福田の雑記帖

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医療事故、医事紛争は何故減らないか?(7) 対話欠如を救った「アイムソーリー」法

2011年02月09日 05時29分50秒 | 医療、医学
 大戦が終わって半世紀も経つのに、わが国の首相はアジア各地を訪問した際に未だに大戦中のことを謝罪し続けている。謝罪国家である。その是非は別にしても両国の対話はその言葉から始まると言う効果はあるようである。日本では実生活においても何かが生じると、瞬時に「すみません・・」と言う。「失礼・・」と言う人もいるが、言われないよりは良いが、気分は晴れない。「すみません」が持つ意義は大きい。謝罪文化といわれる日本特有の姿をし出しているようにみえる。非があったとき、まずは謝罪しないと解決策も見出せない。

 一方、訴訟社会と言われる米国ではトラブルがあった際に、謝ったら罪を認めたことになり、莫大な賠償請求されるから軽々には誤らない、と信じられて来た。ところが謝罪の言葉はは心のわだかまりを溶かす強い力を持っている、と米国でも理解されはじめ、変化が起きている。

 米国で最近「アイムソーリー」法案と呼ばれる法律が成立した。
 発端は1974年にマサチューセッツ州で、白転車に乗った16歳の少女が車にはねられ死亡した。州上院議員だった父親は、どんなに頼んでも相手が謝罪してくれないことに憤慨し、こんなことでは社会生活が立ちゆかない、と過ちを犯した者が「すみません」とか「申し訳ありませんでした」と謝罪しても、それが法廷では証拠として採用されない、という内容の「アイムソーリ」法案を提出し、長い審議の末1986年に立法化された。この法案は、徐々に全米各地に、とりわけ医療ミスの訴訟に悩む医師達に評価され広がって行く。

 1999年の報告書では、全米で年間9.8万人も医療ミスで死亡している。訴訟社会の米国の医師たちのほぼすべてが少なくとも数件の訴訟を抱えているとされ、莫大な訴訟費用や損害賠償、精神的苦痛に苛まれ、収入の20-30%を損害賠償保険会社に支払っているという。これは看護師も同様らしい。
 医療ミスが発生した時点からあとの裁判対策のために、言葉をかけることすら出来ず、患者や家族と医療関係者との間には殆ど対話が交わされなり、患者側の要求はエスカレートしていく。実際には互いの弁護士が解決にあたるが、賠償額は高額になると言う。ミスをしてしまったなら、せめて患者、家族に謝罪したい、気持ちを伝えたい、患者側に過程を説明したい、と言うのが人情である。それが出来なかったのだ。

 それが「アイムソーリ」法の普及で変化が起こった。ミシガン大学の調査によれば、2001年には262件あった医療ミスに関連訴訟が2007年には83件と減少した。「アイムソーリ」法で医師ばかりでなく、患者の家族も精神的に救われ、このことでトラブルに発展を未然に防いたため、と評価されている。
 2009年現在、アメリカでは35州でこの法が制定され、さらにカナダの各州でも法制化が進んでいる。

 謝るべき時は素直に謝ったほうが良い。その後の、関係がスムーズにいく。私は医師会の役員の時に種々の苦情対策やトラブル対策に対応してきたが、小さなミスが大きなトラブルに進展するか否かは医師と患者・家族の対話の際の最初の一分間で決まる、と言うのが実感である。
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2 コメント

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医療事故・医事紛争が頻発する社会で何が必要ですか? (三上努)
2011-02-10 15:46:35
医療事故・医事紛争をリスクとしてとらえた時、リスク軽減の方策としては、モンスターペイシェントの対応手法を研究することだと考えます。「モンスターペイシェント」という用語が出てきた事自体、今の世の中は、そういう身勝手な社会になってしまったということを認めざるお得ません。善意として提供した医療者に暴言や暴力を浴びせる社会は悲しい実情ですが、対応手法を確立し、少しでも医事紛争に発展しないよう防御することが必要なのではないでしょうか。
一方、リスクを保有することを認め、医療関係者が安心して仕事に従事する環境整備として、無過失保障制度の充実した社会保障制度を創ることだと考えます。これには、税金が投入されますから国民のコンセンサスを得るために、国そして医療関係団体と医事法関係者にご検討をいただかなければなりません。
福島県立大野病院産科医逮捕事件で医療崩壊が一時叫ばれましたが、とても難しい問題だと思います。ただ、国民一人一人が考えなければいけない事件だと思います。
Unknown (福田)
2011-03-10 05:52:44
 コメント有り難うございます。
 リスク軽減の方策としてモンスターペイシェントの対応手法を研究すること、医療に包含される不確実性、リスクについての認識の共有、無過失保障制度の充実した社会保障制度を創ることは重要と私も思います。
 それ以前に重要なのは、医学の進歩、高齢化、在院日数短縮、高効率を求められるなど、医療を取り巻く環境が大きく変わって医療関係者の労働密度が緻密になっていく中、マンパワーの増員が殆どなされない事はにもあると考えます。

 どんな状態でも安全文化の醸成、教育、マニュアルなどの重要性は否定しませんが、根本はマンパワー不足と考えます。

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