人気ミステリー作家の東野圭吾さんの最新作「魔力の胎動」を読み終えました。
この単行本「魔力の胎動」は、2018年3月23日に出版社のKADOKAWAが上梓したものです。価格は1500円+消費税です。
東京都心部の大手書店では、この単行本「魔力の胎動」は今でも平積みされているヒット作です。
この単行本「魔力の胎動」は、第一章「あの風に向かって跳べ」から第四章の「どの道でまよっていようとも」までが「小説 野生時代」に発表された短編をまとめて単行本にしたものです。
そして、第五章「魔力の胎動」が今回の単行本向けに書き下ろされた短編です。この第五章はくせ者です。第一章から第四章までは、楽しい読み物です。第五章はその意味がよく分かりません。
さて、第一章から第四章までの各章の案内役は、鍼灸師(しんきゅうし)の工藤ナユタという中年の男性です。この鍼灸師の患者であるスポーツ選手などを巡るミステリーです。
そして真の主人公は、開明大学医学部の羽原という天才脳科学者の娘の円華(まどか)という10代の娘です。
第一章では、スキーのジャンプ選手の坂屋幸広さんがやや年齢が上がり、若い時のようにはいいジャンプができなくなったと悩む話しです。案内役の工藤ナユタは、スキージャンプ選手の坂屋幸広さんの身体に、針を打って勤続疲労をとるように努めます。
この章では、スキーのジャンプ選手はジャンプ台に上がりスタートを待つ際に、そのジャンプ台に吹き付ける風などを読んで、コーチがジャンプ開始の合図を送るため、コーチは飛翔距離が伸びる上昇気流の風が吹くタイミングを読むと解説します。
天才的な流体解析能力を持つ羽原円華は、コーチに代わって、ジャンプ開始の合図を送る役目を志願します。突然乱入した若い娘の言うことを信用できず、スキーのベテランジャンプ選手の坂屋幸広は戸惑います。
ジャンプ競技の大会が始まり、ジャンプ台の周囲の風が予測できない状況になりますが、スキージャンプ選手の坂屋幸広さんに今、スタートしろという合図を送ります。
この合図のおかげで、坂屋幸広さんはジャンプの飛行中に上昇気流の風を受けて素晴らしい飛翔記録を出します。実は、この時にジャンプの飛び出しの合図を送ったのは、坂屋幸広さんの愛妻でした。
ジャンプ台の周囲の気流の流れを読み取り、「実際にはその踏切は運任せになる」と読んだ円華の判断でした。悔いがないジャンプを跳んでもらう考えでした。
第二章の「この手で魔球を」が小話としては一番面白いです。プロ野球投手の石黒投手は軌道の予測ができない魔球のナックルを武器にしています。
問題は、この魔球を捕手するキャッチャーでした。これまでナックルを捕球してきた中年のキャッチャーが引退することになり、大型捕手との評判でドラフトで採用した新人の石黒捕手は、このナックルが捕球できません。
話は進んで、投げたナックルがつくる気流の流れが読みとれる羽原円華は、アザをつくりながらも捕球できようになります。
羽原円華は「自信を持って、ナックルを捕球するように」と、石黒捕手に伝えます。石黒捕手は捕球直前にミットを動かすことが、ナックルを捕球できない原因でした。そして紆余曲折(うよきょくせつ)があって、捕球できるようになります。
さて、この天才的な流体解析の達人の羽原円華には、桐宮女子というお目付役の女性とボディーガード役の男性がついて、何かから守られています(この謎は解明されません)。なかなかの重要人物推して、守られている謎の若い女性です。
第一章から第四章までの各章の事実上の主人公は、この羽原円華で、不思議な結果を招く少女です。まなり魅力的な少女です。
さて、今回の書き下ろしの第五章には、この羽原円華は登場しません。これが最大の謎です。どうしてと感じます。
第五章は前作の単行本「ラプラスの魔女」の舞台となったJ県の灰堀温泉村での硫化水素ガスによる中毒死が関連しています。今回はD県の赤熊温泉で、冬の降雪時に同様の硫化水素ガスによる中毒死が起こったようです。
主人公は、環境分析化学の研究者である青江修介です。彼は、硫化水素ガスによる中毒死の危険個所などの分析を始めます・・
ある書評には、この第五章は、現在映画が公開されている「ラプラスの魔女」に注目を集めるための短編ではないかとうわさされています。
この第五章の狙いは謎のままです。これが最大のミステリー作品です。