わ! かった陶芸 (明窓窯)

 作陶や技術的方法、疑問、質問など陶芸全般 
 特に電動轆轤技法、各種装飾方法、釉薬などについてお話します。

質問 34 大物の蓋物の「ヒビと割れ」について

2018-05-14 14:45:07 | 質問、問い合わせ、相談事
(よし) 様より 以下の質問をお受けしましたので、当方なりの見解を述べたいと思います。

 大物の蓋物について。 はじめまして。

半磁器で35㎝程の蓋物を作っているのですが、乾燥時のひび、素焼き後の割れに悩まされて

います。水挽きの際底は拳で叩いています。水挽き後亀板から外せるまで3~4日そのまま乾燥

させ(上部にはラップしています)その後石膏の上に移し完全に乾燥する前に合わせ目、高台、

蓋の上部分を削り上下合わせた状態で完全に乾燥せるのですが、削りが終わった後蓋の上部に

円にそってひびが入ります。

乾燥のむら防止にシート被せてみたりするのですが、素焼き後縦に割れていたりします。

別々に完全に乾燥させてから削った方がいいのでしょうか?


 ◎ 明窓窯より

上記質問内容を整理すると、以下の様になります。

1) 直径35㎝程の蓋物を半磁器土で、轆轤挽きで作っているのが、乾燥時のひび、素焼き

  後の割れに悩まされています。(焼き上がりが直径30cm程度になります)

2) 亀板上で制作するが、底割れを防ぐ為に、底は拳で叩いている。

3) 轆轤挽き後、亀板上で3~4日そのまま乾燥させる。(上部にはラップしています)

4) 亀板から外せる程に乾燥したら、石膏の上に移し、合わせ目、高台、蓋の上部分を削る

 削りが終わった後、蓋をした状態で更に乾燥させると、蓋の上部に円に沿ってひびが入り

 ます。乾燥のむら防止にシート被せてみたりするのですが、素焼き後縦に割れていたり

 します。

5) 「割れやヒビ」は、蓋の上部に円に沿って入り、素焼き後縦に割れていたりします。

6) 別々に完全に乾燥させてから削った方がいいのでしょうか?


「ヒビや割れ」は、素地が縮む事が一番大きな原因です。当然大物の作品程縮む量は大きく

 なりますので、「ヒビや割れ」が発生する確立は高くなります。縮む事は粘土類の宿命で

 すので、止める事は出来ません。

 問題解決には、制作過程(轆轤作業が適正か?)、乾燥、削り(肉厚)、焼成過程に何ら

 かの原因が有ると思われます。その他、素地の選び方や、作品の形に付いても検討する

 必要があります。今回の相談から、蓋物の本体(器)側には、問題が無い様に思われます

 ① 制作過程(轆轤作業が適正か?)

  蓋は大皿と同様の方法で作るのが一般的です。亀板の中央に素地を載せ、拳固で強く

  叩き土を締めます。

  ⅰ) 底の肉厚はどの程度ですか?

   蓋物の場合、摘み(つまみ)が有る物と無い物に分かれます。即ち無い場合は、

   本体器より若干大きな径にし、蓋の端を両手で持ち上げる様にします。摘みがある

   場合は、削り出しか、後付方法になります。当然削り出すには、摘みの高さに合わ

   せて、底の肉厚を厚くとる必要があります。底の肉厚を厚くした場合、例え拳固で

   叩いても、土が絞まり不足に成る可能性も有ります。後付けの場合は、肉厚を薄く

   する事が出来ますが、摘みの接着時に問題が発生する恐れがあります。

  ⅱ) 亀板に接する部分の面積も、ヒビ割れに関係し重要です。

   蓋の形状に応じて上記面積は変化します。即ち深皿状態であれば、面積は狭くなり

   ますが浅皿状態であれば、面積を広く取る必要があります。面積を狭く取ると、

   縁が落ちてしまいます。当然広く取れば削り量も多くなり、乾燥も遅く、ヒビ割れ

   の危険性も増します。

  ⅲ) 底の周囲と亀板が接する部分は、竹ヘラで大きく面取りします。

   この作業を怠ると、乾燥と共に放射状のヒビが発生します。即ち底の周辺の肉薄い

   部分から収縮が始まり底の中心に伸びて行きます。竹へらでこの肉薄部分を剥ぎ取り、

   周辺からの乾燥を防ぎます。この作業は蓋の形状が完成する前に行うとやり易いです

   後からだと竹へらの入れるスペースが狭くなり、やり難くなります。

   轆轤作業終了時には、底の内側の水分はスポンジ等で吸い取ります。これを怠ると

   底割れが起こります。底中央部に縦に入りますので、容易に確認できます。

  ⅳ) 作品はできるだけ速く、糸を入れて亀板から切り離す事が大切です。

   質問では、亀板から取り上げるタイミングに付いては記されていますが、切り離す

   タイミングに付いての記述がありません。糸を入れても作品の形が崩れない程度に

   乾燥したら、糸を入れて亀板から切り離します。但し、亀板から取り上げるのは、

   もっと後にします。亀板上に長く放置すると、底の部分の乾燥に斑(むら)が出来

   ヒビ割れの原因になります。

   更に、乾燥が進むと切り離し自体が困難になります。糸を早めに入れる事で少し

   でも空気に触れさせる事が出来ます。

 ② 乾燥過程

  亀板上で3~4日そのまま乾燥させる(上部にはラップしています)と記載されてい

  ますが、長くても1日以内で乾燥を終了すべきと考えます。ヒビ割れの予防の処置と

  思われますが、逆にヒビ割れの原因に成っている可能性もあります。作品の肉厚にも

  よりますが、一般には一晩室内で放置すれば、削れる程度乾燥します。

  上部にはラップを掛ける事も好ましくありません。長時間素地に水分が留まり、

  素地そのものが「フヤケル」事になり、素地の強度が落ちます。夏場など乾燥が速く

  進む場合には、強く絞った布や乾いた布を被せて作品上部(蓋の場合は下側)の乾燥

  を若干遅くします。濡れた新聞紙でも良い。

  石膏に移す意味がいまいち不明です。乾燥を早めるのが狙いと思いますが、石膏上

  では乾燥が速過ぎ、「ヒビ割れ」が逆に発生し易くなると思われます。あくまでも

  自然乾燥が理想です。

  亀板から剥がすには、作品の縁周辺が、別の板を置いても変形しない程度の時に行い

  ます。別の板を置き、亀板とサンドイッチ状にして、天地を逆にして別の板に移し変

  えます。この状態で底を乾かします。口周辺の乾燥が進んでいる時には、乾いた布で

  鉢巻にします。乾燥は直射日光や風等を当てない様にします。

 ③ 削り作業

  素地に半磁器土を使っているのは、磁器風に仕上げたいからですか? 即ち、薄く軽く

  作るのが目標に成っているか、綺麗な絵付けをしたい為ですか?

  肉厚が極端に薄い場合や厚い場合にヒビや割れは発生し易いです。又局部的に厚みに

  差がある(偏肉)場合にも発生しや易いです。薄い場合にはその部分が急激に収縮し、

  厚い場合には、その部分の乾燥が遅く、周囲から引っ張られ股裂き状態になります。

  特に摘みの周辺は、削り出しでも後付けでも、偏肉になり易いです。当然摘みの形状に

  よって偏肉の度合いが違います。今回は大きな蓋で重量もありますので、かなり大きな

  摘みが必要になります。土鍋の蓋の様な撥高台風か、茶道の水指の蓋の様に握る部分が

  太くなるかも知れません。どの様な摘みであっても、削り出し方式は得策ではありま

  せん。出来れば後付け方式が好ましい結果を生むと思われます。当然蓋本体と摘み部分

  は別に作り、両方同じ程度に乾燥させ接着します。余談ですが、近頃あまり見掛けなく

  なりましたが、昔より蓋の付いた大きな甕(かめ)が作られていました。その蓋の摘み

  の形状は、弓なりにした紐状の土を、蓋の頂上に後付けで接着しています。

  この方法であれば、偏肉に成る事は防げます。

 ④ 削り後に「蓋をした状態で更に乾燥させる」とありますが、この方法もお勧めでき

  ません。完全に乾燥する前に蓋をしてしまうと、内部の湿り気は取れません。

  更に内部と外側の乾燥度合いも大きく異なる為、作品全体にストレスが掛、割れなど

  の原因になります。別々に乾燥させる事です。乾燥の狂いが心配でこの様な仕方を

  する物と思われますが、普通に乾燥させればそれ程の狂いは生じません。

 ⑤ 素焼きの仕方

  素焼き前にヒビや割れが無い場合には、素焼きしても失敗する事は少ないです。

  但し、本体(器)に蓋をした状態で素焼きをしてはいけません。必ず別々にして素焼き

  します。その際、蓋は別の作品に寄り掛かる様にし、水平にして焼かない事です。

  水平にした方がヒビや割れが入り易くなります。立て掛けたからといって、十分乾燥

  させた作品では、形状が狂う事はほとんどありません。

 ⑥ 結論。

  「割れやヒビ」の発生する原因は多肢に渡ります。特に轆轤挽きした作品の場合、

  ヒビや割れの状態及び発生した場所によって、その原因が判る場合があります。

  ⅰ) 底割れの場合。器の底中央に一文字又は、弱い「S字]状に入ります。内外に

   貫通する時と内側のみの場合があります。これは土の締めが甘い場合と、轆轤

   挽き終了時に、器の底の水分をしっかり取り除かった為です。

  ⅱ) 高台(今回は摘み部分)の内外と本体が接する部分に、円弧状のヒビ等が

   入るのは、削り過ぎで肉が薄過ぎる為で、乾燥が部分的に早く進む事と、高台

   が上部の重みを支え切れないのが原因です。更に、摘み部分が巨大であれば、

   重量も増し下部で支えられない場合も起こりえます。

   摘み部分の形状と重み等も検討して下さい。

  ⅲ) 底周辺から中央に放射状にヒビ等が入るのは、底周辺が肉薄になり、中央部

   より早く乾燥し収縮するからです。底周辺に竹へらを入れ、肉薄部分を剥ぎ取り

   ます。

  ⅳ) 口縁周辺より底に向かって縦方向に割れが入る場合は、肉が薄過ぎる良きや、

   仕上げ後のなめし皮で撫でる際、十分拭ききれず土の締めが甘い為です。

  ⅳ) 比較的少ない事例ですが、背の高い作品や、胴体が太い作品では、本体中央

   部に縦又は真横方向に割れが発生する場合があります。これは作品の上部の重量

   を下部が支え切れない場合に起こり易いです。

   下部を極端に肉薄くせず、算盤玉の様に極端な「くの字」状にしない事です。

  ⅴ) 長々と述べて来ましたが、基本的な事は、乾燥の際部分的に早い処と遅い処

   を出さない事です。その為には、出来るだけ偏肉を無くす、均一に乾燥させる。

   乾燥に時間を掛け過ぎたり、短過ぎない様にする。その他、土は良く叩き締める。

   作品の傷は早めに補修する事です。一度付けた傷は、乾燥と共に広がります。

   乾燥が進んでからの補修は巧くいきません。

 ⑥ 別々に完全に乾燥させてから削った方がいいのでしょうか?

  磁器土の場合には、乾燥後に削り作業を行う事も多いのですが、半磁器の場合

  少ない様です。何より削り難くなるからです。又素地は乾燥するに従い、粘りが

  無くなり脆く(もろく)くなります。その為、新たな危険性も発生します。

  出来れば、今の状態で行う事を薦めます。


以上、今回の問い合わせでは、実際の割れ状態を確認できていませんので、当て推量で

述べています。それ故、的を射た答えに成っていない可能性も大きいですが、参考にし

て頂ければ有り難いです。

   
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大皿の本焼での割れについて (さく)
2022-06-28 12:53:15
こんにちは
いつもためになる記事をありがとうございます。
大変勉強になります。

さて、タイトルの通り、先日ガス窯で還元焼成で焼いた大皿(直径40㎝)が、本焼きで底割れしてしまいました。高台内側が、高台付近に沿って、4分の3ほど円弧上に割れています。厚みは4㎜ほど。

こちらの記事では、素焼前後の原因が掛かれておりますが、今回、素焼時点で割れは見当たらず、本焼きでぱっくり割れてしまいましたので、焼き方に原因があるのかと思いました。

黄土に3号透明釉をかけ、還元焼成。窯の大きさは0・2立米。
950℃~1150℃の間還元でその後1240℃まで中性~酸化です。尚、熱電対は窯の手前中央にさしています。
焼成が原因だとしたら、心当たりとして、いつもの最高温度は1230℃あたりなのですが、今回10℃高くなってしまったこと、中性の間に急に上がってしまったこと(1時間で100℃)、です。

本焼の仕方で割れることはあるのでしょうか。

ご返答いただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
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