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書評:今野敏著、『潜入捜査 〈新装版〉』シリーズ全6巻(実業之日本社)

2022年11月10日 | 書評ー小説:作者カ行

今野敏の警察小説の原点とも言える『潜入捜査』シリーズは1991~1995年にアクションもののひとつとして書かれました。著者本人は警察小説を書きたかったものの、当時そのような需要があまりなかったのだとか。
警視庁のマル暴刑事・佐伯涼は、情け容赦のない実力行使で裏世界の恨みを買っていたのですが、突然の異動命令が下り、警察手帖と拳銃を返上した上で「環境犯罪研究所」という環境庁の外郭団体へ出向せよという。
同研究所は所長の内村と秘書の白石、そして佐伯を加えてたったの3人。環境犯罪を取り締まる法整備が整うまでの暫定措置だという。
内村は省庁を跨いで異動した異例の経歴を持つキャリア官僚で、「官僚は国をよくするために働くべきだ」という理想を実践する食えない人物。後の隠蔽捜査の竜崎の原型キャラだそうです。
一方、佐伯涼は大化の改新で蘇我入鹿の暗殺に携わった佐伯連の直系子孫に当たり、佐伯家には代々武術「佐伯流活法」が伝えられている。祖父は暗殺を生業としていた。父は武術教室を営んでいたものの、過去に暗殺に関わったことがあり、それをかぎつけたヤクザに用心棒として雇われ、抗争の中で命を落とした。母は血液の癌にかかって入院していたが、父の死亡後は治療を続けられずに退院して病死。佐伯涼は親戚に育てられた。
その血筋とマル暴刑事としての無茶ぶりを承知の上で内村は佐伯涼を指名したのだった。
一方、白石の方は母方が葛城家で、先祖が佐伯連と共謀して入鹿暗殺をし、その後隼人などの先住民族の統括役を担っていたという。
この二人の血筋が因縁めいていて、なにかミラクルな謎が隠されているような印象を受けますが、その点はたいして深掘りされないまま放置されてシリーズ完結となるので、今一つ腑に落ちないキャラ設定の1つです。

さて、第一弾では佐伯は暴力団による産業廃棄物不法投棄事件の渦中に単身潜入、殲滅戦を挑みます。
アクション描写が詳細過ぎるのと、ご先祖様の謎の設定の説明にいささかページ数が割かれ過ぎのため、あまりすっきりとは読めない作品です。
しかし、筆致に勢いがあり、環境犯罪に対する怒り、暴力団に対する怒りが描写だけではなく、行間からも溢れてくる渾身の作品という感じがします。



拳銃なし、警察手帳なしの元マル暴刑事・佐伯涼が環境犯罪に立ち向かうべくマレーシアへ。
日本の商社が出資した、マレーシアの採掘所の周辺住民が白血病に倒れ、反公害運動が活発化。反公害運動封じ込めのため、暴力的な見せしめを住民に行なう日本のヤクザに佐伯涼が対抗します。ヤクザの見せしめ行為が残虐を極めていて、読むのが辛い部分です。
佐伯の古代拳法を活かしたヤクザとの戦闘シーンの描写は非常に詳細で躍動感に溢れており、今野敏らしさがフルに発揮されていますが、ちょっと詳しすぎるかなと思わなくもありません。


密猟、密漁、密輸――
千葉で漁師が殺害されるが、事件として報道されることはなかった。佐伯は警察が秘匿する理由を察知。魚の密漁、野鳥の密猟、ランの密輸……脱法行為の背後にいるのは佐伯の宿敵・坂東連合傘下の艮(うしとら)組。姑息な経済ヤクザたちに佐伯は果敢に立ち向かいます。


小学校に不法投棄された使い捨て注射器で、子供がB型肝炎に感染。廃棄物回収業者の責任を追及する教師の家族にヤクザが襲いかかる。長男は自動車事故、高校生の長女は監禁、強姦、教師は命を奪われてしまう。平凡な一家がヤクザのせいで一気に地獄へ落とされる展開に佐伯涼の怒りが爆発し、罪深いヤクザを潰しに行きます。
 


原子力発電所で事故が発生し、外国人不法就労者が死亡。だが所管省庁や電力会社も、労働力を不法供給する暴力団を使って隠蔽工作に走る。佐伯が迎えうつのは、今までにない敵、国家と原発だった。さらに彼の前に、中国拳法を操る無敵のヤクザが立ちはだかり、かなりの苦戦を強いられることになります。
著者自身の原発とそれを取り巻く闇に対する怒りがかなり強く反映されている作品です。



これまでいくつもの坂東連合傘下の組を潰してきた佐伯涼ですが、最終話では、この連合を束ねる毛利谷一家と直接対峙することになります。
廃棄物の不法投棄で摘発された解体業者・保津間興産は、毛利谷一家の企業舎弟。一方、融資で毛利谷一家と揉めていた銀行の支店長が射殺された。事件の背後には、暴力団によるテロ・ネットワークの存在があり、その中心が保津間興産だった。そこへ潜入した元マル暴刑事・佐伯涼の身元が割れ、報復の罠が仕掛けられるものの、佐伯の元同僚と現在の上司がいい働きをします。
暫定措置だった「環境犯罪研究所」は解散に。佐伯は普通の警察官に戻れる?



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