徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:今野敏著、『時空の巫女 新装版』(ハルキ文庫)

2022年11月05日 | 書評ー小説:作者カ行

1998年の作品である『時空の巫女』は、核爆発と核の冬の予知夢を見る超能力者たちと彼らの研究並びに地球滅亡を防ぐ方法を探ろうとする研究者、親会社の社長直々の命令で現場に戻って新人アイドル発掘に奔走する原盤製作会社社長の飯島、そしてかつてネパールの生き神様「クマリ」だったチアキ・チェス、予知能力があると思われるAVに出演していた池沢ちあきの2人の「チアキ」たちが織りなす「SF風世紀末ミステリー」と呼べるような作品です。
普通の人間は時間が一定方向にしか流れていないように認識していますが、人が何かを選択するたびに世界が分かれて行くというパラレル・ワールドを示唆する量子物理学の理論があり、4次元のいわば「神」の視点から見れば過去も現在も未来もたくさんのバージョンが同時に存在しているという時空の考え方に着想を得た作品の世界観は、SF的であると同時に宗教的です。
今野敏の警察小説やハードボイルド小説のファンには受けが悪いのではないかと思われる小難しい世界観で、人知れず世界滅亡の危機を未然に防ぐストーリーです。
私は著者の神秘的・宗教的な作品もSFもわりと好きなので、違和感なく完読できました。エンターテインメントとしては平均的な作品という印象を受けました。スケールが大きいストーリーであるがゆえに、キャラクターの深掘りが不十分で、後の作品群と比べると登場人物たちの魅力が乏しいように思えました。作者も若かった、ということでしょうか。


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