「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

亀鳴くや脳年齢の測定中 鈴木清子 「滝」6月号<瀑声集>

2015-06-12 04:52:12 | 日記
 「亀鳴く」は、鳴きもしない亀が鳴いているという架空の
現象を、ひとつの約束として楽しむ俳諧上の趣向。近頃どの
俳誌も雑誌もこの季語を使った句がやたらに目立つ。幻想と
いう前提があるので、取り合わせとして周りの何を持ってき
ても一句になるということなのだろうか。亀鳴くと些事では
何の新味もない。そんな風潮の中にあってこの句はいい。新
しさと俳味を十分兼ね備えている。よく福祉施設などに置い
てある「きょうのあなたの脳年齢が分かります」という装置
の前に座っている作者。タッチパネル画面上に出てくる数字
を順に触れていくと現在の脳年齢が分かるという優れものだ。
作者は脳年齢がすぐに測定できる装置があることに大変驚い
たのだろう。その「びっくり」が、季語「亀鳴く」の前提と
してある架空の現象と近く、呼応する。特に判定を待ってい
る下五の「測定中」がいい。タッチパネル上にこれから表示
されるだろう驚きの結果をわくわく、どきどきしながら待っ
ている。注目したいのはパネルを操作したあとの作者の指。
いくつかの質問に答えたり、数字を早押ししたりしてパネル
上を離れた指は、日常、絶対することのないこわばった形を
している。パネル画面に何かあればすぐにまた触れられるよ
うに、用意しながら緊張しているのだ。測定結果の表示を一
番待っているのは、目から情報収集する視覚ではなく、触覚
を司る指なのだ。(石母田星人)