「滝」の俳句~私の心に見えたもの

220728 佐々木博子(「滝」瀬音集・渓流集・瀑声集 推薦作品より)

木の枝を透かして春のうしかひ座 鈴木三山 「滝」4月号<滝集>

2015-04-25 04:31:34 | 日記
 作者がこしらえた野菜を頂戴したことがある。プロの作った
野菜には上質な甘みがあり、さすがにものが違うと感じた。精
魂込めて作られるこれら上等な作物も、クマ、シカ、サル、カ
ラスなどの野生鳥獣に狙われたらひとたまりもない。「うしか
ひ座」(牛飼座)は春の星座の代表格で、主星は「熊の番人」
という意味を持つアルクトゥールス。オレンジの光を放つ一等
星だ。ギリシャ神話には、うしかい座の巨人が、そばに位置す
るりょうけん座の猟犬二匹を引いて、その隣のおおぐま座の熊
を追いかけている姿とある。神話の時代でも熊は忌み嫌われて
いたようだ。作者は偶然、うしかい座を見つけたのではない。
「木の枝を透かして」の言葉から、少しの間、首を回して熊の
番人を捜天したことがうかがえる。下句「春のうしかひ座」の
ゆったりと余裕のある詠みは、捜しあてた安堵感から生まれた
もの。悪さばかりするおおぐま座の熊を、オレンジの光で威嚇
するうしかい座の巨人に祈りを捧げて、今年も作物の成長と無
事を願う。(石母田星人)