだ。
作者は脳年齢がすぐに測定できる装置があることに大変驚い
たのだろう。その「びっくり」が、季語「亀鳴く」の前提と
してある架空の現象と近く、呼応する。特に判定を待ってい
る下五の「測定中」がいい。タッチパネル上にこれから表示
されるだろう驚きの結果をわくわく、どきどきしながら待っ
ている。注目したいのはパネルを操作したあとの作者の指。
いくつかの質問に答えたり、数字を早押ししたりしてパネル
上を離れた指は、日常、絶対することのないこわばった形を
している。パネル画面に何かあればすぐにまた触れられるよ
うに、用意しながら緊張しているのだ。測定結果の表示を一
番待っているのは、目から情報収集する視覚ではなく、触覚
を司る指なのだ。(石母田星人)
現象を、ひとつの約束として楽しむ俳諧上の趣向。近頃どの
俳誌も雑誌もこの季語を使った句がやたらに目立つ。幻想と
いう前提があるので、取り合わせとして周りの何を持ってき
ても一句になるということなのだろうか。亀鳴くと些事では
何の新味もない。そんな風潮の中にあってこの句はいい。新
しさと俳味を十分兼ね備えている。よく福祉施設などに置い
てある「きょうのあなたの脳年齢が分かります」という装置
の前に座っている作者。タッチパネル画面上に出てくる数字
を順に触れていくと現在の脳年齢が分かるという優れものだ。
作者は脳年齢がすぐに測定できる装置があることに大変驚い
たのだろう。その「びっくり」が、季語「亀鳴く」の前提と
してある架空の現象と近く、呼応する。特に判定を待ってい
る下五の「測定中」がいい。タッチパネル上にこれから表示
されるだろう驚きの結果をわくわく、どきどきしながら待っ
ている。注目したいのはパネルを操作したあとの作者の指。
いくつかの質問に答えたり、数字を早押ししたりしてパネル
上を離れた指は、日常、絶対することのないこわばった形を
している。パネル画面に何かあればすぐにまた触れられるよ
うに、用意しながら緊張しているのだ。測定結果の表示を一
番待っているのは、目から情報収集する視覚ではなく、触覚
を司る指なのだ。(石母田星人)